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生存遊戯  作者: 田田田
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俺、サバゲーの存在を知る。


「121円のお返しとなります。ありがとうございました。」

お釣りを受け取った客が店を出ていく。コンビニでごく普通の風景である。日本全国どこのコンビニでも普通に見る光景だろう。1年前の3月に大学の法学部を卒業した高野亮太はコンビニでレジを打っていた。去年の3月に大学を卒業した人間がコンビニで働いているのは別に、コンビニを経営している会社に就職したからでもなく、就職活動に失敗したからでもなく、就職はしたがその就職先がブラック企業だったために速攻で退社したからでもない。ただ、単に将来にやりたいことを見いだせず就職する気が無かったからである。しかし、一人暮らしをしている以上は金が必要になってくるのでバイトは続けている状態だ。簡単に言ってしまえばフリーターである。

生甲斐や趣味も無く、ただ生活費を稼ぐためにバイトをしている。辛いとは感じた事が無い。休憩中、バックヤードでホットドッグを食べている俺に店長は「高野君、接客時の表情は良いのだけどさそうでない時の表情を見ていると、なんか、こう、生きるのに疲れた感が漂っているのだよね。趣味とかないの?人生楽しまなきゃ。」と

時々言ってくる。

「趣味ですか?それといってないですけど、バイト終わって帰宅後に寝る前に観る録画していた深夜アニメぐらいが今の楽しみですね。」

ホットドッグを食べ終え入っていた袋をゴミ箱に捨てながら答えた。ついでに緩んでいたスニーカーの左(因みに利き足)靴ひもを結び直した。

「生きるのに疲れたとも感じていませんし、辛いとも思っていません。」

「そうなの?高野君がそう感じているのなら良いのだけれど・・・。もし、もしも、生きるのが辛いと感じたら相談してくれ。」

そんなことは来ないだろうなと感じながら「はい。」と返事をした。

まだ、休憩時間は残っている。店長はシフト終わりで帰宅した。バックヤードには俺一人。中学も高校も帰宅部だったし、大学もサークルに入らず今のバイト先のコンビニでバイトに明け暮れていた。就職もしなかった為、半ば勘当で家を追い出された為に始めた一人暮らしも思っていたよりも楽しい。学生時代のバイト目的は、お小遣い目的が主だったが今は生活費である。ちょいと金に余裕があるので何か始めてはみようかと思い始めていたのには間違いない。腕組みをしながら思った。

「趣味ね・・・・・・。」

 休憩も終わりレジに戻るとフリーター歴3年の萩原さんがレジ袋の補充をしながら俺に聞いてきた。

「ねえ、高野君。さっき、バックヤードで店長と何を話していたの?」

「あぁ、さっきですか?趣味があるかないかについて話していたんですよ。」

「趣味に関する話か。私はサイクリングかな。私ね、大学生の時に卒業に必要な単位を3年生までで取ったから4年生の時は就活せず自転車で日本一周の旅してた。両親は放任主義だったし結構自由だったよ。」

右頬を右人差し指で軽く掻きながらヘヘッと彼女は言った。

「高野君、君はまだ若いのだから何か始めてみなさいな。」と言い加えた。

「い、いや、萩原さんも充分若いですよ。」

と言うと、何故か彼女は顔を赤らめた。一体、何なのだろうか?

俺のバイトが上がり、帰る支度をしていると萩原さんが「さっきのサービス。お姉さんの奢り。」と言いながら、弁当と500mlのペットボトルのお茶を渡した。さっきの?俺は萩原さんに何をしたのだろう。お礼を言いつつ、店を出ながら「食費が浮いた。」と思いつつ夜道を歩き帰路についた。

 「ただいま。」

夜の公園で大学生共が酒を飲みながらたむろっているのを横目に見ながら帰宅し誰もいない(当たり前だ。一人暮らししているのだから。)部屋に明かりを付けた。風呂に入り、後は録画していた深夜アニメを2話ほど見て寝よう。明日は日曜日で早朝の4時からシフトだから寝るというよりは仮眠に近いが寝ないと身が持たない。

「お休み。といっても、寝るのは4時間ほどか。」

アニメを観終わりテレビの電源を消し、自分しかいない空間でお休みを言い眠りについた。

 スマホのアラームで目が覚めた。まだ、外は暗い。

「んーっ。こんな時間か。バイトに行きますかね。」

身支度を整えバイトに向かう。大学を卒業してから1年ほど早朝出勤を続けているが意外に苦ではない。夜から朝へと移り行く時間に外を歩くのは自分だけの世界感を味わうことが出来て思いのほか楽しい。公園の前を通ると、まだいた。酒を飲みながらたむろっていた大学生の集団がまだいた。空き缶は空き缶、つまみの入っていた袋はつまみの入っていた袋とそれぞれレジ袋に分けて入れてあったレジ袋のロゴが見えた。バイト先のコンビニのロゴだった。

 「おはようございます。」

店内に入り、タイムカードを押し夜勤の人引き継いで俺の日曜日のバイトが始まった。

早朝といっても、客はそれなりにやってくる。朝帰りや、近所の豆腐屋の人や近所の高校で宿直の先生などである。最近、早朝に来る客に新たな層が加わったことに高野は気が付いた。

(・・・・・・、そういや、最近というかここ1,2年で目の目の前にいるような客が増えたな。)

どんな客かというと、服装はいたって普通の服装なのだが背にはギターケースのような黒いのを背負った客が複数人のグループで来るようになった。買っていく物も2ℓの飲料水のペットボトル数本とおにぎりを数個買っていくグループがほとんどだ。(一体どんな客なんだ?これからどこに行くのだろう。)と不思議に思いながら、品出しやレジ打ちをしながら彼らの話に耳を傾けてみると彼らからは

「定例会」「ヒット」「サバゲー」

の単語を含んだ会話が聞こえてきた。どうやら彼らはこれから「サバゲー」というものに行くらしいことが判明した。サバゲーとは一体何なのだろうか。そんなことを頭に思い浮かべながら休憩時間まで品出しと床清掃、外のゴミ整理をした。先程の集団客は車で乗り合わせて来たようだった。車で店前の駐車場を出る前に彼らの内の一人がこう行った。

「では、フィールドへ行きましょう。」

どうやら、サバゲーはフィールドでやるらしいことが判明した。

 休憩中、スマホでサバゲーについて検索してみると、

サバゲーとは主にエアソフトガンとBB弾を使って行う戦闘を模す日本発祥の遊び、あるいは競技のことである。

ということが分かった。次にエアソフトガンがどんなのであるかについて調べてみた。すると、検索結果には映画やゲームやテレビで見たことのある銃が出てきた。

「まあ、名前にガンって付くからには銃ってことはある程度予想はしていたけど、見た目まんまだな。」

と正直に高野は思った。店長がやって来た。

「おはよう、高野君。何を見てるんだい?エロ画像?」

タイムカードを押しながらニヤニヤしつつ聞いてきた。俺は、「何言ってるんだ?このオッサン。」って感じで軽く店長を見て「おはようございます。」と言った。

「何を言ってるんですか。エロ画像じゃないですよ。」

「じゃ、何を見ているんだい。」

「サバゲーについて調べてるんですよ。店長、知ってます?サバゲー。」

とスマホに目線を戻しながら俺は言った。

「最近、バラエティー番組で芸人がやってると言っているのを聞いた事ぐらいしかないなサバゲーって。てか何で、サバゲーについて調べていたんだい?興味出も持ったのかい。」

「店長が来る2時間ほど前に、ギターケースのような黒いのを背負った集団客がやってきまして、彼らが『定例会』『ヒット』『サバゲー』って単語を含んだ会話をしていたんですよ。それで気になったんですよ。サバゲーってのに。」

すると店長は言った。

「君が何かに興味を持ってくれて嬉しいよ。この際、始めてみたら?」

「ま、今度の休みにでもサバゲー用品を取り扱っている店に行ってみます。さっき調べたらここから近い街ですと、秋葉原に数店舗あるようですし。見るだけでも。」

「あぁ、行っておいで。」

店長との話も終わりバックヤードから店内に出ようとすると、入れ替わりに萩原さんが入って来た。

「おはよう。高野君。私はこれから休憩だよ。じゃあね。」

店長と萩原さんが、さっき俺と店長とで軽く話していたサバゲーについて「サバゲーって最近、芸能人でやってる人がいるってのを聞いた事があります。」程度の会話をし始めた。俺はテレビをほとんど観ないし、観るといっても録画していたアニメを観る程度でそれ以外で観るものと言ったら、天気予報とニュースとスポーツ中継程度である。

 時刻は午後六時になった。俺のバイトのシフトも後一時間で終わる。

「いらっしゃいませ。」

自動ドアが開き、客が数人入って来た。何と、早朝集団で来たサバゲーに行った客達が再び来たのだった。

「いやー、今日の定例会は参加者数が多かったですな。そのおかげかヒットも沢山取ることが出来ましたがその分、弾の消費が凄かった。」

と話す客もいれば、

「私は、前日の雨で地面がぬかるんでいたせいで足を取られ転んでしまい装備が泥まみれになってしまったでござる。シャワーの設備があって良かったでござるよ。」

と言いながら、炭酸飲料を手に取るのもいた。

レジを打ちながら俺はその客に思い切って聞いてみた。

「お客さん、早朝も来てましたよね?その時、聞こえてしまったのですが「サバゲー」ってどうですか?休憩中にスマホで調べてみたのですが少し興味が出てきたんですよ。」

とレジ袋に炭酸飲料とアイスを入れ、お釣りを渡しながら言った。すると、メガネをかけたラガーマンの様なマッチョな男がメガネをクイッとさせて言ってきた。

「店員さん、サバゲーに興味があると言いましたね。素晴らしい。だったら、今度、店員さんが休みの日に秋葉原にあるこの店に行くと良いですよ。」

と言いながら、秋葉原にあるという店のチラシを一枚くれた。

「ありがとうございます。では今度の休みに行ってみますね。」

「いつか店員さんとどこかのフィールドで会えると良いですね。」

と言い、客は店を出て行った。外はもう暗くなっていた。

 帰宅後、明日は休みなの夜更かしできると思いながらパソコンでバイトの休憩中は観なかったサバゲーの動画を動画サイトで一つ観てみた。するとどうだろう。画面には、本物の軍人や自衛隊の様な格好をした人たちや、銃が全く出てこないアニメのキャラのコスプレをしている人達が映っていた。その人たちが森林を駆け回り、撃ちあっているのであった。

明日、店で詳しく店員さんに聞けばいいか。と思いながら俺は寝た。



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