その1
初投稿です。温かい目でご覧ください
始まりは一つのスレッドだった。
「九州地方なのに8県しかない件」
生まれては消えるスレッドの中でも特に消えやすいネタ枠、馬鹿馬鹿しいの一言で済まされるような一文。その一文が国の一大事を引き起こすことになるとは誰も知る由もなかった。
1:おかしくね
2:そこに気付くとは天才か・・・
3:うはwwwなんかヤバそうwww
4:>>1
お前・・・消されるぞ
「そんなわけで、これ、調査してきて」
朝10時、部長に呼ばれパソコンの画面を見せられこんなことを言われたら諸君はどう反応するだろう。部長と仲が良くツッコミ気質な人ならば「いやいや、どういうことですか」と返すだろう。もしくはノリツッコミの一つでも入れるのだろうか。生真面目なエリート様なら「分かりました」の一言で自分の席に戻り作業し始めるのだろう。どちらでもない平凡な俺はこう答えた。
「はあ・・・?」
なんとも間抜けな返事である。下手をしたらばかにしているととられかねない返答。だが、目の前の部長は察しの悪い部下の精一杯の反応ととらえたようで
「だから、今回の記事、これにするから、適当にまとめて原稿よろしく」
と先の文で省略していたであろう重要な部分を付け足した。
「あっ、はい」
やはり間の抜けた返事である。人間突然のことには素の部分が出るというがまさにその通りである。間抜けで平凡が俺なのだ。そんなどうでもいいワンクッションを挟み、やっと部長が言った今回の記事の意味を理解した俺である。
「えっ、カコツケの三面これにするんですか?」
カコツケとはうちが出版している週刊誌のことであり、三面とはこの週刊誌に入っている『カコツケの三面記事』というコーナーのことである。
「そう、こんなもんばっかでしょ、そのコーナー」
「そりゃそうですけど・・・」
「どうでもいいからさ、さっさとやっといて、これ」
このカコツケの三面記事というのは、どうでもいい話やガセネタに適当な解釈を加えて真っ当な話のようにしたり壮大なものにしたりといういわゆるおふざけコーナーである。カコツケという週刊誌の特集や一般記事は真面目に取材したものが掲載されているが、三面は適当な取材と飛躍した謎理論で書かれている。
このコーナー、それなりに人気があるようで読者のほとんどがこのコーナー目当てである。ゆえにカコツケというタイトルも相まってこの週刊誌、一般人のイメージは「笑わせてくれるガセネタ誌」である。熱心に取材しているやつからすればこの上なく迷惑で、まさに目の上のたんこぶといったものである。
このコーナーのせいで自分たちの取材が正しい評価を受けない。しかしコーナーを潰せば廃刊になるのは目に見えている。大した努力もないくせに人気、こんな鬱蒼とした苛立ちはどこへ向かうか。
そう、担当者である俺だ。この部長のぶっきらぼうな口調はその表れである。
「はい、分かりました・・・」
気のない返事を残して俺は自分の席へ戻った。パソコンとちょっとしたファイルしかない閑散とした机。取材資料が所狭しと積まれたほかのデスクとの違いは一目瞭然である。
「はぁ」
ため息一つ、目線を落としてうなだれた後、俺は席を立って取材の準備に取り掛かる。今回はどんな雑な記事にしようか、そんなことを考えながら重々しく寂れた廊下を歩く。