第84話:誰が為に鐘は鳴る4
リアース歴3236年 9の月29日17時半。
あれからどうやってエターナの町まで帰って来たのか、所々しか覚えていない。
センバさんが中心となって動いていたのは覚えている。
ニコルちゃんはケビンの遺体を抱きしてひたすら泣いていた。
アイシャはそのニコルを抱きしめていた
ベレットは・・・あまり覚えていない。
俺とレミオンはずっと放心状態だった。
人の死を看取るのは本当に辛い。
前世の愛子を看取った時もかなり辛かったっけ・・・
「ご苦労だったな皆!」
「「「「「有難う御座います!」」」」」
ベルクーリさんは悲痛な顔をしながら俺達に声を掛けて来た。
ニコルちゃん以外の皆は返事をする。
ニコルちゃんはケビンの遺体から引き離されて放心状態となっていた。
「事情はセンバから聞いた・・・ケビンは・・・残念だったな・・・」
「「「「「・・・」」」」」
「ケビンの遺体は、今火葬をして貰っている」
「え!」
ニコルちゃんがピクリと反応する。
「兄を・・・兄を焼いているの?止めて・・・止めて~~~!」
半狂乱となるニコルちゃん。
「落ち着いてニコル!落ち着くの!」
「だってお姉様!兄が・・・お兄ちゃんが居なくなっちゃう!」
「落ち着きなさい!」
パシン!
冒険者ギルド内に大きな乾いた音が鳴り響く。
アイシャがニコルちゃんの頬を打ったのだ。
「お・お姉様!」
「良くお聞きなさいニコル!お兄さんは・・・ケビン君は死んでしまったのよ!」
「ウ・・・ウゥゥゥゥゥ~!」
ニコルちゃんは泣き崩れる。
俺達男性陣はそれを黙って見つめているしか出来なかった。
「ケビン君をあのままにして置く事は出来ないの。
あのまま放置していたらケビン君が可哀想よ。
ケビン君を楽にしてあげましょう」
「お兄ちゃんを楽に?」
「そうよ!お腹に穴の空いたままじゃ痛くて可哀想でしょ?」
「でも、焼いたら熱いよ・・・」
「それは一瞬の事!ず~っと穴の空いたまま痛々しいよりは、綺麗に焼いて灰になって、それから風に乗って空を気ままに飛んで貰った方が良いと思わない?
きっとケビン君ならそれを望むはずよ!」
「お兄ちゃんが望む・・・」
「そう!それでもニコルは嫌?」
「・・・」
ニコルちゃんは黙ったまま首を振った。
どうやら落ち着きを取り戻した様だ。
流石、アイシャだ!
エターナの聖女様は伊達じゃないな。
「19時には焼き終わるはずだ。
明日の朝にでもケビンの灰を正門の上の見張り台から皆で飛ばしてやろう。
ケビンも喜ぶはずだ!」
ニコルちゃんが落ち着いたところを見計らってベルクーリさんが再び話す。
この世界は遺体をお墓に埋葬すると云う風習がない。
全てを灰にして高い所から風に乗せてばら撒くのだ。
御霊は灰と共に風に乗って自由となり、いずれ天に召されるそうだ。
「きっとそうですね!ニコルもそう思うでしょ?」
「う・うん!」
ベルクーリさんの提案に笑顔で答えるアイシャ。
サラッとニコルちゃんの承諾も得る。
アイシャには敵わないなと思ったよ。
灰になったケビンが入っている木箱を持って、何時もの冒険者ギルド前の居酒屋で酒を飲む俺達。
ベルクーリさんやケビンと親しかった人達もケビンを惜しんで集まってくれている。
この町の冒険者は皆良い人ばかりだ。
ケビンとの最後の別れの酒。
皆、無口で酒を飲み続ける。
酔えない!こんなに飲んでいるのに酔えないなんて初めてだ。
酒の量が増えて行く。
「ルーク、夫婦共にDランクになったのだから、すぐに念願だった旅に出るのかい?」
レミオンが寂しそうに俺に聞いて来た。
実は先ほど、ベルクーリさんからDランクに昇格したと聞いた。
見習いのニコルちゃん以外、全員Dランクに昇格したのだ。
「旅の準備が出来次第・・・かな」
俺はグビっとエールを一気に飲む。
「そっか・・・実は俺達もすぐに実家の海洋都市エドナに帰ろうと思っているんだ」
「ニコルちゃんも連れてか?」
「あぁ、勿論。実はそれが目的なんだけどね・・・」
「何故と聞いても良いかな?」
「勿論さ。このままニコルちゃんに冒険者を続けさせる訳には行かないと思った・・・彼女にはもう危険な事をさせてはいけないだ」
「ふむ!」
「僕の実家は男3兄弟でさ・・・僕は3男で政略結婚させられるの嫌で実家から逃げて来たんだ。
だけど前々から戻って来いと再三言われていてね・・・だから実家に戻る条件とし丁度良いと思ってね」
「条件?」
「そう、条件。母は娘が欲しかったとずっと愚痴を言い続けていてね・・・ニコルを養女として妹にして貰えるなら実家に戻っても良いってね」
「そうか・・・でもそれで本当に良いのか?お前自身を犠牲にしていないか?」
「ケビンの・・・大事な友の妹だからね・・・僕にとっても妹みたいなもんだ。
だからこれで良いんだよ。後悔はしないさ!」
「お前がそれで良いなら俺はもう何も言わんさ。まぁ、その方が俺も安心だしな!」
「有難う・・だから君とももうすぐお別れだ!」
「そうだな・・・」
レミオンは右手を出して来る。
握手かな?
「君とケビンは僕にとって初めての対等な友人だった。僕にはそれが嬉しかった。
ケビンは・・・ケビンはもう居なくなってしまったけど、君とは将来友であって欲しい。
だから握手をして欲しいんだ!」
「分かった!握手をしよう」
「有難う!」
「お礼を言うのは俺の方さ。実は俺も対等の友人が(前世を通じて)初めてだったんだ。
確かにケビンは居なくなってしまったけど、お前との友情は永遠だ。
嫌、3人の友情は永遠だ。そうだろレミオン!」
「そうだね。僕達3人は永遠の友だ!」
俺とレミオンはガッチリと握手をする。
「二人だけで盛り上がっちゃってさ。ここに居る皆が永遠の友じゃないのかしら?」
アイシャがここで突っ込みを入れて来る。
周りを見渡すと居酒屋にいる皆が俺とレミオンを見ている。
アイシャがニタニタとしているよ。
うわ~、すっげぇ恥ずかしいわ!
俺とレミオンは皆から弄られる。
場に笑いが起こり出した。
お通夜の様なしんみりと雰囲気よりこの方が良いかもしれないな。
ケビンは陽気な奴だった。
笑ってアイツを送り出してやろう。
ケビン、それでいいだろ?
俺達は次の日の朝まで冗談を交えながらケビンとの思いでに浸って酒を飲んだ。
酔えない酒をず~っと・・・
翌朝9時少し前。
ケビンの灰を持った俺達6人とベルクーリさんは正門の上に建つ見張り台に立っていた。
今日は快晴で風もそこそこ強い。
灰を撒くには丁度良い風であろう。
「「「さ・寒い!」」」
「本当に寒いわね!」
「うん!」
「キュキュ~!」
(寒いよ~!)
「・・・」
俺とレミオン、ベレットが震えながら声を揃えて言った。
アイシャ、ニコルちゃんがそれに答える。
イナリは寒さで俺の懐に隠れてしまった。
センバさんはいつも通り無口で頷く。
「さぁ、ケビンの灰を撒いて上げよう!御霊を自由にして上げようじゃないか」
ベルクーリさんが優しい顔で皆に言う。
「「「「「「ハイ!」」」」」」
「さぁ、ニコル!代表してケビン君に最後のお別れの言葉をしてあげて」
ニコルちゃんの隣りにいるアイシャが優しく声を掛ける。
ニコルちゃんはアイシャを見つめて頷く。
ニコルちゃんはス~っと息を吸い込んで・・・
「お兄ちゃんの~バ~~カ~~~!」
ニコルちゃんは大声叫ぶ。
これは流石に皆がギョっとした。
死者に鞭を打つ行為っすよ。
「バカ兄はお調子者で、脳筋で、言い出したら止まらなくて、女の人に弱くて、スケベで、本当にどうしようもないバカ兄だけど・・・私には一番優しくて、正義感があって・・・頼りになって・・・カッコ良くて・・・私はそんなお兄ちゃんが大好きだったよ!」
何時の間にか涙が流れ、嗚咽混じりになるニコルちゃん。
俺達はそれを黙って聞いている。
「生意気な妹で、我がまま妹でゴメンね。
今まで本当に有難う!
お兄ちゃんの事は忘れないよ・・・絶対に忘れない。
私はお兄ちゃんの分まで生きるから・・・だから安心してね。
安心して空に飛び立って良いからね。
さようならお兄ちゃん!・・・私の大好きなバカ兄!」
全てを言い終えたニコルちゃんは、皆に小分けして渡してあったケビンの灰が入った袋から灰を取り出して空に向かって放った。
俺達もそれに続き、次々とケビンの灰を空に放つ。
ケビンの灰が風に流れて散って行く・・・
(永遠の友ケビンよ、お前の事は忘れねぇ。安らかに眠れ!)
「ゴーーーン!ゴーーーン!ゴーーーン!・・・」
その時、9時を知らせる鐘が鳴った。
「9時を知らせる鐘か!」
ベレットがボソリと言う。
「違うわ!これはバカ兄を送る鐘よ!」
ニコルちゃんが自信たっぷりに言う。
その顔は何だかとても晴れやかであった。
見惚れてしまうほど、とても綺麗だった・・・
次回で3章のラストです。
次回『第85話:もう一つの別れ』をお楽しみに~^^ノ




