第83話:誰が為に鐘は鳴る3
リアース歴3236年 9の月29日14時前。
満身創痍のゾアスパイダーの激しい抵抗が続いた。
俺達の方もゾアスパイダーに接近して戦っているケビンやセンバさん、ベレットが傷だらけで頑張ってくれている。
後でヒールを掛けて上げるからもう少し頑張ってくれ。
遠距離から攻撃する他のメンバーは怪我こそないが、精霊術で攻撃をしている俺とレミオンは魔力の消耗による疲労が見え、弓で攻撃をしているアイシャのニコルは女の子故の体力のなさで疲労困憊である。
「皆、後もう少しだ!頑張るんだ~」
「「「「おぉ!」」」」
ケビンが皆に発破を掛ける。
皆の気力が上がる。
流石、自称リーダー!
良い働きをするぜ。
ゾアスパイダーの動きが鈍って来た。
もう少しだ。
「一気に畳み掛けるぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
各々がありったけの力を振り絞って戦う。
ゾアスパイダーの脚の攻撃も脅威でなくなって来たので、俺は刀を抜いて奴の懐に飛び込む。
脚を切り飛ばし、お腹を刺す。
返り血を浴びたが気にしない。
ここで奴の息の根を止めるんだ!
俺はひたすら刀を振り回す。
ゾアスパイダーの怒りに満ちていた赤い目が色を失って行く。
目が灰色の様になり光が消えた。
僅かに残っていた脚も力尽きて地面で動かなくなった。
ゾアスパイダーはピクリともしなくなった。
「やったぞ~!」
「終わった・・・」
「ふ~!」
「・・・」
「疲れた~」」
「もう動けない・・・」
「私もです・・・」
ケビンが勝利宣言をし、俺、レミオン、センバさん、ベレット、アイシャ、ニコルちゃんは一気に力尽きる。
アイシャとニコルちゃんはその場で座り込んでしまった。
俺もその場で両膝を地面についてしまう。
長かったなぁ・・・もうヘトヘトだよ。
「こいつって何処の素材が高く売れるんだろうな?」
ケビンが足を引きずりながら俺のとこにやって来た。
「さぁ、知らねぇ!」
「そっか~、解体して全部町まで運び込むか?」
「え~、マジで?面倒くせぇ~」
「何所が高く売れるか分からないなら、それしかないじゃんかよ~」
「センバさんにでも聞いてみれば?こいつの事知ってそうだし」
「そうだな!お前よりも頼りになりそうだもんな」
「うっせー!」
「ワハハハハ!」
ケビンはセンバさんの方に振り向いて歩いて行こうとする。
「オイ、待てよ!今、ヒールの術をかけてやるよ」
「お!それはスマンな。助かるぜ」
俺は立ち上がり、ケビンの傷を治すためにヒールの術を掛けようとして、ケビンの腕に触れようとした時・・・
グサっ!
ケビンの身体が揺れた。
な・何が起こったんだ?
ケビンの腹に大きな爪が刺さっている。
な・何でこんなものが?
それはゾアスパイダーの脚の爪だった。
な・何故奴の脚の爪が?
「グハッ!」
ケビンは口から血を吐き出し崩れ落ちる。
俺の目の前で・・・
「ケビーーーーーン!」
俺は崩れかけたケビンの身体を支える。
「「「ケビン!」」」
「ケビン君!」
「お兄ちゃん!」
レミオン、センバさん、ベレット、アイシャ、ニコルちゃんが叫びながら駆け寄って来る。
支えたケビンの腹にまだゾアスパイダーの脚の爪が刺さったままだ。
こいつまだ生きていやがったのか!
「この魔物風情が~~~!」
俺は右手でケビンを支えたまま、左手で脇差を抜いて爪の根元を断ち切る。
断ち切った爪の根元から脚の方の部分は地面に落ちた。
爪の部分だけはまだケビンの腹に刺さっている。
レミオン達の再度の攻撃でゾアスパイダーの息の根を完全に仕留める。
「グハッ!」
ケビンが再び口から血を吐き出す。
「しっかりしろケビン!今、この爪を引き抜いてすぐ治療をしてやるから」
脇差を鞘に納め、左手で残った爪を引き抜こうとする。
しかし、片手ではなかなか抜けない。
「手伝う!」
1番最初に傍まで来てくれたセンバさんが一緒に爪を抜こうと手伝ってくれる。
「行くぞ!」
センバさんの掛け声で一斉に力を入れる。
ズズズと爪が抜ける感触が手に伝わる。
「抜いたらダメだ!」
レミオンとベレットが傍まで来た。
「どうして?」
俺はレミオンを睨みつける。
「抜いてしまったら、ケビンの腹に穴が空いてしまう。それでは身体から内臓が・・・」
よく見ると腹に刺さっている爪は背中まで達して飛び出ている。
気が動転している俺はその事に気付いていなかった。
この爪を抜けばレミオンの言う通りに腹に直系15㎝ほど大きな穴が・・・
「クソーーー!どうすりゃ良いんだよー!」
潰れてしまった内臓はヒールでもたぶん直らない。
欠損してしまった部分はどう足掻いても無理なのだ。
「ケビン君!」
「お兄ちゃん!しっかりお兄ちゃん!」
アイシャとニコルちゃんがようやく傍まで辿り着いた。
ニコルちゃんが俺の反対側からケビンを抱きしめる。
「お姉様!ルーク様!お兄ちゃんを助けて!聖の加護でお兄ちゃんを助けて!
お願いだから助けてー!」
ニコルちゃんが悲痛な叫びで助けを求める。
俺とアイシャの目が合う。
アイシャは首を横に振る。
(もう助からない!)
俺は黙って頷く。
(分かっているよ・・・)
夫婦の無言の会話。
「ドジ踏んじまってすまねぇな皆!」
ケビンが声を絞り出すように言う。
「「「「ケビン!」」」」
「ケビン君!」
「お兄ちゃん!」
皆がケビンの名を呼び、ケビンの手を握る。
「身体が寒い・・・でも手は温けぇや!ニコル居るか?」
「お兄ちゃん!ここに居るよ」
「ハハハハ!目が見えねぇみたいだわ・・・すまねぇなニコル。
お前に贅沢な暮らしをさせてやるために冒険者になったのに、一人ぼっちにさせてしまう様だ・・・」
身体が寒い、目が見えない・・・か。
俺にも経験があるから分かる。
もうすぐケビンは・・・
「何を言っているのお兄ちゃん!しっかりしてよ」
「レミオンは居るか?」
「あぁ、君の傍に居るよ!」
「お前に頼みがある。ニコルを・・・一人ぼっちになるニコルを頼めねぇか?」
「僕で良ければ任せておけ!大事な友の妹だ。君の代わりに護ってやるさ!」
「有難てぇ・・・友か・・・嬉しいぜ!」
「ルーク!」
「何だケビン?」
「お前も・・・俺の大事な友だぜ!」
「あぁ、俺もお前は大事な友だよ!」
「そうか・・・俺は英雄の友か・・・あの世で自慢出来るな!」
「センバさん・・・いるかい?」
「ここにいるぞ!」
「あなたの様な頼もしい大人が居たおかげで・・・凄く心強かったですよ・・・有難う」
「・・・」
「ベレット!」
「ここにいるぜ!」
「アンタからは女性の事をいろいろ教わったな・・・楽しかったなぁ・・・」
ケビンの息が荒くなって来た。
クソ!俺は見ている事しか出来ないのか!
「俺も楽しかったぜ!又一緒に女の尻追っかけようぜ。だからしっかりしろ!」
「又女性を・・・ア・アイシャさん居るかい?」
「いるわよ!」
「アンタは俺にとって・・・本当に女神様だった・・・ルークの奴に取られたのは癪だが、友と・・・俺と大事な友と何時までも仲良くな・・・グハッ!」
ここで又大きな血を吐くケビン。
「「もう喋るな!」」
俺とレミオンは叫ぶ。
「あぁ・・・眠くなって来た・・・」
「お兄ちゃん!」
「「「「ケビン!」」」」
「ケビン君!」
「ニコル・・・幸せに・・・な・・・れ・・・よ」
ケビンの力がスーっと抜け、目を閉じる。
「お兄ちゃん!」
「「「「ケビン!」」」」
「ケビン君!」
俺の事を「友」と呼んでくれたケビンは逝ってしまった。
前世から通して初めて大事な友だった。
俺の心は深い悲しみで満ちていた・・・
次回『第84話:誰が為に鐘は鳴る4』をお楽しみに~^^ノ




