第80話:血痕
リアース歴3236年 9の月29日12時過ぎ。
ベルクーリさんから指名依頼を受けた翌日。
エターナ町から東に5km行った街道沿い。
街道で石畳がされているのは町から1km圏内までで、そこから先は土の精霊術で地均しされた程度であり、道端には草が普通に生えている。
街道の北にはエターナ森林の木々がビッシリと生えているのが見え、南にはラウラ大山脈から流れて来ている大きな川が道に沿ってゆったり流れている。
街道の脇に壊れた荷台や雑貨類などが散乱している。
ここが、昨日襲撃事件が起こった場所である。
数百m先には、同じ様な現場が2~3カ所あるらしい。
「酷い有様だな・・・」
現場に着いて被害状況を目の当たりにしたケビンの第一声である。
「血の跡は何処にも見当たらない様だね。確か護衛していた冒険者もやられたんだよね?」
「全員やられたと聞いているけど・・・」
「冒険者達は何処でやられたんだろうなぁ・・・森林の中なのだろうか?」
レミオンの問いに俺が答えた。
レミオンは腕組をしてウ~ンと唸りながら考え込む。
「イナリ!血の臭いとか分かるか?」
「キュキュ!」
(森林の方からする!)
イナリが鼻をヒクヒクさせて、エターナ森林の方を見る。
やはり森林の中で戦闘した様だな。
「イナリが森林の方だって言っている」
「分かった!後で森林の方を調べてみよう。今はこの辺で何か手掛かりになるものを探してみよう」
「「そうだな!」」
自称リーダーのケビンの決断に俺とレミオンが同意する。
他のメンバーも頷く。
しばらくの間、壊れた荷台と散乱した雑貨類の周辺を調査したが、手掛かりになりそうなものは何も出て来ない。
犯人の爪痕でも発見出来ればと思ったけど、空振りだった。
現場での調査を諦めた俺達は、血の臭いがすると云うイナリが指示するエターナ森林へと向かう。
森林は紅葉の時期であり、赤や黄の色鮮やかの葉で森林全体を覆っていて実に綺麗だ。
周囲を警戒しながら、犯人に気づかれぬ様に臭い消しの薬を身体に振りかけ、先頭を歩くケビンが気配絶ちの魔石を持ち、音をなるべく出さない様に静かに歩く俺達。
森林の傍まで近づくと落ち葉を踏む足音でガサガサと音が鳴る。
緊張感が一段階上がる。
ふ~、心臓がバクバクする。
緊張からか太刀の柄を握る手が汗でグッショリ湿っている。
この緊張を解すにはアイシャの乳神様を揉ませて頂くのが一番かな?
などとおバカな事を考えていると、俺の隣りを歩くアイシャからジトーっと嫌な視線を感じた。
「どうかしたアイシャ?」
「貴方、今変な事考えていなかった?」
「・・・な・何の事でしょうか?」
再びジーっと見るアイシャ。
俺の背中に冷たい物が走る。
アイシャの視線の方が緊張するわ!
「まぁ、いいわ!」
アイシャはフンと鼻を鳴らし、俺から視線を外し森林へ警戒の目を移す。
あ・危ねぇ・・・頼むから俺の思考を読まないでよ~。
迂闊に変な事も考えらえないじゃないか・・・
落ち葉を踏む足音に気を付けながら森林に入る俺達。
イナリが鼻をヒクヒクさせている。
血の臭いか?それとも犯人?
イナリが俺の肩から勢いよくジャンプする。
着地と同時に十数メートルほど奥に走る。
「キュキュキュ~!」
(見つけたよ~!)
真っ白で綺麗な尾をブンブンと振るイナリ。
このメンバーには九尾の妖狐の子とバレてしまっているので、隠さずに堂々と二尾を振る。
「イナリが何か見つけた様だな!行こうぜ」
ケビンの言葉に皆が頷く。
周囲の警戒を怠らずに慎重にイナリの傍まで行く。
イナリの傍の落ち葉に赤い血痕があった。
「ここで人を襲った様だな!」
ケビンが血痕の付いた落ち葉を1枚拾う。
「でも少し変だな?」
レミオンが首を傾げる。
「何が変なんだ?」
俺は尋ねる。
「だって、この辺の落ち葉って全然荒れていないよ!」
「確かにそうだな。言われてみれば変だな」
「でしょ!ここの落ち葉は普通に落ちて荒らされた形跡がないまま血痕が付いている」
「人や魔物が歩いた形跡すらないもんな」
俺とレミオンが腕を組みウ~ンと唸る。
「キュキュ!」
(上を見てよ~!)
イナリが上を見ながらジャンプする。
上?
俺達全員はイナリの意図を察して上を見上げる。
「「「「「あ!」」」」」
枝に血痕が付いている。
木の上で人を襲ったと云うのか?
そして血が落ちた?
と云う事は木に簡単に登れる様な身軽な魔物?
鳥系?それとも猿系とか?
ウ~ン、何だろう?
「キュキュキュ!フー!」
(何か来る!魔物だ!)
イナリが急に森林の奥を見て威嚇し始めた。
イナリのこの反応は魔物だ!
「皆、何かが来る!警戒して!」
俺の声に皆は一斉に武器を手に取り戦闘態勢を取る。
「俺とセンバさんが前で壁役、ルーク、レミオン、ベレットは2陣、ニコルとアイシャは後方で何時でも矢を射かけられる様に待機!」
ケビンの指示が飛ぶ。
皆は言われた様に一人一人が10m間隔に広がり陣形を作る。
ガサガサガサ!
ガサガサガサガサガサ!
風で木々の葉が揺れる音がする。
風?
本当に風だけのせいか?
犯人は木の上で人を襲う様な奴だ。
クソー!これじゃ風で揺れているのか犯人のせいで揺れているのか全く分からんぜ。
「皆、たぶん木の上から来るぞ。気を付けろ!」
俺は全員に注意を促す。
奴はすぐそこまで近づいて来ていた・・・
次回『第81話:誰が為に鐘は鳴る1』をお楽しみに~^^ノ




