第79話:指名依頼
物語は3章の山場へと向かって行くでござる^^
エターナの町から東に向かって伸びている道は、リの国の首都ザーンまで繋がっている。
この道のお陰で、首都ザーンや他の町・村からいろいろな種類の荷が沢山やって来るのだ。
数日前から、荷を運んで来る商隊がこの道で襲われる事件が数件起きている。
しかも北のエターナ森林に面しているエターナの町の近場でだ。
ルーク達が昨日偶然に聞いてしまったのはこの事件の事である。
襲われている荷は食料、そして人間。
それ以外の物は放置されているのだ。
犯人はまだ分かっていない。
目撃情報がないのだ。
しかし、これはどう見ても魔物の仕業としか言えない。
魔物かもしれないとなれば、冒険者が出張るのは当たり前。
エターナの冒険者ギルドがいよいよ本格的に動き出そうとしていた・・・
リアース歴3236年 9の月28日9時。
俺達夫婦が朝何時も通りに冒険者ギルドに顔を出すと副ギルド長のステイさんが待ち構えていた。
「あ、来た来た。ルーク君、アイシャさん、これからすぐに会議室に来てくれないか!」
「会議室にですか?」
「えぇ、後はあなた達だけです。さぁ急いで!」
「あ、ハイ!アイシャ、行こう」
「う・うん!」
ステイさんの後に着いて2階の会議室に向かう。
後は俺達だけって言っていたよな?
と云う事は、他にも呼ばれた人がいるのかな?
会議室に集まって何かの悪だくみじゃないだろうなぁ?
会議室の前に着く。
コンコンコン!とステイさんがドアをノックした。
「入ってくれ!」
会議室の中からベルクーリさんらしき人の声がする。
ステイさんがドアを開けて会議室に入る。
「ギルド長、ルーク夫妻をお連れ致しました!」
「ステイ、ご苦労だった!」
「さぁ、ルーク君達も入って!」
「「あ、ハイ!」」
言われるまま会議室に入る。
「「「あ!」」」
俺とケビン、レミオンが同時に声を上げる。
こいつ等も呼ばれていたのか~。
「ルーク、アイシャ、まずは空いている椅子に座ってくれ!」
「「ハイ!」」
会議室の1番奥に座っていたベルクーリさんが言った。
会議室は長テーブルがロの字の様に組まれており、ベルクーリさんの正面にはケビンとニコル、その右にはレミオン主従が座っていたので、俺達夫婦は左側の椅子に座る。
何時ものメンバー7人が揃って訳だ。
「まずは急に集まって貰って申し訳なかったな!」
「いえいえ!」
「大丈夫です、問題ないです!」
「お気になさらずに!」
ベルクーリさんの謝罪の言葉の後に、ケビン、俺、レミオンとそれぞれ順に答える。
「集まって貰ったのは、君達に指名依頼を頼みたいのじゃ!」
「「「指名依頼?」」」
「そうじゃ!」
俺達はお互いの顔を見合わす。
「俺達Eランクにワザワザ指名依頼とはどう云う依頼なんでしょうか?」
ケビンが代表して話し出す。
まぁ、こう云う事が得意そうなケビンに任しちゃおう。
「数日前から起こっている荷商隊の連続襲撃事件の事は知っているか?」
「え、そんな事件が起こっていたのですか?」
「知らないか?他の者達はどうじゃ?」
「「「「「「知っています!」」」」」」
「え、マジで俺だけ知らなかったのか・・・」
ケビン以外の者は皆知っていた。
ケビン以外の皆は一斉にため息をつく。
ケビンよ、冒険者たる者そう云う情報は敏感になった方が良いぞ。
と、偉そうに思った俺も昨日知ったばかりだが。
しかし、昨日の件か~。
俺達夫婦はお互いの目を見て黙って頷き合う。
昨日、冒険者風の男が慌ただしく叫びながらギルドに駆け込んで行ったのを見ていたからなぁ。
「うむ。では簡単な説明をまずするかの」
「お手数をお掛け致します・・・」
ケビンが段々小さくなって行く。
そんなケビンを見るのは実に楽しい!
フォッカーさんに続いて、からかい甲斐がありそうな奴を発見したぞ。
今度、存分にからかってあげようではないか。
ウケケケケ!
「数日前から、町の東側の街道で荷商隊が襲われる事件が頻発しておるのだ。
襲われているのは食料と人間、それ以外の物は放置されている状態だ。
この事からも魔物が犯人だと云う事はだいたい予想が出来る。
しかし、魔物の手掛かりとなるものが全く無くてのう。
困り果てているのが今の状況なのだよ。
ここまでは良いかの?」
「ハイ!」
「そこで、お前達に依頼と云う訳なのだ!」
「犯人を捜せ・・・と云う事でしょうか?」
「その通りじゃよ!」
「俺達に出来ますかねぇ?」
「期待の新人達には、丁度良い依頼なのだよ。出来るか?ではなくやるのだ!
お前達がこれからD,C、Bとランクを上げたいのだろ?
ランクを上げて行くには、こう云う依頼も経験しておく事が大事なのだ」
「ハ.ハァ~」
「それに打って付けの奴がそこにいるからのう」
「打って付け!誰ですか?」
「ほれ!そのちっこいのじゃよ」
「ちっこいの!」
ちっこいの?
ベルクーリさんが俺を見ている。
ちっこい・・・ハっ!まさか俺のチ〇コの事?
ちっこいチ〇コで悪かったなぁ~。
ウェ~~~ン!酷いよ~。
「そのちっこいイナリじゃよ!」
「「「「「え!」」」」」
へ!イナリっすか?
俺はてっきり・・・
ゴホン!まぁその事は置いておいてと。
皆が俺の肩に乗っているイナリを見る。
「ルークよ、イナリはシルバーウルフの変異種ではなくて、聖獣の九尾の妖狐の子ではないのか?」
ヒョエ~!藪から棒に何ですか~?
「な・何のことでしょうか~?」
「キュキュキュ~!」
(僕はシルバーウルフの子ですよ~)
俺とイナリの目が泳ぐ。
明らかに動揺しているのが丸わかりじゃないか。
俺とイナリっておバカ~!
「誤魔化さんでも良いわい!他の奴らだいたいはも察しているぞ」
うぅ、完全にバレテ~ら!
「そうです!」
「キュキュ!」
(そうです!)
「やはりな!」
「でも、どうして分かったんですか?」
「3年も同じ大きさのシルバーウルフの子がいると思うか?」
「あうう~!」
その通りで御座います。
俺は頭を抱え、己の迂闊さを恥じる。
ぐぬぬぬぬ!
言われてみれば当たり前か。
「それに、お前の父ロディが九尾の妖狐に関する文献を漁っていたのを思い出してのう。
ピンと来た訳じゃ!」
父よ!お前かぁぁぁ!
バレバレの行動するんじゃねえよ。
あの世でしっかりと反省せい!
「ルークよ、イナリは嗅覚や聴覚はどうなんだ?
聖獣の事は未だに未知な部分が多いから分からんが、かなり良いのではないか?」
「確かにかなり良いと思いますよ。
薬草や魔物を遠くから嗅ぎ分けますし、土の中にいる魔物は耳で分かる様ですし」
「うむ、やはりのう!やはりこの依頼に適任じゃな」
「改めて冒険者ギルド長としてお前達に指名依頼を出す!
お前達で今回の襲撃事件の現場を調査して来てくれ。
犯人の特定まで出来れば申し分ないが、まぁ犯人の手掛かりになるもので構わん。
調査中に犯人と遭遇した場合、もしくは危険と判断したならすぐ引け。良いな!」
「「「「分かりました!」」」」
俺達は指名依頼で襲撃事件に首を突っ込む羽目になってしまったのだった・・・
次回『第80話:血痕』をお楽しみに~^^ノ




