第73話:レミオン
今回は新たなキャラが登場します^^
リアース歴3236年 8の月19日19時過ぎ。
俺達は3週間ぶりにエターナの町へ戻って来た。
「ソロモンよ!私は帰って来た! by アナベル・ガトー・・・ってか」
「ソロモンじゃなくエターナの町よ!」
俺のボケに速攻で突っ込むアイシャ。
元ネタを知っているだけに流石だな愛子よ。
アイシャの視線がちょっと痛いです。
バカな事を言ってゴメンなさいです。
クスン!
俺達は正門を潜り抜けて大きな本通りを歩く。
薄暗くなり始めた空だが、街灯や露店の提灯で町は鮮やかに彩る。
一仕事終えた冒険者達が、腹を空かせて大きな通りをうろつく。
ルタの村と違って、相変わらずの賑わいだのう。
今晩から又お世話になる予定の穴熊亭を目指して、俺達は腕を組みながら通りをゆっくりと歩く。
俺達とすれ違った人達は振り返り、俺達の姿を見かけた人達はその姿にガン見する。
やっぱりこの新装備は目立ち過ぎるのかな?
夫婦揃ってだし、そりゃ目立つよなぁ・・・
「嫌だわ!又、胸に視線を感じる・・・」
アイシャがボソっと言った。
いやいやいやいやいや!それはちょいと違うと思うっすよ。
今回は新装備が目立っての視線だと思うっす。
確かに乳神様も凄いけど、新装備のデザインの方が、遥かにインパクトがデカいと思うっす。
俺はこの事実をアイシャに告げるべきかどうか悩む。
アイシャご自慢のデザイン・・・ん~、今回は黙っている事に決めた。
黙っておくべきだと俺の直観がそう告げていた・・・
穴熊亭に着いた。
穴熊亭は料理の味目当ての客で一杯だった。
「いらっしゃいませ~!あら!ルークにアイシャ、帰って来たのね」
穴熊亭の女将さんが俺達夫婦を見てニッコリと笑う。
女将さんはいつも元気だねぇ。
「只今戻りました!女将さん、今晩から又頼めるかなぁ?」
俺はちょっと気まずそうに言う。
時間が時間だし、急だけど大丈夫かな?
「大丈夫よ!アンタ達の部屋はそのままにしてあるわよ」
良かった~。
女将さん大好きっす!
アイシャには遠く及ばないけど・・・
「「有難う御座います!」」
俺とアイシャはペコリと頭を下げる。
女将さんがレジカウンターの所に行って何やら手に取る。
「ほれ、部屋の鍵!先に荷物を置いておいで!飯、まだなんだろ?」
「そうなんですよ!二人とも腹ペコっす」
俺は女将さんから鍵を預かる。
「女将さん、お土産よ!」
アイシャはルタの村で餞別に頂いたリンゴの様な果実を女将さんに袋一杯渡す。
真っ赤で美味しそうな果実だ。
「あらあらあら!有難うねぇ」
「「いえいえ!」」
「宿代は飯の後で良いから、早く荷物を置いておいで」
「「ハイ!」」
俺達は急いで荷物を置きに行くのであった。
「若、今の女の胸見ました?凄いエロい身体でしたねぇ」
若と呼んだ男は、歳は10代後半くらいでチャライ感じの男である。
皮の防具を着込んでいるので冒険者である事が分かる。
「ベレット、お前はすぐそう云う下品な事を言う。私まで品位が疑われるではないか」
若と呼ばれた男が、ベレットを叱る。
その男は、皮ベースだが、胸、肩、肘、膝が傷一つない綺麗な鉄板で出来た高そうな防具を着ている。
凛とした態度で周りの普通の冒険者とは一味違うオーラを放っている。
若と呼ばれた男の名は、レミオン・エドナ。
東の海に面した海洋都市エドナを治めるエドナ子爵の3男で15歳である。
3月で成人したレミオンはエドナ家を出て、冒険者になったのであった。
「若、申し訳御座いません!」
ベレットが謝罪を述べる。
彼はレミオンと供にエドナ家から一緒に飛び出して来た。
彼はエドナ家で雇われているコック長の息子であったが、父親の様にコックになる事を嫌い、レミオンにくっ付いて来たのだった。
「まぁ、胸はともかく綺麗な女ではあったな」
一度は叱っておきながら、コホンと咳をしながら言う。
興味無さそうに振舞ってはいるが、15歳で異性に興味津々なお年頃である。
アイシャの事が気になって仕方がないレミオンであった。
「ほう、若はあぁ云うのがタイプで御座いますか?」
若と呼んだもう一人の男は、レミオンのおもり役のセンバ。
歳は30代くらいで無精髭を生やしたガッシリした体格の男だ。
ニヤリとも笑わないこの男は、死戦を潜り抜けて来たベテランの冒険者に見える。
エドナ家でレミオンの護衛をしていた男だ。
普段は無口であまり喋らない。
この3人は同じテーブルを囲んで食事をしていた。
彼らは、ルーク達がルタの村へ出掛けて行ったのと入れ違いでこの町に来た者達だった。
ルークとアイシャの事を知るはずもない。
「タ・タイプとは言っておらんぞ!一般的に見て綺麗な女と言っただけだ。
決してタイプとかどうとか云う事ではない」
慌てて否定するレミオン。
興味はあっても色恋の話は苦手なレミオンであった。
否定はしたが、アイシャの姿が頭から離れない。
一緒に居たルークの事を考える。
(あの二人は恋人?兄妹?もそれとも夫婦なのだろうか?)
声は出さずに自分の心の中で呟く。
恋人や夫婦であっては欲しくない、姉弟であって欲しい。
レミオンは、自分勝手な願望に思いふけるのであった。
ルークとアイシャが着替えて2階の部屋から降りて来た。
食事を取るべく馴染みのカウンター席に二人仲良く並んで座る。
レミオンはアイシャを目で追う。
二人は腕を組みながらかなり親密そうに会話をしている。
レミオンの胸がチクリと痛んだ。
「ち!連れの男とはかなり仲が良さそうだなぁ。
若、女の方だけここに呼んで来ましょうか?」
ベレットはレミオンの耳元で、小さな声で話す。
「嫌、呼ばなくて良い!」
ルークとアイシャの仲が良さそうな姿に気持ちが沈むエミオン。
このまま、もう寝てしまいたかった。
「おい、あんたら!ルークとアイシャちゃんに手を出すのは止めておくんだな!」
隣りの席に居た冒険者風の男が、周りに聞こえない様に小さな声で話し掛けて来た。
その顔は怒りに満ちている。
「なんだテメェは?」
ベレットが途中で割り込んで来た男を睨みながら言う。
「俺はこの町の冒険者さ!良いか、よく聞いておけ。
ルークとアイシャちゃんに手を出したら、町の皆が黙っていないぞ!
手ぇ出したら、生きて町から出られると思うなよ」
「な・何だって!」
凄みを利かして来る冒険者。
ベレットは息を呑む。
レミオンは黙ったままこのやり取りを見ている。
「もしかして、彼は英雄殿かな?」
今まで黙って酒を飲んでいたセンバが言う。
「その通りさ!ルークはこの町を救った英雄、アイシャちゃんは町の聖女様だ。
二人は町の皆に祝福された夫婦さ。悪い事は言わねぇから手ぇ出すんじゃねぇぞ!」
夫婦!
その言葉にレミオンの顔が苦渋になる。
「分かった!手は出さないから安心して欲しい。
若、そろそろ宿に戻って寝ますぞ」
「え~、まだ早いっすよセンバさん」
ベレットが文句を言う。
冒険者の男はセンバが誓った事により、話は終わったと自分の席に戻って行った。
「良いから行くぞ!」
聞く耳は持たないと、センバは二人を引っ張り穴熊亭から出て行った。
この一連のやり取りの事を、ルークとアイシャは全く気付いていない。
自分達の甘い世界で周りに目が全く向いていなかったからだ。
レミオン達が一方的にルーク達を知る出会いであったが、この出会いによりルークとレミオンは後々も深く関わって行く事となるのだ。
次回も新たなキャラが登場するんだよ^^
次回『ケビンとニコル』をお楽しみに~^^ノ




