第72話:発想力
リアース歴3236年 8の月18日。
俺達の新装備が出来上がった。
早速着てみる。
ロングジャケット、ロングブーツ、アームガード、外套、黒色主体の皮が全身を包み込む。
鏡を見ながら自分の姿をジックリと見てみる。
ちゅ・中二病全開や~・・・恥ずかしい!
今までの装備と違って露出部分が少ないなぁ。
これって真夏にはちょっとキツイんじゃない?
あ!外套の内側ポケットに冷房用魔石と温暖用魔石がある。
なるほどね!外套で温度調節が出来る様にしてある訳か。
アイシャの注文で、ロングジャケットは胸の大きさをなるべく目立たせない様なデザインとなっている。
それでも尚、乳神様の存在感は凄いっす。
同士よ、良い仕事をしてくれて有難う!
「うん、良い感じだ!」
「そうねぇ、ぴったりフィットだね!」
俺とアイシャは笑顔で頷き合う。
ついでイナリの装備もつけてみる。
胴巻きとキャップ、手首と脛にはサポーターの様なものもある。
キャップの耳の部分はくり貫かれており、イナリの白い可愛い耳がピョコンと飛び出している。
イナリの白毛と黒の皮のコントラストがとても良い。
「イナリちゃんの可愛さが引き立つわ!」
「キュ~!」
(わ~い!)
「今回は良い仕事をさせて貰ったわい!
竜の皮ほどではないが丈夫でしっかりとした皮、デザインも新鮮だし、会心の出来じゃぞ~」
ポム爺さんが酒をクイっと一飲みしながら満足そうに言う。
「ポム爺さん、本当に有難う御座いました」
「有難う御座いました!」
「キュ!」
(ありがとう!)
俺達は何度も何度もお礼を言って、ポム爺さんの防具屋を出たのだった。
帰り道、アイシャの機嫌がとても良い。
歩きながら自分の装備をあちこちと見ている。
少しは妻孝行が出来たかな?
喜んでくれて本当に良かった!
頑張ってレッドベアの変異種を倒した甲斐があるってもんだね。
最後は地味な戦いだったけど・・・
家の前まで帰って来ると、庭から声が聞こえて来た。
師匠とジークだな。
直接庭の方に回ってみる。
案の定、師匠がジークに稽古をつけていた。
木刀と木刀が打ち合う音が響く。
「ほれ、足がおろそかでござるよ!」
「い・痛い!師匠、脛は痛いですから」
ジークの奴、手ひどくやられているなぁ。
師匠は手加減をしないからなぁ。
「お!ルーク、アイシャ、お帰りでござるよ」
ジークの相手をしながらも余裕で挨拶をして来る師匠。
さ・流石です。
「「ただいま~!」」
俺とアイシャのいつものハモリ。
もう慣れっこになっちゃいました。
「兄さん、お姉様、お帰りなさい!あ、新しい防具が出来たんですね」
ジークよ、稽古中によそ見するなんて余裕があるじゃねぇか。
師匠、もっとやっちゃって下さいよ。
「二人共カッコいいでござるよ!」
「有難う御座います師匠!」
「クロード様、有難う御座います」
「ジーク、一休憩するでござるよ」
「やったー!助かった・・・」
その場にヘタレ込むジーク。
俺と師匠は目が合い、二人してクスリと笑った。
「私、着替えてお茶入れて来るわねぇ」
アイシャは慌てて家の中に入って行く。
「すまないでござるなアイシャ」
「お姉様、僕も手伝います・・・」
ジーク、足腰がフラフラなのに大丈夫なのか?
ジークは這う様にして家の中へ入って行った。
「そうだ!ルークよ、久しぶりに拙者と手合わせするでござるよ」
「え!マジっすか?」
「マジでござるよ!あれからどれだけ腕を上げたか、確かめるでござるよ」
うげ!マジか~、逃げたいよ~。
「さぁ、そこの木刀を取るでござるよ」
庭の隅には練習用の木刀が数本置いてある。
ハァ、仕方がないか~。
俺は飛燕の練習様で使っていた、魔石の付いた木刀を1本手に取る。
「師匠、俺は明日の朝早くにエターナの町に帰るんですから、少しだけですからね」
「分かっているでござるよ。さぁ、構えて構えて!」
もう、ウキウキしないで下さいよ。
俺は平正眼の構えをした。
師匠は普通に正眼の構えだ。
お互いに間合いを図る。
俺は反時計周りにジリジリと少しずつすり足で距離を詰める。
ん~、背や腕が長い分師匠の方が有利なのは、何時もと変わらんよなぁ。
いきなりあれを試してみるか?
俺は距離を詰めるのを止め、逆に少し離れた。
平正眼もやめて木刀を左腰に置き抜刀の構えにする。
「ほう、いきなり飛燕でも撃つうもりでござるかな?」
「フフフフ!どうでしょうねぇ?」
俺はニヤリと笑う。
師匠、残念ながらそんな事はしませんよ。
飛燕は決め技で使えって師匠の教えじゃないですか。
師匠にはある技の実験台になって貰うんですよ。
師匠は仕掛けてこない。
あえて俺が何かをして来るのを受ける気なのかな?
俺は飛燕を撃つ様に足を開き、腰を落とす。
そして・・・
「大地を愛する土の精霊達よ!我の願いを聞き届け、土なる力を我に与え給え!
うなれ地を這う刀『地列斬!』」
俺は「地列斬」の言葉と同時に地面をえぐる様にして木刀を振り抜く。
飛燕で地面に与えた衝撃と土の精霊術が合わさり、何かが飛び出した。
地面を切り裂く様な飛燕が、土埃を巻き上げながら師匠目掛けて向かって行く。
「なぬ!」
師匠は、避けようとはせず木刀で受けようとする。
師匠だったら避けられると思うけど、あえて受ける気だな。
石刀が師匠と木刀とぶつかる。
飛燕ほどの切れ味はないが、ガツンとかなり強い衝撃が師匠を襲う。
その衝撃で木刀が折れ、より一層の土埃が舞う。
師匠は衝撃の勢いもあって後ろに逃げる。
「チェックメイトです師匠!」
師匠の心臓に木刀の先をピタリと付ける。
「見事でござる!」
驚いた顔をした師匠だったが、俺の顔を見てすぐに笑顔になる。
俺もニコっと笑った。
「何とか上手く行って良かったです。成功するかヒヤヒヤでしたよ」
「飛燕の改良型でござるかな?」
「そうですね。土の精霊術と合わせた技です。まだ完成形ではないんですけどね」
「飛燕ほどの威力はなさそうでござるなぁ?」
「たぶん、そうだと思います。この技は飛燕の様な決め技ではなくて、目くらましを主に考えた繋ぎの技ですからねぇ」
「繋ぎの技でござるか!」
「そうです!石刀自体は囮です。石刀に意識を集中させるためのね。
土煙を上げて分からない様に俺が近付くのが目的の技なんですよ」
「なるほど!まだ改良の余地はあるでござるが、なかなかでござった」
「有難う御座います師匠!」
ヨッシャー!師匠からお褒めの言葉を頂いたぞ。
「ルークよ、お主の剣の才は、武蔵様の様な天才型では無く、拙者と同じで凡人の努力と根性の秀才型と思っているでござる」
「凡人の秀才型で御座いますか?」
「そうごござる!しかし、お主には発想力においては天才でござる」
「発想力ですか?」
「そうでござる。今回の地列斬もそうでござるが、お主は刀術と土の精霊術を上手く組み合わせた独自の戦い方、その豊な発想は凄いでござるよ。
その発想力をこれからも大事にして行くでござるよ」
「ハイ!」
師匠のこの言葉は、今後の俺自身を支えて行く大事な言葉となった。
次回は新キャラが登場^^
次回『第73話:レミオン』をお楽しみに~^^ノ




