第70話:死闘?
リアース歴3236年 8の月9日。
レッドベアの変異種を探し求めて今日で6日目。
俺達は小雨振る山の中を歩いている。
足元は濡れて歩き辛く、今までの疲れもあって足取りが少し重い。
暑くてジトジトとした感じが実に不愉快だ。
奴の目撃情報があった付近を中心に予想される縄張りをくまなく捜索しているが、今日のところは奴の形跡らしいものはまだ何も見つけていない。
俺の後ろを歩くアイシャの息遣いが荒くなって来た様だ。
俺は振り返りアイシャの様子を見る。
口が半開きでハァハァと息が上がっている。
結構歩き続けているから疲れて来ているよね。
自分の体力はまだ問題ないが、ここはアイシャ中心で考えなくちゃ。
ここで一度休憩を入れるか。
「アイシャ、一休憩しようか」
「う・うん!私のために有難うね」
アイシャが少しホッとしたような顔になる。
我慢していたのかな?
もう少し早く気付くべきだった。
何時まで経っても気遣いが出来なくて、俺はダメだなぁ。
「気付くのが遅れてゴメン!」
「ううん、大丈夫よ。逆に心配かけてゴメンね。気遣ってくれて嬉しいわ。」
「俺、まだまだ半人前だからアイシャに一杯迷惑をかけちゃうと思う。
だから辛いとか言いたい事は遠慮しないで言ってよ。俺達夫婦何だからさ!」
「そうね!夫婦だもんね」
甘い雰囲気になる。
押し倒してぇ~。
だけど、ここは魔物が多い危険地帯。
野外プレイなんてもっての外だ。
並阿弥陀仏南無阿弥陀仏~♪
雑念を退散せよ~。
俺達は地面から突き出ている手頃な岩に腰かけ、クッキーの様な甘いお菓子を口に放り込む。
疲れを取るには甘いものだよねぇ。
水筒の水で水分補給もする。
「イナリ、辺りの警戒は続けて頼むな!」
「キュ!」
(分かっている~!)
お菓子を砕いてイナリにも食べさせてやる。
マッタリとした時間が訪れる。
周りはサーと小雨の降る音がするだけ。
それ以外の音は何も聞こえず静かだ。
イナリの耳がピクピクと動き出した。
お菓子を食べるのを止めて顔を上げるイナリ。
「イナリどうした?」
今度は鼻をヒクヒクさせている。
俺とアイシャは険しい顔になる。
「イナリ、奴か?」
「キュキュ!」
(まだ分かんない!)
俺達は戦闘態勢を取る。
甘い匂いに誘われて出て来たかな?
そう言えばレッドベアって熊の魔物みたいなものだから嗅覚が優れているかもな。
確か熊って犬や狐より嗅覚上じゃなかったか?
そんな事を思いながら辺りを警戒する。
イナリがある茂みの一点を見つめる。
4~50m先の茂みの方からガサガサと聞こえて来た。
武器を構えて息を吞む俺達。
茂みの長い草が揺れているのが見えた。
俺の首筋に汗が流れる。
「ガァオーーー!」
茂みの中から突然黒いものが見えた。
奴だ!レッドベアーの変異種だ。
奴は茂みの中から出て来て立ち上がる。
デカい!
全身が真っ黒で体長3メートルくらいはあるか?
何だか、く〇もんみたいだな・・・
「新しき従者よ出でよ!『ゴーレム!』」
俺は奴に合わせて3mくらいの鉄人君を生成する。
鍛錬の成果で詠唱がかなり短くなった。
グ!魔力がゴッソリと持って行かれた感じだ。
「皆、いつもと同じように!」
「分かったわ!」
「キュ!」
(OK!)
今まで普通のレッドベアを相手にして来た様なフォーメーションを取る。
鉄人君は相手に向かって走り出し、アイシャとイナリは距離を取って時計回りに動き出そうとする。
その時、奴が爪で引っかく様な動作をして左右手をクロスする。
背筋が凍る感覚に襲われる。
ヤバい!
「出でよ壁!『ウォール!』」
俺は瞬時にウォールの術を詠唱した。
奴がクロスした左右の手から、かまいたちの様なものが繰り出されたのだ。
1本目は鉄人君が防いでくれた。
2本目は鉄人君をすり抜けてこちらに迫って来るが、ウォールの術がギリギリ間に合い土壁が防いでくれた。
「危なっ!」「キャっ!」「キュ!」
それぞれ声を上げる。
まさか風の術を使えるとは。
この技を間近で出されたらやられていたな。
「奴のあの技には気を付けて!鉄人君は奴と組み合って何とか手を封じてくれ」
「分かったわ!」
「キュ!」
「・・・」
当たり前だが鉄人君から返事は来ない。
ちょっと寂しい。
クスン!
改めて動き出す俺達。
鉄人君がズシンズシンと地響きをさせながら奴に近づいて行く。
俺は鉄人君の影に隠れて相手に近寄る。
鉄人君と奴の距離が10mほど接近した時、30m離れた所からアイシャが弓で牽制を始めた。
奴は両手で矢を止めようとする。
「ガァオーーー!」
奴が再び吠える。
アイシャは奴の顔を目がけて2射3射と続けて射かける。
しかし、矢は奴の手に阻まれる。
奴が矢を警戒している間に鉄人君が奴に張り付いた。
鉄人君と奴は手と手で組み合い力比べとなる。
よし!腕は封じた。
「アイシャ!麻痺の矢で奴の鼻先を狙って!」
「分かった!」
アイシャは矢の先に麻痺の粉袋を取り付けた、俺特製の矢を取り出して構える。
鉄人君と奴の力は同等の様で組んだまま動かない。
アイシャが奴の鼻目がけて射かけた。
麻痺の粉袋が取り付けてある矢は若干重みがあるのだが、アイシャの風の術と合わさった矢は勢いよく奴目がけて飛んで行く。
矢が鼻に当たった!
「グ・グァー!」
奴の頭が暴れる。
鼻から吸い込んだ麻痺の粉は、即効性だからすぐ効いて来るぞ。
奴が鉄人君に押され始めた。
力が入らなくなって来たかな?
鼻が利く魔物には効果抜群の麻痺の粉。
ズルイ作戦かもしれないけど、俺達の身の安全を第一にした作戦だ。
誰に何と言われようと構わないさ。
いつもの普通のレッドベアなら、ここで俺が飛燕の技で首チョンパして終わりになるのだが、流石変異種と云うべきか今回はそう上手く行かない。
力が抜けて来て鉄人君に力負けし出した奴だったが、奴は鉄人君に蹴りを入れる。
足の短いその熊型体型でよく蹴りが出来たな。
その根性には敬意を表するぜ
お互いにフラフラと離れる。
俺はここで飛燕を討とうとしたが、奴が先に動いた。
奴は天辺を見上げありったけの力で咆哮する。
「ガァオーーー!」
鼓膜がビリビリと響く。
何だこれは!
俺達は動けなくなってしまったのだ。
特殊な技か何かか?
まだこんな技を隠し持っていたのか。
ヤベー、動けねぇ!
しかし、奴も麻痺が効いて来た様で動けなさそうだ。
「大地を砂に!『ピート!』」
俺は力を振り絞って奴の足元を砂に変えるピートの術をかけた。
奴の体勢が崩れて仰向けになって倒れる。
熊系は仰向けになって倒れるのが苦手なはずだ。
これで少しは時間稼ぎになるだろう。
お互いに身動きが取れないと云う地味な戦いが続く。
何だか恥ずかしい戦いになった気がする・・・
俺の咆哮による効果が解けた。
ヨッシャー!
俺は奴の側面に回り、10m手前で飛燕の構えを取る。
一気に力を出すように・・・
「飛燕!」
勢いよく飛び出した飛燕が奴の首を突き抜ける。
ポーンと音が出るみたいに奴の頭が飛んだ。
戦いは終わった。
変異種と云う名は伊達じゃなかったな。
かまいたち様な風の術に身を竦ませる咆哮。
奴は確かに強かった・・・強かったんだけど何かなぁ~っと思ってしまう。
勝つには勝ったがイマイチ素直に喜べない感が俺達に漂う。
きっとこれはあれだな。
ズバリ羞恥心だな!
さて、馬型の鉄人君に乗っけて帰ろうか。
しかし、皆にどうやって倒したんだ?って聞かれたらどう答えるべきか・・・
次回『第71話:新装備』をお楽しみに~^^ノ




