第64話:元副宰相の威厳
リアース歴3236年 6の月26日9時前。
そこには意外な人物が立っていた。
エターナのご老公であるビルギット・エターナだ。
「先ほどから、其方達の騒動を拝見しておった。
イスカル殿と言ったかな?剣の柄から手を放しなさい。
ルーク、お前も挑発するのを止めよ!」
意外な人が間に入って来ちゃったなぁ。
俺の挑発がお見通しみたいだな。
俺は手を万歳してご老公に白旗を上げる。
ご老公様は俺を見てニヤリと笑う。
「ご老公は黙っていて頂きたい。この小僧は貴族の私に刃向かったのですぞ。
英雄か何か知らないけれど、見過ごしてはおけないのです」
苦渋の顔をしたイスカルはご老公の言葉を突っぱねる。
年寄りの言葉は大事にしないといけないよ、イスカルさんよ。
「黙れ小童!」
盛大な雷が落ちた!
お年の割に凄い大きな声ですね。
周辺の誰もがビクっとしたよ。
そして、小童ですよ小童。
ククククク!笑いを堪えるが大変だ。
小童と言えば、真○丸の室賀正武を演じた西○雅彦の名セリフだよねぇ。
ちょいと感動したっす。
「こ・これはバニング伯爵家とこの小僧の問題。
子爵家が伯爵家に口を出さないで頂きたいですな」
伯爵家の方が上だから黙っていろと言いたいんだろうけど、声が震えて威厳も何もないですよイスカルさん。
「何がバニング家と小僧の問題じゃ。要はぽっと出のお主が、相思相愛のカップルを邪魔しようとして、歯牙にもかけられない事への当てつけではないか?違うか?
それにワシはルークの後見人じゃ。口を出す権利はあるぞ。
それにもう一つ、お主は大きな勘違いをしておるぞ。ルークは国の英雄じゃ、貴族の小童如きが小僧などと罵っても良い人物だと思うなよ。お主の方がよほど不敬じゃわい」
身も蓋もねぇ言い方をしますねご老公様。
まぁ、確かに合っていますけどね。
「く!好き放題言ってくれますね。
では、英雄殿ではなく、貴方の方の態度を問題にでもしますかね?」
今度はご老公様に噛みつくつもりですか?
「お主、ワシの事を知らぬ様じゃな。ワシを侮るのも大概に致せよ小童。
子爵と云えども、昔は副宰相とまで言われたワシじゃ。
小童のお主など眼中にも入らんわ!」
え!ご老公様ってそんな凄い人だったの?
「そ・そこまで侮辱を・・・」
手だけではなく、全身で震え出すイスカル。
怖いのかな?それとも侮辱された怒り?
それにしても、ご老公の威厳って凄いな。
前にお会いした好々爺のイメージと全然違うや。
「ワシが怖いか小童。喧嘩するならいつでも買うぞ。
バニング家、嫌、ルザク家も含めてかかって来ても構わんぞ。
ワシには、スザル家とルーラ家が付いておるでのう。
それに陛下とは、学生の頃からの友だ。
ここまで言えば、流石にどちらが有利か分かりそうなもんじゃがな。
どうする?ワシは一向に構わんぞ!」
鋭い視線で睨むご老公。
背筋が凍る!
この人本気だ。
「も・申し訳御座いませんご老公様!
イスカル様もけして悪気があった訳では御座いません。
どうか・・・どうかお許しくださいませ」
マルタが飛び出して来てご老公の前で土下座をする。
この人こればっかりだね。
これからは土下座のマルタと呼ぶ事にしよう。
尻ぬぐいばかりさせられて本当に気の毒な人だわ~。
「ふん!まあ、良い。この男に免じて今回だけは無かった事にしておいてやるわい。
それと、これ以上アイシャ嬢に近寄るのは止めておけ。」
「え!しかしご老公様、今の件とアイシャ様の事は別と思われますが?
伯爵様のお孫様かもしれないアイシャ様には、早く伯爵様にお会いして頂きたいので、どうかこの件に関してはお許し下さいませ。」
すがる様にご老公哀願するマルタ。
「アイシャ嬢はバニング伯爵の孫ではないぞ」
静かな声でご老公が答える。
え!違うの?
「え!そ・それは誠で御座いますか?」
マルタが問う。
「アイシャ嬢はワシの知り合いの娘じゃ。
父親は誰か知らぬが、アイシャ嬢の母親は城のお抱え治癒師であった人物じゃ。
治癒師を止めた後、ワシを頼ってエターナの町まで来た様なのじゃが、途中で事故に会っての・・・一人残されたアイシャ嬢をワシの養子にしようかとも考えたのじゃが、ある事情でそれが出来なくてな。
仕方がなく、教会の孤児園で見て貰う事になったのじゃよ」
「本当はご老公様の隠し子で、奥さんにバレたらマズイとか云う理由?」
俺は迷探偵、嫌、名探偵の様に推理をする。
(真実は一つ! by 江戸川コナン)ってか。
「ち・違うぞ!隠し子なんかじゃないぞ」
ご老公が初めて慌てた~。
ムフフフ、慌てっぷりが逆に怪しい。
「今の話は誠なので御座いますか?」
マルタが再度問う。
「誠の話じゃ!この事は教会のシスターも知っておる。
確か、アイシャ嬢の母親の形見をシスターが保管しておるから、それが証となるであろうよ」
「そ・そんな・・・アイシャ様はお嬢様の娘ではなかった・・・」
ガクッと項垂れるマルタ。
「ご老公様!聖女候補を止めても国から補助を出し続けて頂いていたのでずっと不思議に思っていたのですが、本当は私のお母さんとの事が理由だったのでしょうか?」
アイシャが、急に思い出したようにご老公に尋ねる。
そう言えば、聖女候補止めたのに国の補助が出ているって言っていたねぇ。
「聡い子じゃな!その通りじゃよ。
知り合いの娘の生末を案じて、成人まではせめてワシが援助してやらねばと思ってな。
表だって動けないから聖女候補と云う理由を隠れ蓑に使っておったのじゃよ」
う!名探偵の名はアイシャに持って行かれたか。
「そうで御座いましたか!ご老公様、本当に有難う御座います」
アイシャは深々と頭を下げる。
「そう云う事だから、バニング家がアイシャ嬢に係わる理由はもうないのじゃよ
分かったら、早よこの町から出て行かれるが良い。
それでも尚、アイシャ嬢に手を出すならばワシも黙っておらんからの。
バニング家を潰してやるから、そのつもりでおれ!」
キャー!ご老公様カッコいい。
まるで水○黄門様の仕置きみたい~。
「ハ・ハハァ~!」
マルタはひれ伏す。
「わ・私はアイシャ嬢を・・・」
「良いから黙って従って下さい!」
イスカルは納得いかない様で反論を言おうとしたところを、マルタさんに抑えつけられて一緒にひれ伏す。
ご老公はイスカルの反論で眉を上げたが、マルタが押さえつけたのでスルーした。
これで一件落着~!カーッカッカッカ!ってか。
ご老公様にこう云う仕置きをさせたかった^^
次回『第65話:老人二人』をお楽しみに~^^ノ




