第5話:土の精霊術
このリアース世界には魔物が存在する。
魔物とは体内に魔石を保有する獣の様な生物である。
弱い魔物もいれば、災害級と言われる強い魔物もいる。
魔物は人間を襲う。
魔物とは怖い存在である。
この世界では人間も人間を襲う。
盗賊と云う奴らだ。
ここは地球よりも弱肉強食がハッキリとした世界だ。
だから『命』が軽い。
自分の身は自分で守らなければならない。
ここはそんな世界である・・・
リアース歴3224年 10の月20日
「父さん、僕に土の精霊術と剣術を教えて!」
俺はようやく聖の精霊術ヒールを覚えた頃、父にこうお願いした。
少しでも早く自分の身は自分で守れるようになりたい一心からだ。
けして精霊術にワクワクしているからではない・・・と思う。
たぶん・・・
「お前にはまだ早い!
精霊術には鍛錬が必要だし、ひたすらコツコツと練習する忍耐力が必要だ。
剣術だって剣を振る力も体力もないではないか。
まずは走って体力を鍛えないといかん。それからだ!」
父に言い返されてしまった。
(ちくしょう!)
それで諦めるような俺ではない。
精霊術への探求心は並ではないのだ。
嫌、あくまでも自衛のために必死なのだ・・・
本当なんだってば!
「わかった!これから毎日走って体力をつける。剣術はそれからでも良い。
でも、聖の精霊術の『ヒール』は練習して使える様になったんだから、土だって出来る様になるはずだよ。
土の精霊術教えてよ、父さん!」
俺は目をウルウルとして再度懇願した。
こうなったら意地である!
ありとあらゆる方法を使ってでも教えて貰わなければ。
ジャパニーズ『土下座』だってしてやるさ。
「ヒールを使える様になっただと?その歳でまさか・・・」
父は目を大きく開く、凄く驚いたようであった。
飯飯!嫌、しめしめ!
「指を少し傷つけてみるから、父さんにヒールを掛けてみなさい」
「分かった。きちんと出来たら土の精霊術教えてよ」
父はそう言って、自分の左手の人差し指を歯で軽く噛んだ。
父の指からは血が滲んで来ていた。
俺は怪我をしている父の指の上に両手をかざし、ヒールの詠唱を唱え始めた。
「癒しをもたらす聖の精霊達よ!我の願いを聞き届け、聖なる力を与え給え!
傷つけられし指に癒す力を~!『ヒーーール!』」
俺の手に魔力が集まり、手を通して父の指に魔力が注ぎ込まれる。
俺の両手から光が発した。
優しい光だ。
父の傷はみるみると治って行った。
「おぉ、これは!」
父は本物のヒールだと感心してくれた様である。
ふふふふ!3歳で精霊術使う俺って天才だぜぇ。
「うむ。見事なヒールだった。精霊術を習得するだけの忍耐はあるようだな。
土の精霊術を教えても良かろう」
父は納得して、土の精霊術を教えてくれる事になったのだった。
(父さんってチョロインだわ~)
その日から、父は俺に土の精霊術を教え始めた。
俺と父さんの住む家は、小さな平屋建てのログハウスみたいな家だ。
広い庭もある。
練習場所はその庭だ。
「土の精霊術は、戦闘においては主に防御術が得意と言われている。
生活においては農耕土木で有利とされている。これは分かるか?ルーク」
「うん、知っているよ」
「そうか!まず、代表的な防御術の『ウォール』から見せるかな。
高さや幅や厚みを的確にイメージするのが重要だ。
大きなウォールを作るから少し下がっていろ」
父はそう言ってから、片手を地面に当てて、ブツブツと詠唱を唱え始めた。
「大地を愛する土の精霊達よ!我の願いを聞き届け、土なる力を我に与え給え!
我を守る土壁を~!『ウォーーール』」
俺達の手前1メートル先くらいの地面から、ムクムクと地面が盛り上がり出した。
あっと言う間に高さ1mくらいで幅2m、厚みは50cmくらいの小さな土壁が出来た。
大きな壁って言っていたじゃん・・・嘘つきめ!
「おぉ、凄い!でもちっちゃいね」
つい本音が出てしまった。
あ!父が涙目になっています。
(父よ、ごめんなさい)
「に・庭が狭いから・・す・少し小さくしたんだ!」
メッチャ言い訳しています。
見苦しいです。
カッコ悪い~。
「ほ・他にはどんな術があるのかな、父さん」
可哀想なので無理やり話を逸らしました。
俺って良い子でしょ?
「ほ・他に一般的な術は・・・足場の土を柔らかくして敵の体制を崩す補助術『ピート』。
砂粒を辺り一面に舞い上げて相手に動きを封じる補助術『サンドストーム』。
地面から刃の尖った様な岩で攻撃する術『ストーンエッジ』。
後は、魔力量が多い人ならば土の人形を作り従わせる術の『ゴーレム』かな。
ただし、長くゴーレムを従わせるならば『魔石』が必要となるな」
「魔石って、あの魔物から獲れる魔石の事?」
「その通りだ!ゴーレムを生成する時に魔石を組み込んで上げると、こちらからの魔力供給をかなり減らす事が出来るんだ。
そして、ある程度命令をしておけば自立して動いてくれるんだ」
「へぇ~、凄いねぇ!」
土の精霊術ってゴーレムも出来るんだぁ~。
俺は頭の中でドラ○エで出て来たゴーレムを思い浮かべていた。
世間では土の精霊術って人気がなくて不遇術って言われているけど、別に不遇じゃないじゃん。
運用次第ではかなり便利になるんじゃないの?
「父さんもゴーレム術って出来るの?」
「勿論、出来るぞ!ゴーレム術は魔力量が多くないと出来ない術で、ゴーレム1体だけでも出来る人は割と少ない。
父さんは短時間なら2体まで出来るんだぞ、エッヘン!」
うわぁ~ドヤ顔だぁ~。
先ほどまでは涙目で言い訳していたのに~。
「父さんって凄いんだねぇ。ゴーレム術見せて欲しいなぁ!」
「任せなさい!家の中から魔石を持って来るからちょっと待ってなさい」
父は浮かれ顔で家の中に走って行った。
(父よ!やっぱりあなたはチョロインだわ)
直径5cmくらいの赤い魔石を持って来た父は、魔石を地面に置いて左手を添えた。
「最初に言っておくが、今回は小さいゴーレムを生成するからな。
本当はもっと大きなゴーレムも生成出来るんだからな!」
あ!この人予防線を先に引きやがった。
先ほどの事まだ根に持っているな。
大人げねぇ~!
「大地を愛する土の精霊達よ!我の願いを聞き届け、土なる力を我に与え給え!
我に従う新しき従者に力を!出でよ!『ゴーーーレムーー!』」
父の左手の10cm前くらいからの地面から土が盛り上がって来た。
30cmくらいのゴーレムだ。
(鉄○28号まんまやんけ!)
鉄人、あ、違った。ミニゴーレムは庭の中をチョコチョコと走り回る。
見ていて何かほのぼのする~。
癒されるわ~。
俺も早くゴーレム術ができる様になりてぇ。
この日から、土の精霊術の特訓が始まるのであった。




