第57話:昔のように
リアース歴3236年 5の月24日8時前。
穴熊亭で朝食を終えた俺達は、宿を出て冒険者ギルドへ向かう。
アイシャは俺の左腕に絡みつく様に抱き着きながら歩く。
照れ臭いけど、アイシャのぬくもりを感じて嬉しい。
すれ違う男共の痛い視線が俺を刺す。
ワ~ッハッハッハッハ、羨ましいだろう雄共め。
俺はそんな視線じゃ倒せないぜ!
二人でラブラブオーラを醸し出しながら大通りを歩いて行く。
ちなみにイナリは俺の頭の上でうたた寝中です。
「今日も良い天気ねぇ!イナリちゃんが気持ち良さそうに寝ているわ」
空には小さな雲が所々に浮かんでいる。
今日は五月晴れじゃのう。
あれ?そう言えば五月晴れって梅雨の時期に晴れた日の事だった?
5月の晴れと云う意味じゃなかったか。
まぁ、いっか!
「そうだねぇ。こんな穏やかな日はゆっくりとお昼寝でもしたいよねぇ」
俺は欠伸をしながら答える。
お昼寝したら気持ち良さそうな陽気さだ。
「ルークの場合は、ただお疲れだから眠いだけじゃないのかしら~?」
アイシャがクスっと笑いながら俺に突っ込みを入れる。
う!反論出来ないっす。
「うぅ、その通りで御座いますお代官様」
俺は愛子が好きだった時代劇ネタで応戦する。
「うむ、素直で大変宜しい。よってその方に褒美をとらす!」
アイシャもノリノリで返して来るねぇ。
「ハハァー!」
学校帰りによくこうやってバカ言って帰ったなぁ。
昔に戻ったみたいだ。
「今宵は身体を労りエッチな事はしないでじっくりと休むが良い!」
えっ!?
それって褒美じゃないやんけ。
これは一大事である。
「そ・それだけはご勘弁下さいませお代官様!ムスコが・・・大事な私のムスコが不憫でなりません。どうか・・・どうかそれだけはご勘弁を~!」
アイシャはクククっと笑いを堪えている様だ。
アイシャ~、これはあんまりだよ~。
「あい分かった!では、こうしよう。以後、他の女人に色目を使うでないぞ。
浮気などもっての外じゃ。良いな、生涯妻一筋と致せよ。
これが守れるなら・・・今晩もいっぱい可愛がってね、ルーク!」
アイシャは最後の言葉だけ耳元で囁くように言った。
うほ~、最後の言葉は股間に響いた~。
この場で押し倒したい気分です。
しかし、前にも思ったけど、愛子ってこんなに嫉妬深かったかなぁ?
まぁ、他の女なんかに絶対目移りしないけどね。
「何朝からイチャイチャしているのさ!このバカップル!」
後ろから話しかけられた。
マシューだった。
「姉に向かって、随分な言い草ね!」
アイシャの愛らしい顔から急に怒りのオーラが上がる。
俺やイナリはビクっと反応してしまう・・・嫌、マシューもそうか。
「ね・姉ちゃんゴメン!」
アイシャの怒りのオーラで後ずさりしていますよマシュー君。
額から汗まで出しちゃってさ・・・俺もマシューの事は言えんけどね。
「最近は特に生意気なんだから~まったく!」
すっかりお冠なアイシャさんです。
この責任は取れよマシュー。
「あ!姉ちゃんその恰好?か・買ったのか?」
マシューがアイシャの皮の防具を見て、目を輝かせながら言う。
「エッヘン!良いでしょう。ルークが私のために買ってくれたのよ」
アイシャが両手を腰に当てて、モデルみたいなポーズをする。
キャー!アイシャさん素敵~!
「中古で申し訳ないんだけどねぇ」
新品を買ってあげられなくて本当に申し訳ない。
貧乏な私で本当にゴメンなさい。
お願いだから捨てないでぇ~!
「あら!私はこれで充分満足よルーク。貴方からの愛を感じる防具よ」
ウットリとして言うアイシャ。
あ・あの~、所詮は普通の中古の防具なんで、愛は特に感じないはずっすよ。
「良いなぁ!俺も欲しいなぁ」
羨ましそうにアイシャを見るマシュー。
そして、ついでに物を強請る様に俺を見る。
俺は買ってやらないからな。
そんな顔をしてもダメだぞ。
「マシュー、男なら自分で買いなさいよ!」
アイシャ、代弁ありがとう御座います。
アイシャの言う通り男なら自分で買え。
「え~!ケチ~」
ケチとな!
ムキ~、俺はケチな男なんかじゃないやい。
「まぁまぁ、アイシャもマシューも落ち着いてよ」
一番心落ち着かないのは俺だけどな。
「実はアイシャにもマシューにもまだ話していないんだけど、ちょっとしたある計画があるんだ」
「「ある計画?」」
血は繋がっていないとはいえ流石姉弟。
息がピッタリですね。
「アイシャが成人して俺と本当の夫婦になったら、挨拶がてらにルタの村に行こうって前に話したよね?」
「そうだったわね!」
アイシャがコクっと頷く。
「実は挨拶はついでで、本当は別の目的があるんだよ」
「「別の目的?」」
本当に息ピッタリだね、君達。
俺、嫉妬しちゃうよ~。
「ルタの村の近くにはラウラ大山脈があるだろ。実はそのラウラ大山脈にレッドベアの変異種がいるんだよ。まだあまり知られていないけどね」
「レッドベアって確か熊みたいな魔物だったよね兄貴?」
マシューが自分の知識から掘り返して言う。
「そうだよ!そのレッドベアの皮はさぁ、防具として良く使われる素材なんだよね。
特に変異種となれば質は各段と上がる。
討伐ポイントも高いし、肉や素材も一級品だから狙う価値が大なんだよねぇ」
「も・もしかして、ルークと私でそいつを狩るつもりなの?」
アイシャが急にオドオドする。
まぁ、急にそんな事言われたらオドオドするよね。
「正解!変異種の皮で二人用のお揃いの防具を作ろうかなって思っているのさ。
新しく作れたら、俺やアイシャが今使っている防具をマシューにお下げしてあげられるだろ」
実は防具のペアルックを計画している俺でした。
ペアルックと言われてアイシャ引かないかな?
こう云うのって女の人はどう思うんだろうね?
女心が全く分からないんです。
「お揃いの防具は嬉しいんだけど、私達でその変異種を狩れるの?危険過ぎない?」
アイシャは心配そうに言う。
確かに変異種の名が出たら誰でも同じ反応するよねぇ。
「絶対大丈夫とは言えないけど、たぶん問題ない・・・かな。
俺、レッドベア1体なら一人で全然余裕だし、前にそいつを見た感じだとアイシャと二人でも充分倒せると思う。
まぁ、危険と判断したらすぐ引くから安心して良いよ」
俺はなるべく安心させるように言う。
嘘は言っていないよ。
本当に大丈夫だと思うからね。
「わ・分かったわ!その計画に乗るわ」
「ありがとうアイシャ!本当に心配ないから安心してね。
マシュー、計画が上手く行ったら、今来ている防具やるからそれで我慢しろよな」
「え~!俺も変異種の防具が欲しいなぁ」
不貞腐れた様に言いやがって。
「「そこまで甘えんな!」ないの!」
俺とアイシャから雷が落ちた。
マシューは慌てて逃げだして行った。
その姿を見て、俺とアイシャは顔を合わせてクスっと笑い合った。
こんな風に又笑い合えるなんて、本当に昔に戻ったみたいだ・・・
甘い雰囲気はこれで一区切り^^ 次回からは本格的な冒険者稼業に・・・なるかな?^^;
次回『第58話:アイシャの初実戦』をお楽しみにね~^^ノ




