第51話:暴行
リアース歴3236年 4の月30日20時。
オーレは冒険者ギルドのすぐ傍にある酒場で酒を飲んでいた。
昼過ぎからずっと黙々と飲んでいる。
飲んでいる壁際の席には窓があり、そこから冒険者ギルドが見える。
彼は窓越しからギルドを見つめ、ひたすら飲んでいる。
昼過ぎから飲んでいるはずなのに彼は酔っている感じがしない。
どこか狂気じみた顔をしている。
オーレの真向かいに座って飲んでいるのはマルタである。
彼もオーレに付き合い昼過ぎから黙々と飲んでいる。
彼はすでにぐでんぐでんに酔っていた。
「オーレ様!アイシャ嬢の事は忘れてもっと飲みましょう。
明日からは更に北のスザル領目指しましょう・・・ヒック!」
マルタはこのセリフを何度も言い続けている。
オーレはマルタの事を完全に無視して窓を見つめて飲んでいる。
冒険者ギルドは日が落ちると徐々に忙しくなって来る。
朝依頼を受けた冒険者達が帰って来て報告をし、報酬を受け取るためである。
オーレが見つめる冒険者ギルドは夜の一番忙しい時である。
冒険者ギルドの玄関から若い男女が出て来た。
アイシャとマシューである。
オーレは飲んでいた酒の入ったグラスをテーブルに置いて立ち上がる。
「親父、少し出て来る!戻って来なくても酒代はこいつが払うから安心しな」
酒場の主人に向かってオーレは言う。
マルタはテーブルにふせって寝てしまった様だ。
オーレは急いで酒場を出た。
アイシャとマシューは疲れてクタクタであった。
今日も一日一生懸命に働き、剣や弓の訓練もした。
疲れてはいるが、一日を頑張った達成感の様なものを感じている。
アイシャは今朝あった出来事はすでに忘れている。
今は空腹感と戦っており、思いは晩御飯の事で一杯になっているのだ。
「姉ちゃん、腹減って死にそう~。今日の晩飯は何だろうね?」
マシューが弱弱しい声で話しかけて来る。
マシューも思いは一緒の様である。
アイシャはクスっと笑う。
「私もお腹が空いたわ!暖かいスープが欲しいわ」
「俺は腹いっぱい肉が食いてぇ~!」
二人とも晩御飯の妄想でよだれが出そうである。
二人は足早に帰宅を急ぐ。
尾行されているのも気が付かずに・・・
冒険者ギルドから教会に向かうには、中央公園を通らなければならない。
スタンピードの時に住民が集まったあの中央広場がある公園だ。
あの時は、昼も夜も人で一杯だったが、今この時間は誰もいない。
公園は静かで、時折フクロウの様な鳴き声が聞こえて来て少し不気味である。
「ウグ!」
アイシャの隣りを歩いていたマシューが突然倒れた。
背後から何者かに殴られて気絶したのだ。
続いてアイシャは背後から口を押えられる。
「お前が悪いんだぜ!大人しく俺の女にならないから」
アイシャの背後からあの男の声がした。
オーレである。
彼は完全に狂っていた。
オーレはアイシャの美しさと魅力的なボディに魅了されてしまったのだ。
「$%&‘#“$%&”!」
オーレの右手で塞がれた口からは声を発する事は出来ない。
何とか逃げようと抵抗するもオーレの馬鹿力には敵わない。
オーレの左手がアイシャの胸に行き、乱暴に揉み始める。
「%&#*&$%!」
悲鳴すら上げる事が出来ない。
喋る事が出来たなら、風の精霊術でこんな奴弾き飛ばしてやるのにと・・・
「本当にエロイ身体だ!たまんねぇぜ!」
段々鼻息が荒くなって来るオーレ。
アイシャは抵抗し続ける。
「良い気分にさせてやるから、このまま黙って俺に抱かれな。
俺のイチモツで俺を忘れられない身体にしてやるぜ!」
アイシャの口を押えながら芝生に寝転がせる。
アイシャは激しく抵抗したが、オーレはその上に伸し掛かる。
アイシャの下半身に手が伸びようとしたその時!
「いい加減にしろよ下種が!首を飛ばされたくなかったらアイシャから離れろ!」
オーレの首の後ろに剣先が当たる。
ドスの効いた低い声である。
首に当たっている剣先から一滴の血が流れ落ちる。
オーレは観念して両手を上に挙げた。
「フォッカーさん!」
アイシャは叫ぶ。
オーレの背後からフォッカーの顔が見えたのだ。
「間に合って良かったぜ!」
一瞬、安堵した顔になるフォッカー。
その顔は又すぐに険しくなる。
「立ち上がれよ下種!」
冷たい声で言い放つフォッカー。
オーレは抵抗する事なく立ち上がる。
オーレの下になっていたアイシャは、そこから抜け出して立ち上がり、フォッカーの後ろに隠れる様に移動する。
「フォッカーさん、有難う!」
「礼の言葉はギルド長に言ってくれ!」
「ギ・ギルド長に?」
アイシャは巣頓狂な声をあげる。
「あぁ、そうだ!朝の一件を気にしていたギルド長が、俺にアイシャの護衛を頼んで来たのさ。
流石ギルド長だな。この下種の行動を読んでいたんだろうさ」
「そうだったんですか・・・私のために本当に有難う御座います!」
「ギルド長にしたらルークの嫁になるアイシャは、娘みたいなもんだしな。
俺にとってもルークの嫁は妹みたいなもんだから、心配するのは当たり前さ」
アイシャは暖かい気持ちで一杯になる。
孤児である自分にこうも優しくしてくれる。
この優しさはルークとの縁によるものだと云う事も充分に分かっている。
今傍にいないルークにも感謝の気持ちを送るアイシャであった。
「さて、この下種をどうするかな・・・
俺はこのままこいつを動けない様にしておくから、アイシャはマシューを起こして、縛る縄を調達して来てくれないか?」
しばらく考えていたフォッカーは考えを纏めるとアイシャにお願いをした。
アイシャは言われた通りに行動をする。
20分後には縛られたオーレが冒険者ギルドに連行されていた・・・
酔って眠ってしまっていたマルタは、ギルド長の使いの者に起こされて冒険者ギルドまで連行された。
ギルドで事の顛末を聞いたマルタは真っ青な顔になる。
酔いはいっぺんに冷めてしまった。
バニング家の後継者候補が未遂であったとしても婦女暴行を行ったのである。
事の重大さを悟ったマルタは、アイシャにまず土下座して謝罪をした。
関係した者にも順に謝罪して行く。
オーレは縛られたまま首都に連行し、着き次第裁判を行う事を制約する。
事をもみ消すのは不可能だろう。
だったら曖昧にするより、きちんと公にして誠実さを示した方が、バニング家に付く傷跡はまだ軽いと思ったからだ。
誠実で素早い判断と行動により、被害者のアイシャからは逆に気を使われるマルタであった。
マルタはこの時、フっと思った。
アイシャはバニング家の特徴を表した銀髪で美形である。
聖の加護もあり、凛とした気品も備わっている。
もしやバニング家の血を引いている者では?
アイシャが14歳の事も考えれば、行方不明になっているお嬢様の娘と云う可能性もあるのでは?
沸き上がる妄想は次から次ぎへと膨らんでいく。
「この事を伯爵様に報告して、アイシャ様を是非バニング家にお迎えせねば!」
このマルタの余計な妄想により、今後もアイシャはバニング家と深く関わって行く事になるのだ・・・
幕間はこれにて終了です^^次回から3章だよ~。
次回、新人冒険者の章『第52話:旅立ち』をお楽しみに~^^ノ




