第49話:姉弟
アイシャとマシューは同じ時期に孤児園に引き取られた。
アイシャが3歳でマシューが1歳の時である。
前世の記憶が蘇ったアイシャは、自分の新しい人生に混乱していた。
周りの状況が全く分からず、泣く日々が続いた。
アイシャの隣りにいる1歳くらいの男の子も同じ様に泣いている。
同じ様な境遇にアイシャはマシューに手を差し伸べる。
アイシャはマシューを自分の本当の弟と思って面倒をみた。
マシューはそんなアイシャに懐く様になる。
この時から二人は姉弟となった。
血は繋がっていなくても本当の姉弟の様に・・・
リアース歴3236年 4の月30日8時前。
「ふわ~!眠いなぁ。アイシャ姉ちゃん!姉ちゃんは午前中商人ギルドで会計の仕事をして、午後から魔物の解体作業の仕事だっけ?」
欠伸をしながら眠そうな顔をしたマシューがアイシャに話しかける。
二人は今、冒険者ギルドに向かってトボトボと歩いていた。
「そうよ!マシューは?」
アイシャも釣られて欠伸が出そうになるのを堪えて答える。
「俺は午前中水路の掃除をやって、午後から一緒に魔物の解体作業だ。
夕方からはフォッカー師匠の剣の修業かな」
「私も夕方からは師匠と弓の訓練よ・・・」
アイシャはハァーとため息を付きながら歩く。
二人の足取りは重い。
アイシャは今、冒険者見習いとして忙しい毎日を送っている。
冒険者の技能を高める時間、お金とポイント稼ぎで休む暇もないのだ。
彼女が聖女候補を止めた事で、国から貰っていた補助金が減ると思われたが、彼女が孤児園にいる間は今まで通りの補助金が出る事になったのだ。
彼女はその事を聞いてホッとした。
しかし、彼女が孤児園を出る日はすぐ来る。
今はマシューと少しでもお金を貯めて孤児園の生活を助けたいと思っている。
彼女は前にルークが語っていたルタの村の孤児園の生活事情を思い出していた。
自分が居なくなれば、いずれ同じ様な苦しい生活になってしまうのだろうか?
自分達は今までどれだけ甘えた生活をしていたのであろうかと・・・
「ルークの兄貴は来月で成人だっけ?」
マシューが重々しい雰囲気は変えようと話題を変えて来た。
「そうなの!22日」
アイシャの顔はパァっと明るくなった。
ルークの姿を思い出し、会いたい想いが募る。
「姉ちゃんもいよいよ嫁入りか~。寂しくなるねぇ」
マシューがニヤっと笑い、からかう様に言う。
「嫁入りって・・・もう、バカ!」
プイと顔を横に向ける。
耳が真っ赤になっているのが分かる。
「照れてる照れてる!兄貴はすぐこっちに来るんだろ?」
笑いを堪えながら更にからかう。
「もう!すぐからかうんだから。
ルークは22日の夜にこっちに来るって言っていたわ。
あぁ~待ち遠しい」
「幸せそうだねぇ!兄貴が来たらすぐ一緒に住むんだろ?」
「そ・そのつもりなんだけどね・・・」
急にアイシャの顔が曇った。
ルークが成人して、この町に来たらすぐ一緒に住む事は彼女の願いだ。
でも後ろ髪が引かれる。
自分が孤児園から出れば、孤児園の補助が減ってしまう。
残された者達は苦しい生活となる・・・
「姉ちゃん!俺達の事は気にしなくて良いんだぜ。
どうせ、成人したら孤児園から出て行くんだしさ。
姉ちゃんの成人って7の月後半だろ?すぐじゃん!」
「そうだけど、私が抜けたら・・・」
アイシャがどんどん落ち込んで行く。
マシューはこの話を振って失敗したと後悔する。
「大丈夫だって!俺、これからガンガン働くからさ、安心して嫁に行けって~。
それにさ、実は俺、少し期待しているんだぜ」
マシューは悪戯っ子の様な悪い顔をする。
ワザとアイシャを安心させるためでもあるのだが。
「期待?」
「そうさ!姉ちゃんが兄貴と一緒になったらさ、毎日の様に魔物を狩って、肉を孤児園に持って来てくれるんじゃないかなぁってね」
「アンタ何言っているのよ!ルークに迷惑かけてどうすんのよ」
呆れた顔でアイシャが言う。
でも、これはマシューがワザとこう云う風に言っているのだと分かっている。
何とか自分の背中を押そうとしてくれているのだ。
血は繋がっていないとはいえ、姉弟の様に育って来た仲だ。
考えている事なんてだいたい分かる。
「マシュー、皆の事お願いね!私も出来るだけ孤児園の助けになる様に頑張るわ」
「分かっているって!姉ちゃんは自分の幸せだけ考えていろよ」
「ありがとう、マシュー!」
しばらく沈黙の時間が続いた。
アイシャもマシューも今までの事を思い出していた。
姉弟として10年以上一緒に過ごした時間。
一緒によく笑った、喧嘩もよくした。
別れの日はもうすぐである。
お互いに切ない気持ちであった・・・
冒険者ギルドが見えて来た。
朝のギルドは依頼を受ける人が集中して混雑する。
出入りの人が多いギルドの玄関ドアは、開いたり閉まったりと忙しい。
「今日も混んでいそうね?」
アイシャがげんなりした顔でマシューに言う。
「そうだな!」
マシューもげんなりした顔で答える。
マシューが先でギルドに入ろうとするその時だった。
「そこのアンタ!もしかしてアイシャって女か?」
背後から急に声を掛けられた。
振り向くと、大剣を背負った背の高い青年が立っていたのだった・・・
世間はお盆休みに突入。しかし私にはそんなものはない( ノД`)シクシク…
お盆中も休まず更新しますよ~^^
次回『第50話:花嫁候補』をお楽しみ~^^ノ




