第37話:スタンピード4
リアース歴3235年 6の月22日 21時過ぎ。
エターナの町の中央広場には、キャンプファイアーが焚かれて活気に満ちていた。
15歳以上の男連中は槍や長い棒などを持ち、冒険者達と一緒に交代で守りについている。
俺は14歳だけど、すでに戦力として見られているのでこちら側だ。
女性陣は賄いをする者と治療を手伝う者に分かれて慌ただしく動いている。
10歳以上14歳以下の男の子は見回り隊を結成していた。
これはマシューが言い出した事だ。
成人未満だって皆と同じで何か役に立ちたいとステイさんに懇願したのだ。
見回り隊は3人一組になって、交代で町の中や石垣付近の見回りである。
お年寄り達は幼い子供達の面倒を見る。
ミネバ婆ちゃんは、ここで子供達が不安にならない様に楽しいお話やおとぎ話などしていた。
大勢でキャンプをしているみたいだな。
町の皆が一つになっているのを感じる。
俺はアイシャの見張りでまだベンチで横になっていた。
ステイさんにマジックポーションを1本貰って飲んだので、魔力も大分回復したんだけどなぁ。
取りあえず、もうしばらくは休んでないといけないらしい。
日が沈んでからはゴブリンの攻撃は収まっていた。
ゴブリン達が少数で石垣の周りをチョロチョロしているのは、見張り台にいる監視員達の情報のお陰で分かっていたが、まだ特に何も仕掛けて来た様子はなさそうである。
奴らは何を企んでいるのだろう?
不気味である。
長い夜はまだ始まったばかりである・・・
日付が変わり23日になった。
空は満天の星である。
キャンプファイヤーの傍で、お年寄りや幼い子供達は皆固まって眠っている。
警備や見回り、他の人達も交代で仮眠を始めている。
パチパチパチっとキャンプファイヤーの火が燃える音が鳴る。
広場に静かな時間が流れる。
「皆、大変だよ!奴らが水路を使って侵入して来た」
マシューが他の見回り隊の子供達と一緒に駈け込んで来た。
「水路か!東西どっちだ?」
「東の方だよ!西は別の隊が見回りをしているから分からないけど」
やられた。
俺はベンチから起き上がる。
エターナの町の南には西のラウラ大山脈から流れて来ている大きな川がある。
川は、エターナの町の南を抜け、東の外海目がけて流れている。
エターナの町はその川から水路で水を引いている。
人間の子供1人くらいの大きさの奴らなら、水と一緒に通り抜けるのは可能か。
水路は確か2か所。
南面の石垣の東西に1か所ずつ。
見回り隊が見たのは取りあえず、東側の方。
「僕は東側へ行って穴を塞ぎます。他に土の精霊術を使える方、誰かいますか?」
「俺が使える!」
1人のオッサンが立ち上がった。
あ!土建屋の親方。
流石だね。
「俺が西を塞ぎに行く。任せておけ!」
「親方、お願いします!」
そこへステイさんがやって来た。
「他に休んでいる者は左右に分かれて奴らの討伐をお願いします。
後、正門・裏門にも奴らが侵入している事を伝令。
皆、警戒を怠るな!」
「「「「おぉ!」」」」
皆が一斉に動き出す。
俺は東側の水路へ駆け出す。
「ルーク、無茶はしないでね」
泣きそうなアイシャの顔。
「嬢ちゃんの言う通り無茶はいかんぞ」
ミネバ婆ちゃんも心配そうな顔だ。
皆が心配してくれる。
俺って幸せ者だな・・・
「分かっているって!イナリもいるし大丈夫さ」
本当に大丈夫だよ、二人とも。
「キュ!」
(任せて)
広場を出て、俺は詠唱を始めた。
「土なる力を我に与え給え!新しき従者!出でよ!『ゴーーレム!』」
馬型の鉄人君を生成。
俺は鉄人君にまたがる。
昨日の様に勢い余って逆に落ちる様なヘマはもうしない・・・たぶん。
あぁ、忘れたい黒歴史を思い出してしまった。
おっと、そんな事を思い出している暇はなかったんだっけ。
俺は後から走って来る人に振り返る。
「先に行きます!」
俺は水路に向けて鉄人君をかっ飛ばした。
水路の近くまでやって来た。
「「「「ギギギギ!」」」」
水路の傍でゴブリン達が15体以上集まっている。
1体・・・また1体、次々と水路を通り抜け来ている様だ。
闇にまみれて侵入とは忍者のつもりか~。
俺は鉄人君から降りて、静かに近寄る。
見渡すと他は取りあえず見当たらない。
ん~、集まってくれているのは有り難いが、水路が傍にあるからなぁ。
痺れ粉や眠り粉の入った小袋は使えないよなぁ・・・
水路の水に入ったら大変だしなぁ。
後続を待つか。
この状況では、俺1人では無理だ。
焦る事はない。
無茶はしないって父さんと約束したからな。
しばらく様子を見ていた俺。
後続がようやく追いついて来た。
「待たせた!どのような状況だ?」
Eランクの冒険者さんが話しかけて来た。
まだ若そうだな。
30人ほどやって来た。
「奴らはまだ水路付近で集まったままです。1人ずつ水路を抜けて来ていますね。
戦力的には今なら有利と思いますが・・・一斉に撃ってでますか?」
状況を報告する。
30人の中で冒険者の人は3人くらいか。
取りあえず年上の人に指揮は任せちゃおう。
「時間が経つほど向こうは増える様だし、一気に撃って出よう。
冒険者の俺ら3人が前に出ますので、他の人はなるべく俺らの後ろから攻撃を。
ルーク君は、まず水路を塞ぐ事を頼む」
「分かりました。一つだけ提案がありますがよろしいですか?」
俺は指揮する先輩冒険者に意見を出す。
「何だい?言ってごらん」
偉ぶらない人だ。
好感もてるな、この人。
「皆さんが突入前に、奴らの足元に土の精霊術をかけて体勢を崩して起きますね。
そうすれば、こちらの被害は、多少は少なくなるはずです」
「分かった!それで行こう。皆さんもそれで良いですね?」
全員が頷く。
よし、決まったね。
「では、ルーク君の精霊術の詠唱を合図に行きますよ。ルーク君頼む!」
「ハイ!土なる力を我に与え給え!大地を砂に!『ピーート!』」
足元が急に砂と化し、輪の中心に向かって足がとられるゴブリン達。
アリ地獄の様な感じかな。
「皆、行くぞ!」
「「「「おぉ!」」」」
一斉に駆けだす。
ゴブリン達の事は頼みます。
俺は水路を塞ぐのが優先と。
「「「ギギギギギ!」」」
「「「コノヤロー!」」」
先輩冒険者を先頭にゴブリン達に襲い掛かる。
ゴブリン達は足を取られていて、まともに立つ事が出来ない。
剣に槍、長い棒の様な物で遠巻きに攻撃する。
俺もようやく水路で穴が空いている石垣に辿り着いた。
「土なる力を我に与え給え!守る土壁を!『ウォーーール』」
土が盛り上がり、穴を塞ぐように石垣の穴を覆った。
よし、任務完了だ!
振り向くと乱戦状態になっている。
でも、半数のゴブリンが倒れていた。
こちらは2人ほど軽い傷を負ったかな?
「こっちは終わりました。助太刀します」
刀を抜いて駆け寄る俺。
「有難うルーク君!皆、もう一踏ん張りだ!」
「「「おぉ!」」」
程なくして戦闘は終わった。
こちらの犠牲者はなし。
軽症者が3人。
(ガハハハ!圧倒的ではないか、わが軍は! by ドズル)
西の水路も同じように戦闘があった様だ。
水路の穴埋めは無事任務完了し、ゴブリン達の討伐も完了したが、怪我人は半数ほど出たらしい。
初日の夜の襲撃はこれだけで終わった。
ルーク達に一時の安らぎが訪れていた・・・
次回『第38話:スタンピード5』をお楽しみに~^^ノ
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