第35話:スタンピード2
リアース歴3235年 6の月22日 17時頃。
俺は馬型の鉄人君に乗り、裏門を目指している。
町の中央に位置する中央公園の辺りまでやって来た。
「キャー!いや~!」
「ギギギギ!」
「だ・誰か助けてー!」
悲鳴だ!
何処だ?
俺は鉄人君のスピードを落とし、周りを見渡す。
あそこか!
俺は鉄人君から降りて駆け出す。
ア・アイシャ?
ゴブリン1体に腕を掴まれているアイシャ。
ゴブリンはこん棒を持っていやがる。
アイシャを助けないと!
アイシャを助けないと!
アイシャを助けないとぉぉぉ!
俺の身体中に何かが沸き起こる。
少し離れた所で助けを呼ぶもう1人の男の子がいた。
足がガクガクと震えている。
マシューか?
「イナリ!俺が奴の気を引くから背後から頼む!マシューは下がれ!」
「キュ!」
(了解!)
「え!ルークの兄ちゃん?」
困惑するマシュー。
俺はその横を通り過ぎる。
イナリは大きく迂回して背後に回ろうとする。
「アイシャを放しやがれ!」
俺はゴブリンとアイシャの前で立ち止まる。
連れ去られてたまるか!
ゴブリンの目は俺に向いている。
イナリには気が付いていないな。
「ル・ルーク!?助けてぇ~ルーク!」
アイシャは俺だと分かるとゴブリンから逃れようと激しく抵抗をする。
ゴブリンは抵抗するアイシャを抑えつつ、こん棒を俺の方に向けて威嚇して来た。
「今すぐ助ける!」
アイシャの顔をジッと見つめる。
アイシャは黙って頷いてくれた。
俺は刀を抜く。
すり足でジリジリと近寄る。
俺とゴブリンの目が交差する。
ゴブリンの意識は完全に俺に釘付けだ。
イナリが背後に到着だ。
俺は目でイナリに合図をする。
イナリがゴブリンの頭に小さめの狐火を射かける。
アイシャに被害が及ばない様に。
「グギャギャ!」
ゴブリンは狼狽える。
アイシャを掴んでいた手を放す。
今だ!
「アイシャ離れろ!」
俺は叫びながら、ゴブリンに向かって刀の先を向ける。
ゴブリンはこん棒を振り回した。
俺は咄嗟に屈んでかわす。
そして、そのまま刀を突き出す。
スブリ!
喉もとに刀が刺さった。
「グギャー!」
俺は刺さった刀を抜き、正眼の構えをする。
ゴブリンはよろめきながら2歩後ろに下がった。
そして、崩れ落ちた。
「アイシャ無事か?」
ゴブリンが死んだと確認出来ると、俺はアイシャに駆け寄り彼女を抱きしめる。
彼女はコクコクと頷く。
そのまま俺の胸で泣き出した。
あっ、アイシャの胸が当たっている。
うぅ、これは堪らん!
「もう大丈夫だ!心配いらないよ」
俺は彼女の頭を撫でながら気を落ち着かせる。
彼女の震えはなかなか止まらない。
「キュ!」
イナリが戻って来た。
イナリはアイシャの肩に上り頬を舐める。
「ルークの兄ちゃん!アイシャ姉ちゃん!」
マシューが駆け寄って来る。
「ごめん!俺、何も出来なかった・・・」
手を力一杯握って悔しがっているのが分かる。
涙でも堪えているのかな?
「初めては誰もあんなものさ。それに大声を出してよく知らせてくれたな」
「兄ちゃん・・・」
アイシャもマシューも落ち着いたかな。
「マシュー!お前、冒険者になりたいって言っていたよな。
お前は奴らに討たれる覚悟はあるか?」
「う・討たれる覚悟?」
「そうだ!討たれる覚悟だ。冒険者は魔物と生きるか死ぬかの戦いをする仕事だ。
魔物の方が強ければ俺達はやられる。
討って良いのは、討たれる覚悟のある奴だけだ」
(撃って良いのは、撃たれる覚悟のある奴だけだ! by ルルーシュ)
ふっ!決まったぜ!
このセリフ一度言ってみたかったんだよなぁ~。
今の俺ってカッコいいかも~。
「う・うん!」
俺は魔物の素材剥ぎ様のナイフをマシューに渡す。
「貸しておいてやる!マシュー、アイシャを連れて皆の所へ行け。
俺は裏門に行ってしなければならない事がある」
アイシャから離れたくない。
この感触をず~っと味わっていたい。
でも、今そういう状況じゃないのよ。
神様の意地悪~!
「い・行かないでルーク!一緒にいて」
「そうだよ、ルーク兄ちゃん!」
アイシャとマシューが叫ぶ!
ああん、アイシャにそんな目で見ないで~。
「済まない!後を頼む、マシュー」
俺は鉄人君の駆け寄り飛び乗る。
・・・勢い余って裏側に落ちた!
は・恥ずかしい~。
あ!アイシャとマシューの視線が痛い。
汚物を見る様なそんな目でみないでぇ~
うぅ、俺ってカッコ悪ぅ~!
イナリがアイシャから離れて俺の肩に飛び乗る。
イナリから視線も痛い。
ウェ~ン!
「よし!裏門に向かうぞ」
鉄人君は裏門に向かって駆け出したのであった。
アイシャとマシューの目は何処までも痛かった・・・
あれからゴブリンに襲われた人は見かけなかった。
侵入したゴブリンはほぼ討伐出来たかもな。
裏門が見えて来た。
裏門の大扉は閉められている。
「皆さん、大丈夫でしたか?」
駆け寄った俺は、門番に話しかけた。
「いったい何が起きたんですか?
正門の鐘が鳴ったとので、取りあえず裏門は急いで閉めたんですけど」
何が起こっているか分かっていない様です。
まぁ、伝達のしようもないから、仕方がないですね。
でも門番さん、グッジョブです。
素早く大扉を閉めて頂いて助かりました。
「ゴブリンのスタンピードです。正門が襲われました」
「え!本当ですか?」
「でも、今は大丈夫です。正門は閉められ、ゴブリンの侵入を最小限で食い止めました」
俺の説明でホッとする門番の人達。
「これから、正門と同じように裏門の大扉も強化を致します。
皆さん、大扉から離れて下さい
土なる力を我に与え給え!守る土壁を!『ウォーーール』」
土壁が大扉に覆い被さる。
ふ~、これで一安心だ。
ステイさん達がようやく追いついて来た。
「ルーク君!裏門も強化も終わったんだね?」
「ハイ!今、無事に」
「ふむ!これで先ず一安心だな。済まないが門番の者は引き続き裏門を頼む。
状況が落ち着いたら交代の者をよこす。何かあったら冒険者ギルドまで!」
「「「「了解致しました!」」」」
「後の者は、他にゴブリンがいないか町中を探索だ。1時間後にギルドに集合してくれ」
「「「「「ハイ!」」」」」
素早く指示をだすステイさん。
さすが副ギルド長、優秀だね。
俺達は急いで町中の探索を始めるのであった・・・
何故だ!シリアスな雰囲気に出来ない・・・( ノД`)シクシク…
次回『第36話:スタンピード3』をお楽しみに~^^ノ




