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リアース戦記 ~鉄壁のルーク~  作者: ナナすけ
小さな英雄の章
34/187

第33話:アイシャ(挿絵あり)

アイシャ視点の話です。

後半、アイシャが暴走します^^;

 話は少し前にさかのぼる。

 リアース歴3224年 7の月18日。


 エターナの町の近くで旅人を乗せた馬車が魔物に襲われた。

 助けに行くと、生き残ったのは血まみれになっていた少女一人だけであった。

 その少女は名前も歳も分からない。

 今までの記憶を失っていた。

 少女はエターナの町の教会に預けられる事になった。

 少女はアイシャと名付けられ、助けられた7の月18日を誕生日として、背格好から3歳と決まった。

 アイシャと名付けられた少女は、肩越しまで真っすぐに伸びたシルバー色の髪で、目は綺麗な青色。

 口がちょっとアヒル口っぽくて、顔は小さく、可愛いと誰もが思う美少女であった。


 アイシャには聖と風の精霊の加護があった。

 これには周りの人達も驚いた。

 精霊の加護は遺伝に大きく左右される。

 聖の加護持ちは近年数が減っており、聖の加護持ちで生まれて来る子は貴族か教会に関係した家に多い。

 それ以外で聖の加護持ちが生まれて来ることは割と珍しいのだ。

 エターナ子爵や教会は彼女の将来性を買って大事に育てた。

 聖女候補として・・・


 アイシャは物覚えが良く、勉強や精霊術にも長けて優秀な子であった。

 学校に通う様になってからは、成績は常に1番である。

 気持ちの優しい子で、学校では友達も多く、先生には信頼されており、誰からも愛される子であった。

 でも、彼女は何時も何処か寂しげであった。


 彼女が12歳になる少し前の事。

 同じ年頃の少年と出会った。

 少年の名はルーク。

 その少年との出会いは彼女を変える。



 隣りのルタの村からやって来た少年は、慌ただしい朝食の時間にやって来た。

 私にとって教会の家族の団欒は大事な一時です。

 それを邪魔した少年を私は少しだけ快くは思わなかった。


「手紙を届けに来たですって?何時だと思っているんですか、こんな朝早くから。

 普通は何処も朝食を食べている時間ですよ。非常識な・・・」


 しまった!

 つい言い過ぎてしまった。

 私は深く反省をした。

 おどおどした少年。

 あの人に少し似ているかな?

 懐かしい気持ちが沸き起こる。

 あ、ダメよダメ!

 昔の事は忘れなくちゃ。

 ルークと名乗った少年とは夕食にもう一度会う事となった。



「あら、朝の非常識な人。いらっしゃったのね」


 あ!又心にもない事を言ってしまった。

 彼を見ていると何かイライラしちゃうんです。

 何ででしょうか?


「あ・あの~、この肉をどうぞ!獲って来たばかりで新鮮です」


 右手に血が付いている。


「ヒッ!や・野蛮人!」


 私は悲鳴をあげてしまった。

 だって仕方がないじゃない。

 冒険者って魔物や動物を平気で狩るらしいけど、彼もそうなのね。

 動物を殺したの?

 あなたは生物を殺して平気なの?


 彼はマシューと仲良くなった様だ。

 周りの子達も彼の話を喜んで聞いている。


「あなたそんな事も知らないの?田舎者ねぇ、きちんと勉強しているの?」


 聖女候補だって事をマシューにバラされた。

 もう、恥ずかしいじゃない。

 余計な事をベラベラと。


「そうよ!聖女候補はいずれ聖女となって、人々の命を救う尊い存在となるのよ。

 あなた達冒険者の様に、無駄に人や魔物の命を奪う野蛮な人達とは違うのです。

 武器は人や魔物を傷つけて争う原因となるわ。武器を捨てて争いをなくすのよ。

 そうすればこの世界だって平和に・・・」


 又、言ってしまった。

 今度は偉そうに事まで言ってしまったわ。

 でも、無駄に血を流す事は嫌なの。

 どうして武器を持って争うの?

 命を奪うなんてやっぱり野蛮よね。



 夕食の時間となった。


「このお肉、彼が獲って来たお肉よね?マシューにあげるわ」


 冒険者見習いの彼が獲って来たお肉。

 頭にあの血の付いた右手が蘇る。

 ダメ!

 せっかく彼が獲って来てくれたお肉だけど・・・

 とても食べられそうにないわ。


「ここの孤児院って好き嫌いが許されるんですねぇ・・・」


 私はドキっとした。

 彼、怒っているわ。

 

「な・なによ!文句でもあるの?」


 強気な態度をしてしまった。

 彼に謝るどころか突っかかってしまったわ。

 勝気な性格なのは自分でも分かっている。

 もっと女の子らしくしないといけないのに・・・

 彼とはたぶん相性が合わないのね。


「俺の居る孤児院はこんな豪華な食事なんてありえない。

 いつもはパンとスープだけだ。

 お代わりなんてない・・・

 国が援助してくれているって言っているけど貧乏だぜ。

 少しでも食べる物を増やそうと教会の裏に畑なんて作ってさ・・・

 チビたちは畑を手伝い、俺は山や森に入って狩りだ。

 生きるのに必死なんだよ!

 アンタみたいに好き嫌いを言っていられる状況じゃないのさ。

 それにアンタ!俺が取って来た肉だから、いらねぇって言ったよな。

 それって、食料を持って来た者に対して非常識な言葉じゃねぇのか?

 朝から非常識なの野蛮人なの、散々人を馬鹿にするような発言をしてくれたよな。

 それこそ非常識じゃないのか?

 聖女候補だか何だか知らないが、アンタ何様のつもりだ!

 冒険者が野蛮人だって?

 俺達冒険者が魔物の数を減らしているから、アンタはこの町でノウノウと生きていられるんじゃないのか?

 俺の住んでいる村はラウラ大山脈のそばだ・・・常に死と隣り合わせさ。

 魔物がいつ襲って来るか分からない。

 確かにアンタが言う様に武器を捨てて平和でいられたら良いだろうさ。

 理想だよな。

 でも、この世界はそんな甘っちょろい事が通用する世界じゃねぇんだよ。

 聖女様は病気やケガは直してくれるかもしれない。

 でも、魔物から守ってはくれないよな?

 この世界は『命』が軽いんだよ。

 魔物に襲われて人が簡単に死んじまう世界なのさ。

 自分で身を守る力がないとあっという間に死ぬのさ。

 俺はそんな人を大勢見て来たよ・・・

 この国は奴隷解放令で奴隷がいないけど、他の国が隠れて奴隷狩りにやって来て女や子供を連れて行く。

 他国で売りさばくのさ。

 ゴブリンやオークが繁殖のために女性を攫って行ったりもする。

 死よりも苦痛らしいぞ。

 この世界は危険な事だらけさ。

 アンタはこんな常識知っていたかい?

 朝の無礼がどうだの、聖女候補が知らない事がどうだの、そんな事はどうだって良い。

 世界と云うかもっと大きな事に目を配れよ。

 鳥かごの中の鳥じゃないんだからさ!

 そうじゃないと次死ぬはアンタの番さ。

 これはシスター様にも問題があるんですよ!

 ここはおもちゃだって沢山ある。

 食事だって贅沢過ぎる。

 食事の支度も子供達は手伝っていない様だったな?

 俺の居る孤児院では信じられないぜ。

 随分の甘やかしっぷりだな。

 あまり過保護過ぎると、皆が成人してから困りますよ。

 世間の荒波はとんでもないんだぜ!」


 彼の話を聞いて私は愕然となった。

 彼は今までどんな生活をして来たの?

 彼も孤児だって言ったけど、私のこの生活の差は何?

 『命』が軽い?

 魔物がいる事は聞いて知っているけど、そんなに強い生物なの?

 奴隷狩り?

 魔物が人間の女性を犯すですって?

 何?私の知らない事ばかり・・・

 鳥かごの中の鳥!

 そうかもしれないわ。

 甘やかされている!

 そうなんだわきっと。

 私は偉そうな事ばかり彼に言ってしまった。

 こんな無知な自分が偉そうに。

 本当に恥ずかしいわ。

 涙が出て来る!

 私って本当に最低だ・・・



 彼が帰った後で、シスターから彼の事を聞いた。

 彼は、9歳の時に女性を連れて行こうとしたゴブリンと云う魔物と戦って倒したと云うらしい。

 ゴブリンとは、彼が言っていた女性を犯して繁殖する魔物。

 肌が緑色の人間の子供の様な背格好らしい。

 彼はそのゴブリンと戦った・・・女性を守るためだとしても、まだ9歳で!

 ゴブリンを倒した後、彼は精神的な疲れもあって丸一日眠っていたそうです。

 人の様な魔物を殺したんですもの。

 精神的に疲れてしまうのは当たり前だわ。

 彼は10歳の時にお父様を戦争で亡くしたそうです。

 戦争孤児になってしまったんですね。

 そして彼は孤児園に引き取られ、過酷な生活を送って来たそうです。

 孤児園の仲間のために11歳から狩りを始めたそうです。

 生きて行くために!

 私は周りからチヤホヤされて良い気になって、甘やかされて・・・

 彼が怒った理由が分かった気がする。



 彼は冒険者のギルドの依頼で、月に一度この町に来るようになった。

 教会にも手紙を届けに来ます。

 私は彼とまともに顔を合わすことが出来ず、陰から彼を見ています。

 おどおどしていた少年はどんどん男らしくなって来ています。

 学校で彼の話題が出る様になりました。

 彼は冒険者ギルドの依頼で町のいろいろなお手伝いをしているらしく、すでに町では有名になっている様です。

 計算が早くて頭が良いんですって。

 仕事の休憩中に身体を鍛えているそうなんですけど、筋肉が凄いのですって。

 公園にいる孤独なお婆さんの話し相手になっているらしく、優しいって評判です。

 学校中の女の子の何人かは彼に夢中の様です。

 彼は女ったらしなんでしょうか?

 何かモヤモヤしますわ。


 13歳になった頃かしら。

 エターナ子爵様を通して、何処かの貴族のご子息様から縁談の話が舞い込んで来ました。

 何件もです。

 私の聖の加護が狙いなんでしょうね。

 勿論、全てお断りして頂きました。

 私にはまだ先の話です。

 それに好きでもない人と結婚なんてとんでもない。

 彼の事がフっと頭をよぎった。

 ど・どうして彼の事?

 ん~、このモヤモヤ感が嫌~!


 私は今、偶然に彼と出会ってしまいました。

 迷子になった子を偶然一緒に助けてしまったんです。

 久しぶりに会った彼は背が伸びて男らしい顔つきになっています。

 カ・カッコいい!

 まるであの人の様に・・・

 久しぶりに話した彼は優しいです。

 心臓がドキドキしています。

 ん!これはまさか恋心なのでは?

 いやいやいやいや、それはありえないわ。

 私があの人以外を好きになるなんてありえない。

 私の声と彼の声が重なる・・・凄く恥ずかしい。

 ハっ!やっぱりそうなんだわ!

 こ・これは、あの乙女フィルターだわ。

 好きになった人が3倍カッコ良く見えてしまう恐ろしい恋の目の病。

 彼がカッコ良く見えてウットリしてしまう。

 お・恐るべし乙女フィルター。

 又声が重なった。

 キャー!恥ずかしい。

 彼をまともに見る事が出来ないわ。

 ハっ!なんだこの乙女思想は。

 滅びろ!滅びろ、滅びろ~。

 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏~♪

 私に恋なんて必要ないのよ。

 私は聖女候補!

 この身は大母神テーラ様に捧げるのよ。

 

 迷子の少女の母親が見つかりました。

 良かった!

 少女と母親が行ってしまいました。

 今、二人きりです。

 あ!一匹白いモフモフさんも居ましたね。

 チラ、チラっと横眼で彼を見る。

 ウットリ!やっぱりカッコいい~。

 あぁ~、このまま時間が止まればいいのに!

 ハっ!イカンイカン。

 本当に冷静になれ私。

 彼と私は黙ったままです。

 ど・どうしたら良いのでしょうか・・・


挿絵(By みてみん)



次回の話からいよいよ2章の見せ場に移って行きます^^

次回『スタンピード1』をお楽しみ~^^ノ

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