第32話:幸せな時間
あなたにとって幸せな時間って何ですか?
幸せと感じる瞬間は人ぞれぞれである。
好きな人といる時。
思いっ切り笑った時。
好きな事に夢中になっている時。
美味しい物を食べている時。
他人と何かを共有出来た時。
思い出に慕っている時。
ルークが幸せと感じる瞬間、
それは愛子の事を思い出している時なのだろうか?
それではあまりにも悲しすぎる・・・
リアース歴3235年 6の月22日。
「お疲れ様でした~!」
「「「ルーク君お疲れ~、又頼むね~」」」
商人ギルドの依頼の種類整理が終わってギルドを出た。
日が西の方に大分傾いている。
今日も天気が良いなぁ。
16時過ぎか。
さて、この後どうしようかな?
夕飯にはまだ早いし、中途半端な時間だな。
エターナの町で一番大きい通りを当ても無くプラプラ歩く。
「ギルド長達は、どの辺まで行ったのかなぁ~?俺も一緒に行きたかったなぁ」
ギルド長を含めたDランク以上の冒険者200人ほどは、昨日の朝早くにエターナ森林に向かって行った。
4~5泊は野営して、徹底的にゴブリンを斬滅するつもりらしい。
ゴブリンの繁殖力は半端ないからね。
ん?
女の子が一人で泣いている。
3歳くらいかな?
迷子になったんだろうか?
「「どうしたの?」」
声がハモった。
え?
横を向くとアイシャが居た。
彼女は驚いた顔をしてこっちを見ている。
1年振りに彼女を見た。
彼女は綺麗になっていた、各段に。
身体は丸みを帯び、女性の大人へとなりつつある。
少女の様な可愛さだったり、大人の女性の様な何とも言えない色気を出したりと、少女と大人の女性を行ったり来たりと実に魅力的な表情をする。
(大人の階段のぼる~、君はまだシンデレラさぁ~♪)
おっと、頭の中が前世にトリップして歌を歌ってしまったぜ。
しかし、絶世の美少女だな!
「「ここで何を?」」
またハモった。
彼女の顔が真っ赤になっている。
耳まで真っ赤だ。
たぶん、俺も同じ様に真っ赤になっているんだろうな。
3歳の女の子は泣き止んで俺と彼女の顔を交互に見ている。
「お嬢ちゃんは一人?お母さんはいないのかな?」
先に我に返った俺が女の子に聞いた。
「ママがいないの!いつの間にか居なくなっちゃったの・・・」
あ!目に涙が溜まって来た。
又、泣き出しそうだ。
「大丈夫よ!お姉さんが一緒にお母さんを探してあげる。
お名前はなんて云うのかな?」
ようやく立ち直ったアイシャが女の子を泣かせまいと、女の子の頭を撫でながら話しかけた。
「リーナ!本当にお姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒にママを探してくれるの?」
モジモジとして上目使いで聞いて来る。
ウワ~、この子可愛い~。
もしかして、これが萌えってやつか?
「「勿論!」よ!」
三度目のハモリ。
「お姉ちゃんとお兄ちゃん、さっきから同じ事を言ってる~。仲が良いんだねぇ!」
アイシャの顔はもう真っ赤っか。
俺も同じく真っ赤っかなんだろうね。
恥ずかしい~!
「イナリは、アイシャの所へ移って」
「キュ!」
イナリはジャンプしてアイシャの左肩に飛び移った。
素直素直!
お前は、女性には本当に愛想が良いよな。
「キャっ!」
アイシャが小さな悲鳴を上げる。
いきなり飛び乗って来たから驚いている。
そんな表情が可愛いな。
「イナリは云う事を聞くから安心して良いよ。よ~し!リーナちゃんには肩車をしてやろう。
高い所からママを探そうね!」
俺はリーナに手を伸ばす。
リーナの脇の下を掴み、ヒョイと空に向かって抱き上げる。
俺は肩車をした。
「わ~!高い高い。遠くまで見える~」
リーナの機嫌が良くなった。
肩の上で足をバタバタさせて喜んでいる。
ちょっと危ないってば。
右肩に掛けていた鞄を黙って持ってくれたアイシャ。
彼女は気が利いて優しいんだな。
「さぁ、ママを探そうか?どっちから来たか分かるかなぁ?」
アイシャが優しくリーナに語りかける。
リーナは「う~ん」と考える。
「こっち!」
表門の方を指さした。
向こうは商店街でも特に賑わっている所だ。
露店も出ているし、迷子になり易いな。
「よし!ではそっちに向かってママを探してみようね」
俺達は表門に向かって歩き出した。
他愛のない話をして歩いた。
なんだろう?
心が落ち着く。
この感じ、何だか懐かしいなぁ。
そうか!
愛子との学校帰りみたいなんだ。
幸せな時間。
あの頃みたいだ・・・
「あっ、ママだ!」
リーナが母親を見つけたようだ。
「ママ~!リーナここだよ~」
「リ・リーナ!どこ行っていたの?」
呑気なリーナに対して、必死の形相な母親。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが一緒に探してくれたんだよ~」
「本当に有難う御座います。ちょっと目を離した隙にいなくなってしまって・・・
ご迷惑をお掛け致しました。」
子供なんてそんなもんですよ。
気にしない気にしない!一休み一休み!
(一休~さ~~ん!ってか)
「「気になさらないで下さい!」」
ありゃ、またハモっちゃったよ。
もう気にしませんよ。
「又同じ事言っている~!」
リーナがケラケラ笑っている。
「本当に有難う御座いました!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん又ね~」
リーナ親子は帰って行った。
何度もこっちを振り返る。
振り返る度に母親は頭を下げ、リーナは手を振る。
そんなに頭下げなくて良いですよ~。
「行っちゃったわね・・・」
「そうだね・・・」
俺とアイシャの間に長い沈黙が流れる。
彼女は今、何を考えているのだろうか?
俺に対する彼女の態度がいつもと違っていて優しかったな。
俺、彼女に嫌われている訳ではなかったのかな?
何かちょっとホっとしている。
俺達は、リーナ親子が帰って行った方を見つめながら、いつまでも黙って見送っていたのだった・・・
本日は夕方にもう1話投稿しま~す。
今度はアイシャ視点でのお話^^
次回『第33話:アイシャ』をお楽しみに~^^ノ




