第27話:武蔵
宮本武蔵。
地球の歴史上の人物で、江戸時代初期の剣客である。
若年より諸国をめぐって武者修行に励み,二刀流を案出して二天一流剣法の祖となった人物。
佐々木小次郎との試合をはじめ生涯 60回あまりの勝負に一度も負けた事がない。
「五輪書」は武道の奥義を記した兵法書として有名である。
宮本武蔵とはそう云う男である・・・
リアース歴3233年 11の月14日。
昨晩、初雪が降った。
地面に薄っすらと雪が積もっている。
孤児園の仲間が庭ではしゃいでいる。
大山脈の上の方は真っ白だ。
もう山へ狩りに行く事は出来ないな。
これから暫くは森の方で細々と狩りだな。
食卓に肉が出るのが減っちゃうな・・・
今日も又、薬草の収集と狩りをしに出かけなきゃ。
「ハーっ!」
ため息が出る。
寒いのは苦手だよ。
ベルクーリさんから紹介して貰ったクロードさんはまだ来ない。
金持って逃げたんじゃないのか?
先に支払ったりするとこうなるんだよ。
俺はブツブツと独り言を話しながら森は歩く。
イナリも寒いのが苦手な様で、俺の懐に潜り込み、頭だけを俺のシャツの首の間から出している。
鉄人君が俺の前のノシノシと歩いて行く。
イナリの鼻を嗅ぐしぐさはまだない。
近場に薬草も獲物もいないのだ。
「ハーっ!」
俺はもう1回大きなため息をついた。
あれから20分ほど歩いたかな。
イナリが鼻をヒクヒクし始めた。
キタっ!
薬草か?それとも獲物か?
イナリの鼻を嗅ぐ方へ歩みを進める。
ん?
誰かが戦っている?
右手で左腰にある脇差の柄を握り走り出す。
やっぱり人だ!
ワイルドボアと戦っている。
俺が前に倒した奴よりもデカイ。
30代かな?それとも40代かな?
綺麗な紫色の髪だ。
紫色の人は初めて見たな。
目は茶色かな。
背は180cmくらいあるかな?
腕太ぇ。
無精髭を生やしているけど、たぶんイケメンだな。
このイケメン率の高さは何なんだよ。
紫イケメンは武器を持たずに円を描くように走り回る。
もしかして素手で相手をしているの?
「助太刀がいりますか?」
俺は大声で声を掛ける。
獲物を横獲りに来たと思われては困る。
きちんと声を掛け合うのがルールだ。
「拙者一人で大丈夫でござるよ!」
ござる!
プププププ!
ござるだってさ。
久しぶり聞いたよ
(バザールでござーる!)ってか、これまた古いネタでごめんなさい。
助太刀無用か。
肉欲しかったなぁ。
「では失礼しますね。頑張って下さい」
俺はその場を立ち去ろうとした。
「あいや暫く!討ち取ったら肉を進呈するでござるよ。しばしお待ちあれ」
え!肉くれるの?
ラッキー!
頂けるのでしたら何時までも待ちまっせ~。
俺はその人の戦い方を見て待つ。
「そろそろでござるかの?」
紫イケメンは外装の下に隠れていた剣を掴んだ。
あ!剣じゃない刀だ!
あれは居合の構え。
走り回って疲れて来たのかな?
ワイルドボアの動きが鈍る。
ワイルドボアは再度、紫イケメンに突進する。
紫イケメンはまだ動かない。
姿勢を低くした。刀が地面すれすれだ。
ワイルドボアはもう目の前。
ワイルドボアの首が飛んだ!
一瞬だった。
地面すれすれで抜かれた刀の刃はワイルドボアの頭の下に滑り込む。
一瞬で紫イケメンの身体はワイルドボアを交差する。
見事な足さばきだ。
すれ違いざまに刀の刃の軌道は上に向き、ワイルドボアの首を刈り取る。
綺麗な切り口。
この人、達人だよ。
あ!この人もしかして・・・
「終わったでござるよ」
清々しいほどのイケメンスマイル。
キー!ちょっとむかつく~。
まぁ、それは置いといて。
「あの~、もしかしてクロードさんですか?」
「そうでござるよ!あ!もしかして君がルーク君でござるか?」
やっぱりか~。
でも、思っていたよりも随分若いんじゃね?
それとも若作り?
「そうです!僕がルークです。
エターナの町の冒険者ギルド長、ベルクーリさんから話は伺っております。
これからどうぞよろしくお願い致します」
最初が肝心だからねぇ。
きちんと挨拶しないと。
「ロディの息子にしては礼儀正しいでござるな。
気に入ったでござるよ、ルーク君」
ほっ!とりあえず第一印象は無事クリアっす。
「さて、狩ったは良いけど、この大きさ・・・どうやって運ぶでござるかな?
近くの村の人に頼んで運ぶのを手伝って貰うでござるか・・・」
「あ!僕がゴーレムを生成します。それで運びましょう」
「ほう、その歳でもうゴーレム召喚でござるか!なかなか優秀ですねぇ。
これはやはり鍛え甲斐がありそうでござるな・・・」
げっ、ヤバい!
これは余計な事をしてしまったぞ。
スパルタ反対でござる!
あ!ござるが移った・・・
大きなワイルドボアは村の皆を驚かせた。
しかも、その肉を村人全員に配ったのだ。
アンタ凄ぇよ。
イケメンオーラが全開だぜ。
村人の若い女の子の目が皆♡になってる。
これはクロードさんが総取りですな。
あ~あ!血の涙を流しているお兄さんがいますわ。
俺、しーらね!
クロードさんは俺の師匠としてしばらくこのルタの村に居つく事になった。
取りあえず、俺と父が住んでいた家で暮らして貰う事になりました。
俺もしばらく孤児園を出て、師匠と一緒に住む事になりました。
飯や掃除をしろとの事です。
こき使われそうですわ。
誰か助けて~!
その日のうちから修行が始まった。
俺の力を取りあえず見たいと云う事で、木刀を使っての立ち合い稽古だ。
土の精霊術は禁止だそうです。
俺は打ち込む。
師匠はそれをひらりとかわす。
「足さばきがまだまだでござるな!足はバタバタせずもっと流れるように。
さぁ、どんどん打ち込むでござるよ」
く~、全然歯が立たねぇ。
悔しい。
フェイントを混ぜたりして、何度何度も打ち込む。
あ!右脇行ける。
一瞬のチャンスだ。
右脇下から斜め上に切り上げる。
カンっ!
木刀が受け止められた。
右腰にあった脇差で。
「甘いでござるよ」
「二刀流とはズルイよ師匠。でも、宮本武蔵みたいでカッコいい~」
師匠の目が大きく開かれる。
「なぜ、宮本武蔵の事を知っているでござる。お・お前は何者だ?」
ブルっと震えた!
殺気ってやつだ。
先ほどまでの、のほほんとしたイケメンと違う。
「答えろ!」
え!これって俺、大ピンチ!
どうしてこうなった~?
ようやく作者の大好きキャラだ登場。
次回『第28話:師匠の正体』をお楽しみに~^^ノ




