第23話:やっちまったぜ!
リの国は各々の都市や町、村の教会に援助金を配っている。
土地を治める貴族の領主もその一部を負担している。
領主の懐事情にも関わってくるので、配られる援助金は一律ではない。
その差は割と大きく、教会でも貧富の差が激しいのが現状である。
ルークが住むルタの村の教会は、まさにその底辺で貧しいのだ。
貧富の差は何処でもいつの時代でもある・・・
リアース歴3233年 6の月21日。
「さぁ、準備が出来ましたよ。皆さん、食堂に集まって下さいな」
その時、シスターがエプロンを付けながら部屋に入って来た。
助かった~。
危ない演説はここまでここまで。
ご飯にしましょ~。
「「「「ハーイ!」」」」
皆で食堂に移った。
お!豪華じゃん。
おかずがルタの村より一品多いや・・・
お代わりしても良いみたいだな。
そう言えば、この教会って孤児院の割には裕福そうだよね。
おもちゃも沢山あったしさ。
それに夕食の手伝いとか子供達していた?
何だかな~・・・
お祈りをしてから食事が始まった。
パンが柔らけぇ。
スープも具が沢山入っている。
マカロニサラダもあるぞ。
美味しい。
この焼いたお肉は俺が獲って来た肉かな?
皆、美味しいって喜んでいる。
良かった。
「このお肉、彼が獲って来たお肉よね?マシューにあげるわ」
プチっ!
俺の中で何かが切れた。
もうダメだわ。
「ここの孤児院って好き嫌いが許されるんですねぇ・・・」
俺はぼそっと言った。
場がシーンとなってしまった。
すいません!
でも、もう止まりません。
「な・何よ!文句でもあるの?」
アイシャが俺の言葉に反応する。
「俺の居る孤児院はこんな豪華な食事なんてありえない。
いつもはパンとスープだけだ。
お代わりなんてない・・・
国が援助してくれているって言っているけど貧乏だぜ。
少しでも食べる物を増やそうと教会の裏に畑なんて作ってさ・・・
チビたちは畑を手伝い、俺は山や森に入って狩りだ。
生きるのに必死なんだよ!
アンタみたいに好き嫌いを言っていられる状況じゃないのさ。
それにアンタ!俺が取って来た肉だから、いらねぇって言ったよな。
それって、食料を持って来た者に対して非常識な言葉じゃねぇのか?
朝から非常識なの野蛮人なの、散々人を馬鹿にするような発言をしてくれたよな。
それこそ非常識じゃないのか?
聖女候補だか何だか知らないが、アンタ何様のつもりだ!
冒険者が野蛮人だって?
俺達冒険者が魔物の数を減らしているから、アンタはこの町で安心して生きていられるんじゃないのか?
俺の住んでいる村はラウラ大山脈のそばだ・・・常に死と隣り合わせさ。
魔物がいつ襲って来るか分からない。
確かにアンタが言う様に武器を捨てて平和でいられたら良いだろうさ。
理想だよな!
でも、この世界はそんな甘っちょろい事が通用する世界じゃねぇんだよ。
聖女様は病気やケガは直してくれるかもしれない。
でも、魔物から守ってはくれないよな?
この世界は『命』が軽いんだよ。
魔物に襲われて人が簡単に死んじまう世界なのさ。
自分で身を守る力がないとあっという間に死ぬのさ。
俺はそんな人を大勢見て来たよ・・・
この国は奴隷解放令のお陰で奴隷がいないけど、他の国が隠れて奴隷狩りにやって来て女や子供を連れて行く。
他国で売りさばくのさ。
ゴブリンやオークが繁殖のために女性を攫って行ったりもする。
死よりも苦痛らしいぞ。
この世界は危険な事だらけさ。
アンタはこんな常識知っていたかい?」
アイシャは知らないと首を振る。
そうだろうさ。
鳥かごの中の鳥みたいだもんなアンタ。
「朝の無礼がどうだの、聖女候補が知らない事がどうだの、そんな事はどうだって良い。
世界と云うかもっと大きな事に目を配れよ。
鳥かごの中の鳥じゃないんだからさ!
そうじゃないと次に死ぬのはアンタの番さ。
これはシスター様にも問題があるんですよ!
ここはおもちゃだって沢山ある。
食事だって贅沢過ぎる。
食事の支度も子供達は手伝っていない様だったな?
俺の居る孤児院では信じられないぜ。
随分の甘やかしっぷりだな。
あまり過保護過ぎると、皆が成人してから困りますよ。
世間の荒波はとんでもないんだぜ!」
あ!やっちまったぜ!
冷静になると恥ずかしい・・・
皆が固まっている。
アイシャは目に涙まで貯めて泣くのを堪えている始末だ。
やり過ぎた~。
切れて暴走しちまったぜ。
「あ・あの言い過ぎました。ゴメンなさい!
急に用事を思い出したので今日はこれにて失礼致します。
シスター、手紙の返事を頂いて宜しいですか?」
あぁ~早くドロンしてぇ!
「あぁ、ごめんなさい!今、手紙を持って来るわ」
一早く我に返ったシスターが、慌てて手紙を取りに行く。
食堂は未だシーンとしている。
シスター早く帰って来てぇ~。
皆の視線が痛いよ~。
「お待たせしましたわね。これをマレ姉さんにお渡ししてね」
ちょっと笑顔が引きつっていますよシスター。
生意気言ってすいませんね本当に。
俺とシスターは玄関の方に移動する。
「今日は本当にすいませんでした。生意気な事を言ってしまって・・・」
う~、気まずいよ~。
「いいのよ、気にしないで!全部、本当の事だわ」
「えっ!?」
「実は前に貰ったマレ姉さんのお手紙にも同じような内容が書かれていた事がありましたのよ。
子供達は成人したら巣立って行く。
いくら可哀想な境遇だからって、甘やかせてばかりいたら駄目よって。
分かってはいたのですけどねぇ・・・
ここはアイシャの・・・聖女候補がいるお陰で援助金が他よりも優遇されていてね。
大事に育てる様に言われていたのよ。
でも、あなたの言葉が身に沁みましたわ。
有難う!そしてゴメンなさいね。
あなたに嫌な思いをさせてしまったわね」
シスターは本当にすまなそうに頭を下げた。
「いいえ、僕の方こそ・・・本当にすいません」
「あなたは大人ねぇ!本当に12歳?
マレ姉さんからはいろいろ聞いていたけど、ビックリしましたよ」
え!マレさん何を勝手に俺の事話しちゃっているんですか~。
「又、是非来てね!」
「ハ・ハイ!又手紙をお届けしますね」
ちょっと嫌だな~。
アイシャにはもう会いたくないなぁ。
俺はこうして協会を後にした。
本当にやっちまったな俺・・・




