第180話:宣言
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭5日目 17時45分。
ザーン城、王の間にて・・・
今までは中立の立場だった王太子と宰相までがバニング家跡継ぎ万歳派に回ってしまった。
完全に退路を断たれた状態でござる。
これはもう諦めてバニング家を継ぐしかないな。
だがしかし、このままスンナリと頷くにはどうも抵抗がある。
何だか負けた様な気がして悔しいのだ。
俺って天邪鬼だからね。
「わ・分かりました!バニング家の跡継ぎの件お受け致します」
「やったぞティーゼ!」
「えぇ、貴方!」
「うむ!」
「良かったですなバニング伯爵!」
「丸く収まり目出度い!」
俺の宣言にお爺様とお婆様、陛下、王太子、宰相が思い思いに喜びの声を上げる。
だが、これでは終わらないのだよ。
「が、2~3条件があります!」
「「「「条件!?」」」」
「ハイ、条件です!」
「貴方・・・」
アイシャが俺の左袖を引っ張って心配そうな顔をしている。
「安心してよアイシャ。
別に無理難題を吹っ掛けようって訳じゃないからさ」
「分かったわ!」
「で、その条件とやらは何なのですかな?」
宰相が代表して聞いて来た。
「まずは私達夫婦の従者をしているリンと云う者も共にバニング家へ連れて行っても良いと云うのが条件です。
彼女はすでに我ら家族の一員であり、これからもアイシャの傍に居て貰い、話し相手や護衛などをお願いしたいのです」
「バニング伯爵、これくらいの条件ならば何も問題はないな?」
「その通りで御座います宰相閣下。
ルークよ、遠慮なくそのリンと云う者も連れて来なさい」
「有難う御座いますお爺様!」
よし、リンの事は快く受けいられた。
良かった良かった。
「次いで、私とアイシャにはまだ未成年のジークとマシューと云う義弟が居ります。
孤児院で本当の兄弟の様に育って来た者達です。
両方とも私に憧れて冒険者見習いになり、いずれは私達夫婦と共に冒険者をしようと約束し、今もその約束のために鍛錬を行っている者達です。
私がバニング家の跡を継げばその者達と約束は果たせなくなるでしょう。
ですから、代わりと言ってはなんですが彼等もバニング家に一緒に連れて行って構わないでしょうか?
彼等は共に優秀な者達です。
いずれは私の両腕となって働いてくれるでしょう!」
「バニング伯爵いかに?」
「勿論、構いません!
ルークよ、其方が優秀と認めた者であるならば遠慮なく連れて来なさい。
他にも居るならばドンドン連れて来て構わないぞ。
それはバニング家のためになるのだからな」
「お爺様、重ね重ね有難う御座います!」
ドンドン連れて来いか。
だったらあれも頼んでみて良いかもな。
「お爺様、優秀な者達であるならばドンドン連れて来ても構わないのですか?」
「あぁ、構わんぞ・・・と言いたいところであるが、さては其方何か企んでおるな?
であるならば、まず話しを聞いてからにした方が良さそうだな」
げっ、お爺様鋭いやん。
完全にバレてーら!
「完全に読まれていますね!」
「ハハハハハっ、孫馬鹿と思われても困るのでな!」
仕方がないか。
こうなったら当たって砕けろだ!・・・砕けたらダメなんだけどさ。
「先ほどお話した従者のリンと云う者なのですが、実は彼女はダークエルフなのです」
「ほう、ダークエルフか!それは珍しいな」
お!陛下が食付いた。
もしバニング家でダメなら陛下にでも頼んでみるかな。
「皆さんは、ダークエルフ達の現在の実情をご存じでしょうか?」
俺は王の間に皆の顔を見る。
「確か、エルフの里でエルフ達から迫害を受けているのであったかな?」
「流石、宰相閣下。博識で御座いますね!」
「ハハハハハっ、世辞は要らぬよ英雄殿!」
何気に自慢気の宰相。
鼻がビーンと伸びていますよ。
「ダークエルフ達は、エルフから迫害を受け、リの国の奴隷商人達から付け狙われて、ウララ大山脈の中でひっそりと暮らしておりました。
ですが、度重なる奴隷狩りや魔物達との縄張り争いなどで、すでにダークエルフ達は疲弊しきっております。
数年前には、村が魔物に襲われて壊滅的な被害に会い、一族がバラバラと散ってしまっている状況の様です」
「そこまで酷い有様とはのう・・・」
「何か哀れですね・・・」
「私もそこまでとは知りませんでした・・・」
陛下や王太子、宰相などが悲痛な顔になる。
「最近、若いダークエルフのリーダーであるリンの兄が若者達を連れて私の知り合いであるルザクのロダン商会に身を寄せております。
今は皆で資金を貯めてナの国の何処かに村を興そうと頑張っているのですが・・・」
「そこまで話せば其方の言いたい事はだいたい分かった。
ダークエルフ達に安住の地を与えてやりたいと云うのであろう?」
「その通りで御座います、お爺様!
ダークエルフ達の闇の精霊術はなかなか大したものです。
ロダン商会での仕事ぶりからも情報収集などの隠密的な仕事に長けておりますので、その辺を上手く使えばバニング家にも役立つかと・・・」
俺はお爺様の顔をジッと見つめる。
村人一同を一気に抱え込めとは、確かにちょっと無茶な話である。
しかし、隠密行動が得意な集団を一気に得る事が出来るうま味は大きい。
お爺様の頭の中では、今いろいろと考えてなさっている最中なのだろう。
俺はお爺様の答えを待った。
「ルークよ、ルザクのロダン商会と言ったな。
その商会はあのズラビスと云う者がおる商会であったかな?」
えっ、お爺様がズラビスを知っているだと?
「ハイ、その通りで御座います、お爺様!」
「うむ・・・かの者も同様に抱え込む事は出来るか?」
「え!?」
俺は予想外の答えに驚く。
「お爺様は何処でズラビスの事を?」
「其方を捜索しておった時にちょっとな」
「なるほど・・・」
「バニング伯爵よ、そのロダン商会のズラビスとか云う者は、まさかあの情報屋のズラビスの事かの?」
へぇ~、宰相もズラビスの事知っているのか。
「バートよ、そのズラビスとか云う者はどう云う者なのだ?」
「裏の情報屋の世界では名の通った人物で御座います。
かの者の手に掛かればあらゆる情報が得られると云う話で御座います」
「ほう、その様な者がおったとはのう・・・」
「私も知りませんでした。
我が国にはその様な者が居ったのですねぇ」
陛下も王太子もズラビスに興味を持った様だね。
であるならば、陛下達に取られる前こっちに引き込んでおいた方が良さそうだな。
お爺様もその気の様だしね。
「ズラビス個人と云うより、ロダン商会をそのままお抱えと云う事ならば可能かと思います」
「誠か?」
「ハイ!」
「うむ!ならばダークエルフの移住の件を許可しよう。
ロダン商会と共にならば、充分に益があるであろう」
「有難う御座います、お爺様!」
「良かったわね、貴方!」
「あぁ、皆一緒ならアイシャも不安はないだろ?」
「そうね!有難う、貴方」
よっしゃー!
これは本当に次いでだったけど、ズラビスやフィンさん達を抱え込む事に成功する事が出来たぜ。。
これで、皆一緒だぜ~。
「お爺様、最後に一つだけ宜しいでしょうか?」
「何だね?」
最後に1つだけどうしてもお願いしておかなければならない事がある。
これだけは外せない話だ。
「お爺様、お婆様、私がバニング家を継ぐと云う事で、父ロデリックの事をどうか許して貰えませんか?」
「「なっ!」」
お爺様とお婆様が固まる。
それはそうだよな。
大事な一人娘を連れ出した男をそう簡単に許せと言われてもな・・・
「別に父さんを迎い入れろとか言うのではありません。
父さんが起こした事は・・・嫌、父さんと母さんが起こした2人の事は、お爺様とお婆様を長く苦しめて来たのだと思います。
それは、これから私がバニング家を継いで償っていきたいと思います。
ですから、どうか父さんの事は許して上げて下さい。
お願い致します!」
「「ルーク・・・」」
お爺様とお婆さんが凄く辛そうな顔している。
俺の言っている事は間違っているのかな?
だけど、俺としては大好きな父さんがこのままお爺様やお婆様に憎まれ続けるのには耐えられないんだ。
バーンの事で血が全てではないと云う事は理解している。
だからこそ、俺と唯一血が繋がっている父さんとお爺様お婆様とはいがみ合って欲しくないのだ。
「バニング伯爵夫妻よ、私からも言わせて貰う。
どうかルークの父を許してやってくれまいか!」
「「陛下!」」
「其方等かみれば、ロデリックはラティーナを奪った憎い男かもしれない。
貴族であるならば政略結婚などは当たり前の事だが、だがこれはラティーナが自ら望んだ結果だ。
そのお陰で、其方等の孫は英雄と言われるほどの人物となったのだ。
その英雄を生み出す事となったロデリックをどうか許してやってくれまいか。
この通りだ!」
陛下がお爺様とお婆様に頭を下げる。
まさか陛下が父さんの事で頭を下げてくれるとは思わなかった。
俺は密かに感動してしまっていた。
「へ・陛下、どうか頭をお上げ下さい!」
「そうで御座います、陛下!」
「であるならば、ルークの願いを聞き届けてくれるか?」
「・・・分かりました!
陛下が頭を下げて下さったのです。
臣下としては、無下には出来ません。
ティーゼもそれで良いな!」
「ハ・ハイ!」
「良かったなルークよ!」
今度は俺が深々と頭を下げる番だな。
「陛下、お爺様お婆様、誠に有難う御座います!
このルーク、陛下のために、ナの国のために、バニング家のために自らを捧げる事をお誓い致します」
こうして俺は意を決して皆の前で宣言したのであった・・・
次回『第181話:これからも』をお楽しみに~^^ノ