第179話:継承権
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭5日目 17時半。
ザーン城、王の間にて・・・
「アイシャよ、其方の父親は・・・私なのだ!
其方は私とセーラの子なのだ。
今まで隠していて、大変申し訳なかった」
「「「「え~~~!」」」」
王の間に衝撃が走った。
全員の視線がアイシャに向く。
「え!?わ・私が国王陛下の子・・・」
当の本人であるアイシャはスッカリ困惑しています。
「父上、と言う事は聖女殿は私の腹違いの妹と言う事なのですね?」
「その通りだエリオット!」
「この事を母上は?」
「知る訳が無かろう。これが知れたら・・・オウ、考えただけで身震いがする!」
陛下の所もかかあ天下なのね。
南無です!
「でしょうな!母上に知れたら恐ろしい事になりそうですな。
それに母上の実家のカーン公爵家も黙っていないでしょうし・・・」
「だから絶対にバレる様な事が無いようにな!
王妃にバレるのも怖いが、カーン公爵にバレるのがもっと怖い。
アイシャやお腹の子の命を狙って来る恐れもあるでな」
「分かりました・・・」
カーン公爵にバレると命が危ないってどういう事だ?
物騒な話になって来たなぁ。
「貴方、我がバニング家は王族の姫様を迎える事になるのよ。
何て名誉なことかしら!」
「その通りだ!大変名誉な事であるな。
大事な姫様をお預かりする事になるのだから気を引き締めなければならんな」
「そうね!気を引き締めなければならないわね」
こっちはこっちで又勝手に盛り上がっているし。
だから、まだ継ぐって言ってないってばよ~。
「まさか陛下に隠し子がおられたとは・・・確かにこれは王位継承権の問題が発生致しますな。
陛下、この事は公にしないのですな?」
「も・勿論だ!アイシャの事は世間から隠し通すつもりだ。
だが、何らかの方法でアイシャとアイシャの子が王位継承権を持つ事だけは何かに印て置かねばなるまい。
もし、我ら王族に何かあった時のためにもな・・・」
「確かにその通りで御座いますな。
普段は公に目にする事の出来ない『王家の系譜』に名を印ておくか・・・それとも・・・う~ん、頭が痛いですなぁ」
「済まないが、その事は其方に一任する!」
「承りました!私目にお任せ下さい」
ハァー、アイシャとお腹の子に王位継承権が着くのか。
こりゃ、大変な事になって来たな。
これではもう今まで通りの生活は絶対無理っぽいよなぁ。
「英雄殿よ、聖女殿の・・・嫌、妹の事を知ってしまったからには、彼方には義理の兄としてバニング家を継ぐ事を是非お願いしたい。
妹のためにもお腹の子のためにもそれが良いと思うのだがな。
私としても義弟が将来のバニング家の当主であるなら心強い。
お願い出来ないだろうか?」
「王太子の言う通りで御座いますな。
王位継承権を持つ姫様とお腹の子が下級貴族では問題で御座いますが、バニング家であれば家柄なども考えてこの上ないお話で御座いますな」
うっ!今までは中立の立場だった王太子と宰相までがバニング家跡継ぎ万歳派に回ってしまった。
完全に退路を断たれた状態でござる。
「ルークよ、こうなってしまってはバーンの事は諦めるしかあるまい。
残念ながら、どう考えてもバーンがバニング家を継ぐと云う話は無理じゃぞ」
「そ・そうですね・・・」
ご老公様が優しい声で慰める様に話かけて来た。
俺だって分かっているさ。
だけど、だけどこのままじゃバーンがあまりにも可哀想で・・・
「ビルギットよ、そのバーンとか云う養い子はどんな子なのだ?」
「まだ幼子でありますが、将来なかなか楽しみな子であります。
あの剣聖のクロードが期待するほどの子ですからのう」
「ほう、あのクロードが期待するほどの子か。
ルークよ、その養い子の話をもう少し詳しく話してみよ!」
あれ?
陛下が食付いて来た!
もしかして、ご老公様はこれを狙ってワザとバーンの話を振って来たのかな?
そうだとしたら有難う御座いますご老公様。
「バーンは、私が竜を退治した時に出会った獣人の子です」
「獣人の子か!」
「ハイ!バーンの本当の父親はその竜との戦いで命を落としました。
バーンは私の境遇とあまりにも似て居りまして・・・放って置けなくなって養い子としたのです。
バーンは幼いながらも身軽で力も強く、気配を察知する能力などにも長けております。
それが獣人の種族としての特徴などでしょうが、普通の獣人の子よりも能力は高い様です。
それは私の師匠であるクロードも言っておられるのでまず間違いないでしょう。
師匠が言うには、将来は師匠や私を越える器であるとか」
「そこまでの子なのか!?」
「ハイ!私も師匠もそう信じております!」
「うむ!ならばその子も大切に育てねばならぬの。
なんせ英雄や剣聖が育てている子なのだからな」
「陛下、有難う御座います!」
「だが、バニング家を継ぐ事だけは無理だと思ってくれ。
その代わり、それだけ将来有望であるならば有力な貴族が欲しがるかもしれんぞ。
分家の当主とするもよし、他家へ婿として出すのも良かろう」
なるほど!
そう云う方法もあるか。
「あの、陛下!恐れながら獣人であるならば有力貴族への婿への話は無理かもしれません。
なんせ獣人は精霊術が使えない種族なのですから。
精霊術を重く見る貴族には敬遠されるかと・・・」
「あぁ、そうであったな!獣人だと精霊術が使えないのであったな。
子孫への影響も大きいから、確かに貴族達からは敬遠されるであろうな・・・」
そ・そんな~!
どう足掻いてもバーンは貴族に成れないのかよ~。
悔しいなぁ・・・
「陛下、ならばこう云うのはどうでございましょうか?
英雄殿に与える予定だった準男爵の爵位をその子に与えるのです。
その子が爵位を受けるに相応しい人物に育つかどうかは、成人するまでじっくりと観察させて頂くのが条件となりますが」
「おぉ、それは良い考えだバート宰相!
ルークよ、これならばどうかな?
その子に才覚があるならば、成人した暁には準男爵を与えよう。
後は、働き次第ではバニング家の分家としての地位ぐらいは貰えるかもしれないしな」
準男爵か。
伯爵と比べたら天と地の差はあるが、それでも貴族としての地位は与えて上げる事は出来るか。
兄弟で差を付けてしまうのは可哀想だが、ここまで譲歩して頂けるんだ。
これで良しとすべきであろう。
ハァー、これはもう諦めてバニング家を継ぐしかないな・・・
次回『第180話:宣言』をお楽しみに~^^ノ