第176話:聖龍継承
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭5日目 15時10分。
ザーン闘技場にて・・・
受勲式の前に聞きたい事ってなんだろ?
これって何だか公開尋問みたいになってるよね?
俺、何か悪い事したかしらん?
ん~~~、過去の記憶をほじくり返しても特に悪さをした覚えはないぞ・・・たぶん。
何だか緊張して来ちゃったよ。
「あ~、そんなに構えなくても良い!
ただ其方の出生の事などを教えて欲しいと思っただけなのじゃよ」
「そうで御座いますか・・・」
出生の事ですか。
そんな事聞いてどうするんだろうね。
「報告では、其方は戦争孤児となっておるな。
まぁ、実際に父親が生きて記憶を失っていた訳ではあるが」
「ハイ、その通りで御座います!
隣り居りまするのが、その父ロディであります」
「ルークよ、其方の父の名はロディで間違いないか?
偽っておると云う事はないか?
これは大事な事ゆえ、済まぬが嘘偽りない答えをしてくれ!」
ゲっ、嘘偽りなしってロディの名を最初から疑っているって事じゃないか。
本当の名を言っちゃって良いのかなぁ?
父さんは何かから逃げているために偽名を使ってたみたいだしなぁ。
でも嘘偽りなしって言われちゃったから嘘言っちゃいけないよね。
仕方がないか・・・父さん、ゴメン。
「父の本当の名はロデリックと言います。
理由は分かりませんが、ロディと云う名で冒険者登録をしていたそうですが・・・」
「ふむ、やはりそうであったか!」
国王陛下は、父さんの名が偽名だと分かると、後ろの方に控えて並んでいたうちの一人の方を見て何か頷き合っていた。
やっぱり疑っていたのか。
「其方の母親の方はどうなのじゃ?
名前は何と言う?
済まぬがこれも大事な事ゆえ、嘘偽りなく答えてくれ」
母さんの事もか。
いったい何でこんな事を聞いて来るんだ?
分からないなぁ?
「母の名はラティーナだと聞いております。
母は私が生まれてすぐに亡くなった父から聞いております」
流石に生まれた時からしっかりと自我があって、あの時の状況を知っていますとは言えない。
それらしく聞いて知っている程度としか答えるのが無難であろう。
ガタン!
先ほど、国王陛下と頷き合っていた人が狼狽している様だな。
あの人はいったい誰なんだろう?
「やはりな・・・其方の推測通りであった様じゃな。のう、バニング伯爵!」
「ハ・ハイ!」
国王陛下がもう一度、先ほど頷き合った人を見る。
え!?と云う事はあの人がバニング伯爵なのか?
何で又ここでバニング家が出て来るのさ。
しかも今度はバニング伯爵が直々にしゃしゃり出て来ているし。
俺に何か恨みでもある訳?
「ルークよ、ラティーナが其方の母親である証拠みたいな物は持っておるか?
形見分けみたいな物があるはずであろう?」
あぁ、形見分けね。
勿論、ありますよ。
俺は首からかけてあった銀のペンダントを懐から取り出す。
10歳の誕生日前夜に父さんから受け取ったあのペンダントだ。
そのペンダントを首から外して前に差し出す。
「これがそうで御座います陛下!」
「ふむ!」
護衛の騎士の一人が俺の下へやって来てペンダントを受け取る。
ペンダントは騎士から国王陛下の手に渡り、国王陛下は後ろ振り向いて更にバニング伯爵へ。
(え!?何故バニング伯爵へ?)
バニング伯爵は手に取ったペンダントをしげしげと見る。
そして裏返しにする。
「『愛する娘ラティーナへ!父ロイより愛をこめて』か・・・」
バニング伯爵の両目から涙が零れる。
「やはり間違いないのだなロイよ!」
「ハイ、陛下!これは間違いなく私が娘ラティーナに送った物で御座います」
(え!?娘ラティーナに送った物だって?
そ・それってまさか・・・)
俺の身体は小刻みに震え出す。
だって、それって俺がバニング伯爵の・・・
周りの人達もこの状況に気付いた様でザワザワし出す。
「静かにせぬか!」
宰相のバート・ロンメル公爵様が一喝する。
すると、すぐに水をうった様に静まり返る。
「今ここに1つの事実が新たになった。
戦争孤児と思われていた英雄ルークは、実はバニング伯爵の孫である事が判明したのだ!」
国王陛下は大きな声でザーン闘技場に居る皆に語り掛ける様に話す。
「存じて居る者もいるであろうが、バニング伯爵家は今、後継者問題で揉めている。
それは伯爵の1人娘であったラティーナが行方不明になり、伯爵の血を直に受け継ぐ者が居なかったからである。
だが、ここにいる英雄ルークこそが伯爵の血を直に受け継ぐ者だと判明したのだ。
これで偉大なる4伯爵家の東の青龍バニング家は安泰である!」
「「「「ワァ~~~!」」」」
ちょ・ちょ・ちょっと待って~~~!
何だその強引な展開。
何気に俺がバニング家を継ぐ様な話に持って行っているじゃないですか~。
俺、バニング伯爵家なんて継ぎたくないってば~。
「ルークよ、言いたい事もあると思うが、ここは済まぬがこれも運命と思って受け止めてくれ!
伯爵家のために我がリの国ためにも」
ぐぬぬぬぬ!
見渡せばザーン闘技場が祝福の声と拍手でいっぱいになっている。
これは断れない状況だよな。
やってくれたぜ国王陛下。
「御意のままに・・・」
俺は片膝を着いて頭を垂れて、そう答えるしかなかった。
俺の運命は大きく変わろうとしていた・・・
次回『第177話:ファイナルアンサー』をお楽しみに~^^ノ