第17話:フォッカー
冒険者ギルドに所属出来るのは15歳以上の成人からである。
冒険者にはランクがある。
Aランクは英雄扱いとなる者。
Bランクは強者と呼ばれる者。
Cランクはベテランと云われる者。
Dランクは一般扱い。
Eランクは新人。
ただし、見習いとして特別にFランクがある。
Fランクは12歳以上15歳未満の未成年の冒険者見習いである。
冒険者ランクは大陸共通である。
冒険者、異世界の物語では当たり前の職業。
このリアースでも冒険者は普通にいる・・・
リアース歴3232年 3の月5日。
年が明けて3の月に入った。
父はまだ帰って来ない・・・
あれから新しい情報が幾つか入って来た。
リの国が失った兵、その亡くなった兵のほとんどが傭兵だったらしい。
父は大丈夫であろうか?
なぜ、まだ帰って来ない?
怪我でもしたのだろうか?
最悪の事は考えたくもない・・・
「この教会にルークと云う少年はいるかい?」
突然だった。
父より若干明るいワインレッド色の髪で、目が黒っぽい青年。
20歳くらいだろうか?
背が高い、190cmはあるかな?
外套や鉄と皮で出来た鎧がかなり薄汚れている。
血の様な汚れも付着している。
疲れ切っているのだろうか?
目が死んでいる様だ・・・
「僕がルークだけど!お兄さんは誰?」
「君がロディさんの息子・・・お・俺はフォッカー!
エターナの町で冒険者をしている。き・君のお父さんから伝言を預かった・・・」
「えっ!父さんから?」
俺はフォッカーさんに駆け寄った。
マジでデカいなぁ。
父より大きいな。
俺はフォッカーさんを見上げている。
苦渋そうな顔をしている。
もしかして・・・
「一言!『ルークにすまない』と!」
俺はしばらく固まっていた。
シスターやアン姉さんも固まっている。
誰も声を発しない。
俺の目から一滴の涙がこぼれた・・・
「すまない!本当にすまない!」
フォッカーさんは、そう言うと土下座をして謝って来た。
土下座ってこの世界もあったんだね。
フォッカーさんは何度も頭を下げた。
泣いている。
床に涙が落ちる。
そして、小さな声でポツリポツリと語り始めた。
「俺は・・・嫌、俺達若手の冒険者達は、ロディさんに助けられたんだ。
寒い日だったよ。
リの国は包囲網作戦を取った。
そして、ナの国は薄い所に一点突破を仕掛けた。
薄い所は俺達が居た傭兵部隊さ・・・
最初の攻撃で半数以上がやられた。
何が何だか分からなかったよ。
気が付いた時にはもう乱戦だった。
ロディさんと俺は少し後ろの方に居て、最初の攻撃は大丈夫だったんだ。
だけど、敵の攻撃は凄くてさ。
あっという間に傭兵部隊は壊滅・・・
残った大部分は一斉に逃げ出した。
地面がぬかるみ状態でさ。
時間が経つほど皆ドロドロになって行った。
段々と味方か敵か分からなくなって行った。
俺達の中隊には新米冒険者が多くいてさ。
ロディさんは俺達の中隊長だったんだよ。
新米兵のまとめ役さ。
俺も含めて新米の奴らは逃げ遅れた。
いつの間にか囲まれていた。
その時だ!ロディさんが俺達に言った。
『俺がここで時間を稼ぐ。君達は必死に逃げろ!』ってね。
こうも言った!『君達はまだ若い。死ぬには早い!』
ロディさんはゴーレムを2体生成して、土の精霊術を使ったりしてワザと派手に動いた。
俺達に逃げる時間を作るために。
俺は『ロディさん!』と叫んだ。
すると、ロディさんは俺の方に振り向いて言った。
『息子に伝えてくれ!ルークにすまない!とな』
そして『行け!』と最後に言われた。
俺はそれから必死で逃げた・・・後ろを1回も振り返らずに。
お・俺達は、ロディさんを犠牲にして逃げ帰ったんだ・・・
本当にすまない!俺達がロディさんを殺した様なもんなんだ。
殴るなり蹴るなり好きにしてくれ。
この剣で刺してくれても良い。
君に殺されたって文句は言わない・・・」
フォッカーはボロボロと泣いている。
シスターやアン姉さんも泣いている。
勿論、俺も・・・
「フォッカーさん!殺せる訳ないよ。父さんが救った命じゃないか」
「ルーク・・・」
「フォッカーさんは今何ランク?」
「Dランクだ・・・まだ・・・」
「だったらBランクくらいの強い冒険者になってよ・・・父さんに代わりに!
そして、若い、新米の冒険者を助けてあげてよ。
父さんの様にさ・・・それで許してあげる!」
フォッカーさんの目がカッと開いた。
うん、目が生き返ったね。
「分かった!約束する!絶対に!
ロディさんの様に・・・君のお父さんの様な・・・そんな強い、優しい冒険者になる!
君もなるんだろ、冒険者に!」
「勿論さ!僕も父さんの様な冒険者になる!」
(俺は海賊王になる! byルフィ)
良いシーンを台無しにしてスマン。
俺は力強く返事した。
もう泣いてはいない。
嫌、もう泣かない!
俺も父の様な男になるんだ。
「待っている・・・俺はBランクになって、君がエターナの町に来るのを待っているよ!」
フォッカーさんも、もう泣いていなかった。
フォッカーさんは右手を出した。
握手かな?
俺も右手を出した。
二人の手はガッチリと結ばれる。
この世界に握手ってあったんだね。
「キュ!」
握手をしている手の上にイナリが乗って来た。
お前も?
そうだよなイナリ。
お前も一緒で、父さんの様な男になりたいんだよな。
最後に美味しい所をイナリに持っていかれたな・・・
フォッカーさんが帰り、夕焼けの空を見ていた。
父の事を思い出す・・・
涙が込み上げて来た。
駄目だ!
もう泣かないと決めたじゃないか。
フッと前世で好きだった曲を口ずさむ・・・
「あの日の記憶 辿って 思い出す
あなたは変わらず優しい光
なにがあっても 必ず守ってくれた
全てを包み込んでくれる光
また歩こう
あの日のように~♪
優しさを煙たがった
照れ臭くて言えなかった
不器用まま 過ぎ去った 時間を巻き戻すよ
いつしか大人になった
ずっと目をそらしてきた
心の中に隠していたピースを今合わすよ
もう一度 2人で見よう 茜空~♪
歩幅合わせて 歩いてくれた道
沈む夕日に 手のぬくもり 思い出した~♪
伝えたいこと あなたに ありがとう
今ならちゃんと言える気がした
何も言わず 微笑み抱きしめた
全てを包み込んでくれる光
また歩こう
あの日のように~♪」 by SILENT SIREN「AKANE」抜粋
駄目だ!
やっぱり涙が止まらない。
次から次へと涙が溢れ出て来る。
愛子を失った時と同じだ・・・
失って始めて本当の気持ちが分かるんだな。
俺はあなたが大好きでしたよ。父さん!
俺は22歳の記憶のまま生まれて来た。
子供らしい振る前をしようとしたけど照れ臭くて出来なかった。
まさにこの歌詞の通りだ!
優しさを煙たがったよ。
ずっと目をそらしてきたよ。
あなたにいっぱい悪態をついてしまいましたね。
喧嘩もいっぱいしましたね。
でも、いっぱい笑いましたね。
何があっても あなたは守ってくれました。
全てを包み込んでくれましたね。
素直になれなくてごゴメンね。
父さん、本当にゴメンなさい。
そして、有難う・・・
俺はしばらくそのまま泣いていた。
泣くのは本当にこれで最後だと誓って。
そして、俺は少し大人になった・・・
これにて1章が終了です。
今後ともお付き合いして頂けば嬉しく思います。
ちなみにSILENT SIREN「AKANE」は個人的に大好きな曲です。