第170話:天下一精霊武術大会10 まさか!?
まさかの人物が登場致します^^
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭5日目 9時50分。
ザーン闘技場 第1試合会場にて・・・
天下一精霊武術大会はいよいよ最終日。
今朝の天気は快晴であり、若干冷え込んでいる。
ハァーと息を吐くと白い息がハッキリと見える。
こんな寒い日でも、ザーン闘技場は満員御礼である。
試合をする者としては有り難い限りだ。
最終日の準決勝2つと決勝の試合は、ザーン闘技場の中央に新たに設置し直された1か所のみで行われる。
俺の出る第1準決勝は10時開始だ。
俺は試合開始15分前から試合場に来ている。
かじかむ手の指を両手で摩りながら、俺はナナシさんが来るのを待つ。
ズラビスの情報だと、ナナシさんはシャムシールの双剣使いそうだ。
シャムシールって確かエジプトだかアラビアの湾曲した片刃の剣だったっけ?
西洋ではシミターって言ったんだっけかな?
刀よりも更に反っている感じの剣ってイメージだったはずだ。
シャムシールは刀と同じでこの世界ではレアな武器だから、対戦事態が初めてで緊張するなぁ。
ナナシさんの精霊術に関しては不明って言っていたし、まだ本気で戦っていない様子だとも言っていた。
経歴自体も全く不明らしいし、謎だらけの人らしいから不気味だよなぁ。
どんな戦いをして来るか分からないから気を引き締めなくちゃ。
そんな事を考えて居ると、観客席の一部が騒めき出す。
(来たかな?)
『であろうな?』
俺の横に居る鉄人君と心で会話する。
騒めく方角を見ていると、外套に身を包みんだ1人の男がゆっくりゆっくりとこちらに歩いて来る。
外装のフードを頭深く被せているので、顔の様子はまだ分からない。
(うわぁ~、只者ではないオーラ全開だ~)
『うむ!只者ではなさそうじゃの。強者の匂いがするわい』
ゆっくりやって来たナナシさんがようやく試合場に上がる。
そして、試合場の中央で待つ審判員に向かって歩き出す。
俺もそれに合わせて中央に歩き出した。
ナナシさんは中央に向かいながら頭に被せていた外装のフードをとる。
「なっ!」
俺の心臓がドキン跳ね上がる。
俺はナナシさんの顔を見て思わず声を上げてしまっていた。
ナナシさんの顔は顔中傷だらけで、左目を眼帯代わりに布で覆って隠していいる。
頬はややコケており、その頬から口元にかけては無精髭で覆われている。
だが、俺がナナシさんを見て驚いたのは、そんな顔の風貌が理由ではない。
俺が驚いた理由は、その顔がある人物に似ていたからだ。
(他人の空似か!?)
俺は心の中でつぶやく。
『主よ、知っている人物なのか?』
(あ・・・あぁ、俺の知る人の顔によく似ているんだ)
俺はナナシさんの顔をジックリと見ながら中央へ歩いて行く・・・
ルークが驚きの声を上げる少し前に、先に驚いているものが居た。
イナリである。
イナリは最初リンの腕の中で丸くなって寝ていた。
会場の一部が急に騒がしくなり、耳がピクンと反応すると、今度は急に鼻がヒクヒクし出した。
イナリは覚えのある匂いを嗅ぎつけたのである。
(ウソだ!何でこの匂いが!?)
イナリは急に立ち上がり、リンの腕の中から飛び出す。
「イナリ殿、急にどうしたのですか?
あっ、中に入られたら怒られます、戻って来て下さい!」
リンから戻れと言われても、イナリは無視して走る。
あの懐かしい匂いの人物を探して・・・
俺とナナシさんは試合場の中央で向かい合う。
「ナナシと申します!どうかお手柔らかに英雄殿」
ナナシさんから右手が差し出せれる。
再び俺の心臓がドキンと跳ね上がる。
こ・この声!
間違いない。
俺はナナシさんの声を聴いて確信する。
彼は・・・ナナシさんは・・・
「父さん!」
「キュキュ!」
(ロディ父さん!)
俺とイナリから同時に声が上がる。
気が付くとイナリが、いつの間にか俺のすぐ傍までやって来ていた。
そして、俺の左肩へと駆け上がる。
「私が父親!?」
ナナシさんは困惑した表情で固まっている。
「キュ、キュキュキュキュ!」
(ルーク、彼はロディ父さんだ!間違いない)
イナリが俺に必死になって訴えかけて来る。
『ちっこいのは、「彼はロディ父さんだ!間違いない」と言っているぞい』
鉄人君がイナリの通訳をしてくれたが、通訳をしてくれなくてもイナリが何と言っているか俺には分かっていたさ。
昔より少し老け込んだ顔、聞き覚えのある声、そしてイナリが父さんだと断言している。
目の前にいるナナシさんは父さんに間違い。
父さんが右手を差し出したままだ固まっている。
俺は右手の拳を力強く握る。
「こ・・・この、バカ親父が~!」
俺は握った右手の拳を振りかぶり、父さんの顔目がけて繰り出す。
「!?」
父さんは困惑しつつも俺の右ストレートを間一髪で左に身体を逸らして回避する。
「きゅ・急に何をするんだ英雄殿?・・・えっ!?」
俺の右ストレートを避けた父さんは俺に抗議をするが、俺の顔を見て絶句する。
何故ならば、俺の顔は涙で濡れていたからだ。
「い・生きていたんだね!・・・生きていたんなら、何故すぐに帰って来なかったんだよ。
俺もイナリも父さんをズ~っと待っていたんだぞ。
何故・・・何故帰って来なかったんだよ、このバカ親父!」
涙が頬を伝う。
俺の目からは涙が溢れ出していた。
それは涙で視界がぼやけるほどに。
頬を伝う涙をイナリは舐めてくれる。
「わ・私が英雄殿の父親だって!?」
ん!?この反応はなんなんだ?
本当に驚いている様だが・・・
「ほ・本当に俺やイナリの事が分からないの!?」
「わ・私は・・・」
ブルブルと身を震わす父さんを見て、俺は更に困惑するのであった・・・
次回『第171話:天下一精霊武術大会11 記憶喪失』をお楽しみに~^^ノ