第169話:アイシャ対ヴィン
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭4日目 18時。
エターナのご老公の別宅邸にて・・・
父さん、事件です!
俺に何とモテキ到来です。
俺は今、右からアイシャ、左からヴィンさんに抱き着かれている状況です。
嬉しい事にお互いに乳神様を押しつける様にして抱き着いて来ています。
父さん、天国です!乳天国です!
ちなみに背後からもジークから抱き着かれていますが、こいつはスルーしています。
周りの皆も居ない者と思っています。
完全スルーです・・・
「ルークは私の夫です!すぐに離れなさい」
「貴女こそ離れさない!ルーク様には4大伯爵家に連なる私こそが相応しいわ」
「デカ女!」
「チビ!」
「戦馬鹿!」
「夜叉聖女!」
「「グヌヌヌヌっ!」」
アイシャ対ヴィンさん、両者睨み合いながら罵り合っています。
先ほどの和やかだった夕食が、又もや殺気立った雰囲気に逆戻りです。
間に挟まれている俺はただオロオロするだけです。
父さん、今度は地獄です!
女って本当に怖いですね。
「兄さんは僕のもの・・・」
「「彼方は黙っていなさい!」」
「ハイ、ゴメンなさい!」
瞬殺です!
ジークがブルブルと震え、あっさりと白旗を上げました。
父さん、このバカたれをどうにかして下さい!
ジークが居ると、話がややこしくなるから大変です。
それにしても2人共も見事に息ピッタリだったね。
仲良くすれば良いのに・・・
「アイシャもヴィンも落ち着くでござる」
「そうですよ奥様!お腹の子に障りますからどうか気持ちをお沈め下さい」
そうだった!
アイシャのお腹には愛しい子がいるんだった。
リンよ、気付かせてくれて有難うな。
美女2人に抱き着かれて浮かれている場合ではなかった。
「あ・貴女のお腹の中には、ルーク様のお子がいらっしゃるのですか?」
お腹の中の子と聞いてヴィンさんが眉を上げる。
「オホホホホ、そうなんですのよ!
夫との愛の結晶がここにいるんですのよ。
ですからどうか夫の事は諦めて下さいませ」
アイシャがお腹の子を触りながら、勝ち誇った様なドヤ顔で答える。
「そうですそうです!主様の事はどうかお諦めになって下さいませ。
こんな主様以上の男性なんて他に幾らでも居るでは御座いませんか?」
ちょっと待てリン。
今、鼻を鳴らしながら「こんな主様」って言ったよね?
前々から常々思っていたのだが、君は俺をどう評価しているのかな?
返答次第では容赦しないぞコラ!
「グヌヌヌヌ、何と羨ましい!
ルーク様、どうかこの私にも子種を恵んで下さいまし。
私は、私は、ルーク様の事を・・・」
ゴツン!
「いった~~~い!」
ハイ出ました!
師匠の空手チョップです。
どうやら、ヴィンさんはジークと同類の様ですね。
「アイシャは妊婦なのでござる!
精神状態も不安定な時期でござるから、不安にさせる様な言動は控えるでござる」
「ゴ・ゴメンなさい大叔父上・・・」
「拙者ではなく、アイシャに謝るでござる!」
「ヒっ!ゴ・ゴメンなさい・・・」
助かりました師匠。
師匠はやっぱり頼りになります。
「ルークもルークでござる。
デレデレしていないで、しっかりとアイシャの事を労わって上げないとイカンでござる」
「ハ・ハイ!」
うへ~、俺まで説教を食らってしまった。
だけど、師匠の言う通りだな。
妊娠中は精神状態が不安定になるって言うもんな。
アイシャの事をちゃんと労わって上げないとな。
やっぱり俺はまだまだダメだな。
「ヴィンさん、貴女のお気持ちは凄く嬉しいのです。
ですが、本当にゴメンなさい。
俺の妻はアイシャだけで良いのです!
他に女性はいりません。
貴女には俺よりも相応しい方がきっといらっしゃるはずです」
俺は深々と頭を下げる。
「私はルーク様でなければ嫌なのです!」
目をウルウルさせながら懇願して来るヴィンさん。
「自分で言うのは何ですか、俺よりも良い男何て幾らでも居ると思いますが・・・」
リンに言われた事をそのまま自分で言っていてな何か凄く悲しい。
「そうですよ~、主様何てその辺の男と大して変わりませんよ」
2度も言ったねリン!お仕置き決定だからね。
「何を言います!ルーク様の様なお方は何処を探してもそうはいませんわ」
「そ・そうですか~?そこまで言われると何か照れちゃいます」
「貴方!」
「ゴ・ゴメンなさい!」
怒られちゃったよ。
「ヴィンさんが夫をそこまでお慕いする理由は何なんですか?
妻である私が言うのも何ですが、英雄の肩書を外せばごく平凡な人ですよ。
しかも、おっぱい星人でスケベだし!」
妻であるアイシャがそれを言うのってどうなのかなぁ?
軽いショックで落ち込みそうだよ俺。
「理由は・・・決して2枚目ではないそのお顔!」
グサ!
「母性本能を擽らせる頼りなさ!」
グサグサ!
「女性に非難されても動じないその太々しさ!」
グサグサグサ!
「お・奥様、これって褒めていませんよね?」
「そ・そうね・・・」
「変わった方がお好きなんですね・・・奥様と同じで・・・」
「リンちゃんも言う様になったわねぇ!」
「奥様に鍛えられましたから!」
「そ・そう・・・」
そこで2人でボソボソと話すなら、せめて俺に聞こえない様に話してね。
聞こえている分、ショックも大きいからさ。
クスン!
「そして、最大の理由はやはり強いと云う事かしら!」
なるほど強さですか。
それならば少しだけ納得。
他の理由は納得出来ないけど・・・
「強いが理由なら、お前を負かしたフォッカー殿も強いでござるよ?」
師匠の言う通りだ。
強さで言えば、フォッカーさんの方が俺より強い。
ヴィンさんは、我関せずと酒を飲んでいたフォッカーさんに目を向ける。
「むさ苦しい顔の男は嫌いよ!」
「ブホっ!」
フォッカーさんがむせた。
ウケケケケ!むさ苦しい顔だってさ。
「お前が強さに惹かれるのは分からぬではござらぬが・・・」
「今までは男性の事よりも剣で強く成る事が全てだった私。
そんな武骨な私が初めてビビっと感じたのです。
ルーク様にだったら私の全てを差し上げても良いと・・・」
一目惚れと云うやつか。
ビビっと感じたって、前世の昔のアイドルも同じ様な事言っていたよなぁ。
俺の事をそこまで想ってくれるのは正直嬉しい。
断って泣かれたりしたら辛い。
だけど、ここは心を鬼にして言わねばならない。
「俺の事をそこまで想ってくれて有難う。
だけど、やっぱりゴメンなさい!
俺はアイシャを悲しませる訳には行きません」
「ルーク様・・・」
「ヴィンよ、分かったでござるか!
拙者はルークとアイシャの事を良く知っているでござる。
2人は深い絆で結ばれた夫婦でござる。
お前の入り込む余地はないでござるよ・・・」
辛そうな顔をするヴィンさんに師匠が優しく声を掛ける。
師匠の顔も辛そうだ。
そうか、ヴィンさんは師匠の身内だもんな。
身内を心配するのは当たり前か。
「分かりました大叔父上!」
「そうか、分かってくれたか!」
分かってくれたんですねヴィンさん。
諦めてくれて良かった~。
「今はアイシャさんが妊娠中と云う事なので一旦鉾を収めます」
「「「「えっ!?」」」」
俺と師匠、アイシャ、リンから同時に声が上がる。
「アイシャさんが無事出産を終えた後に、再度猛アタックをさせて頂きますわ。
そう簡単に狙った獲物は逃がしません事よ~、オ~~~ッホッホッホッホ!」
高らかに笑い声を上げるヴィンさん。
ガクっと項垂れる俺と師匠とリン。
アイシャは頬を引きつらせていました。
どうやら、どえらい人にロックオンされたようです・・・
次回『第170話:天下一精霊武術大会10 まさか!?』をお楽しみに~^^ノ