第166話:天下一精霊武術大会8 英雄対英雄の卵
大会は2回戦が無事に終った。
【本選トーナメント表】
推薦枠である玄武騎士団代表のヴィン・スザルやクの国の招待枠であるドナンが敗れると云う波乱が起こったが、上位優勝候補はまだ残っているので、概ね順当と言えよう。
レミオンが2回戦で見せた氷のゴーレムは世間に衝撃をもたらした。
ルークに負けはしたが、その発想力と英雄と互角に戦った腕前に世間はレミオンを称賛し、彼は一気に時の人となった。
氷の精霊術(水の高騰精霊術)に新たな希望を見出させたのだから、当然と言えば当然であろう。
ルーク、レミオンと若い者が台頭して来た事により、新たな時代の流れを予感させ、大会は更に盛り上がりを見せて行く。
台頭して来た若い者と言えば、もう一人時代の寵児と言っても良い者がいる。
英雄の卵デュック・ルザク!
英雄である名将エルリックの息子にて、人間とエルフの血を半々受け継ぐ者。
彼は卵から真の英雄になるべく、深い眠りの時から目覚めようとしている。
英雄ルークと英雄の卵デュック・ルザクの1戦が間もなく始まろうとしていた・・・
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭4日目 14時。
ザーン闘技場 第2試合会場にて・・・
「お久し振りですね英雄殿!」
「デュック様のお久し振りで御座います」
試合場の真ん中でお互いに笑顔で握手を交わし合う。
「私は前々から是非一度英雄殿と真剣に手合わせをしたいと思っていました」
「そ・そうでしたか・・・」
ここにも居たよ。
レミオンと同じ様な奴がさ。
「先ほどのエドナ家のレミオン殿との戦いを拝見させて頂いて、その気持ちはより一層強く成りましたよ」
さよですか。
この戦闘狂め。
「私との戦いも素晴らしい試合になる事を期待しております」
「が・頑張ってみます・・・」
デュックさんだけで勝手に盛り上がっていますね。
うわ~、面倒臭ぇ~。
出来る事ならサラっと終わりたいよ~。
勝てるかどうかは別としてさ。
「「「キャーーー、デュック様~!」」」
「「「デュック様、素敵~!」」」
超イケメンだけあって女性陣の声援がすっごいわ~。
ハァ~、やる気が失せて行く。
「デュック様~、今度こそそのクソ英雄をやっつけて~!」
「「「そうよそうよ!」」」
ムキーーー!
まだ居たのかよイスカル応援団め。
エセ英雄や腐れ英雄に続いて、今度はクソ英雄か・・・
ウゥ~、散々の言われようだな俺。
こ・こうなったら意地でも勝ってやる!
勝って、あいつ等を今度こそ見返してやるんだからぁ~。
さてと、そうと決まったらどうやって攻めましょうかね?
デュックさんの試合1回戦2回戦を見た限りだと、付け入る隙が無いんだよなぁ。
武器はイスカルと同じレイピアなんだけど、その素早さは雲泥の差だね。
近距離であの速さを回避するのは大変そうだわ。
あのレイピアは、たぶんエルリック様から贈られたミスリル製のレイピアだよな。
俺の太刀と同等の硬さか・・・
火・風の精霊術による中・遠距離攻撃は手札が多く、風の精霊術で防御も出来る。
聖の精霊術もあるから、長時間も問題なし。
キャ~、本当に付け入る隙がないよ~。
流石、英雄の卵と言われるだけあるよね。
勝てる気が全くしないでござる~。
と、弱音を吐いている暇はないな。
何か突破口を探さねば・・・
「両者、宜しいですな?」
「ハイ!」
「あっ、ハ・ハイ!」
(やべっ、もう始まるのかよ。まだ、作戦がまとまっていねぇよ)
『取りあえず、何時も通りに仕掛けますかな?』
(そうだな!それしかない様だ。いつも通り左側面から頼む)
『了解した!』
「では、試合始め!」
開始の合図と共に俺は詠唱を始める。
「うなれ地を這う刀『地列斬!』」
レミオン戦と同様に地列斬の目くらましからの連続攻撃を仕掛けてみる。
土煙に隠れる様にして近付こうとしたが、デュックさんは土の刃の攻撃を素早く避けながらボソボソと精霊術を詠唱する。
突然巻き起こった突風で土煙は一気に吹き飛ばされる。
(げっ、何だこの勢いのある風は!)
突風に寄って鉄人君の突進は阻まれ、俺は転がる様に2~3m後ろに飛ばされた。
「「「キャーーー!」」」
観客席からも悲鳴が上がる。
「イヤン、スカートが!」
ちょっと色っぽい声が聞こえ、吹っ飛ばされながらもそちらに振り向く。
そこにはスカートの裾を押さえる『ジーク』が目に入った。
(お前か~~~!スカートなんて履いているじゃねぇこの変態め)
『よそ見をするな主よ!』
鉄人君の忠告で我に返ると、俺のすぐ目の前にはレイピアを構えたデュックさんが居た。
デュックさんからのレイピアによる凄まじく速い連続攻撃。
キンキンキンキンキン!
俺は未だ立ち上がっておらず、左膝を地に着けたまま両手に持った太刀でレイピアの連続攻撃を弾く。
激しい連続攻撃に俺は防戦一方。
脇差を抜く暇さえ与えて貰えない。
そこに頼もしい救世主が現れる。
鉄人君がデュックさんの背後から大盾で襲い掛かろうとしたのだ。
デュックさんは、レイピアを持っていない左手を鉄人君に向ける。
そして掌を向けて・・・
「はどう~けんっ!」
掛け声と共に左手を大きく突き出す。
すると、大盾で攻撃をしようとした鉄人君が吹き飛ばされ転ばされてしまった。
(うっそ~~~ん!何処かのゲームの波動拳まんまじゃん・・・片手だけど)
あの重い鉄人君を吹っ飛ばすほどの威力かよ。
だけど、その波動拳もどきのモーションのお陰で一瞬だけこっちのレイピアの動きが止まった。
俺はその一瞬を見逃さずに左手で脇差を抜き、立ち上がる。
キンキンキンキン!
それでもお構いなくデュックさんの連続攻撃が繰り出される。
俺はそれを左手の脇差で四度受け流す。
「今度はこっちの番だ!」
左手の脇差で攻撃を受け流した後、俺の動作は止まる事なくすぐに一歩踏み出して右手の太刀で相手の右肩から左わき腹への袈裟切り、続いてもう一歩踏み出し手首を返して左から右水平への左薙ぎ、そして更にもう一歩踏み出し左薙ぎからの刺突。
「くっ!」
防戦一方だった俺が初めて攻勢に転じ、今度はデュックさんが受けに回る。
俺の3段攻撃を俺に合わせる様に一歩ずつ後退しながら攻撃を避ける。
3段攻撃が避けられたら、今度はデュックさんからの再攻撃。
キンキンキンキンキンキンキン・・・
デュックさんからの連続の突き攻撃は止む事なく、更にヒートアップして行く。
(オイオイオイっ、何時まで続くんだよ!)
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
デュックさんの連続攻撃は段々と鋭さが増して行き、俺はそれを脇差で弾き、身体をひねって避け、そして又脇差で弾く。
20連撃目で流石に一瞬の間が開くと今度は攻守が入れ替わる。
俺は右手の太刀で袈裟切り→左薙ぎ→右切り上げ→逆袈裟→刺突からの左手の脇差で刺突、そして再び右手の太刀で再度袈裟切り→左薙ぎ→右切り上げ→逆袈裟→刺突。
デュックさんは俺と同じ様にレイピアで弾き、身体をひねって避け、又レイピアで弾く。
俺の11連撃が終わると再び攻守が入れ替わり、デュックからの20連撃が始まる。
両者の滑らかで素早い動きは、まるで演武を見ているかの様に息ピッタリであり、その雄姿を見ていた観客席の人達は彼らにスッカリ魅了されてしまっていた。
「「「凄いっ!」」」
「ハァ~綺麗~」
「どっちもカッコいいぜ!」
「「「キャーーーー!」」」
2人の素晴らしい攻防に観客席から賛美の声が上がる。
「流石に英雄殿ですな!」
「デュック様こそ!」
お互いにニヤリと笑い合う。
この時、デュックさんに吹き飛ばされていた鉄人君がようやく戦線復帰を果たし、デュックさんは俺と鉄人君に前後で挟まれる形となった。
その時、デュックさんは又ブツブツと何やら詠唱を始める。
(ヤバイ!)
俺は直観的に思った。
「出でよ壁!『ウォール!』」
デュックさんを囲む様に円柱の土壁を立ち上げる。
ちょっとやそっとじゃ壊れない様に厚みのある壁だ。
デュックさんを中心に再び突風が吹き荒れるが、突風は土壁に阻まれる。
囲いで行き場の無くなった突風は唯一阻まれていない上空へと吹き上がる。
その時、2mの土壁てっぺんに立っているデュックさんの姿が目に入った。
(クソっ、風の力を利用して上から逃げたか!)
土壁の囲いの上から大きくジャンプしたデュックさんは、俺と鉄人君から離れる様に着地する。
「危ない危ない!やはり彼方は手強いですなぁ」
左手で髪を整えニヤリと笑い、白い歯が光る。
キーーー!イケメン目が。
「それはこちらの言葉ですよデュック様!」
俺も釣られてニヤリと笑うが、たぶん歯は光っていないだろう。
どうせ俺にはイケメン要素なんてないやい。
でも、流石にデュックさん強い。
何か策を考えないとイカンな。
お互いにここで一息を入れる。
俺とデュックさんの戦いはまだ始まったばかりである・・・
次回『第167話:天下一精霊武術大会9 雑草魂』をお楽しみに~^^ノ