第164話:天下一精霊武術大会6 氷のゴーレム
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭4日目 11時半。
ザーン闘技場 第2試合会場にて・・・
「試合開始!」
審判員から試合開始の声が上がった。
俺は取りあえず、左の腰に下げている鞘に入った太刀の鞘の部分を左手で握り、柄の部分に右手を添える。
腰をグッと落とし、右肩右足を前に出して少し前のめりの恰好を取る。
抜刀を意識した構えである。
レミオンは両手に槍を持ち、右手右足を前に出した半身の構えをしている。
オーソドックスな構えだな。
さて、どうしようかな?
予選トーナメントを見たレミオンの戦い方は、以前の遠距離攻撃は精霊術で、隙あらば中距離に踏み込んで槍攻撃をするオーソドックスな戦い方と違って、敵の足場に氷を張ったり、水蒸気で目くらましをしたりと補助的な精霊術を巧みに使って翻弄する戦い方に代わっていた。
俺の戦い方に似ていると言っても過言ではない。
(鉄人君、俺の地列斬の詠唱と共に左手前から襲撃してくれ。
俺は地列斬を繰り出した後、右手前から仕掛けてみる)
『了解した!』
俺は魔物との戦いなどで戦闘の開始時に良くこの技を使う。
師匠に初めて披露した時からあまり改良されていないが、意表を突いた目くらましからの連続攻撃は、先制攻撃を仕掛けるには勝手が良いからだ。
「うなれ地を這う刀『地列斬!』」
『斬』と云う言葉を言い終えると同時に力一杯地を斬る様に太刀を抜刀した。
地面から突き出た刀の様なものが、土煙を巻き上げながらレミオンに向かって行く。
俺は土煙に身を隠す様にレミオンへ近付こうとする。
その時、レミオンを中心に水蒸気の様な霧が発生する。
土埃と水蒸気で完全に視界が0になってしまった。
そして、周りの温度が急激に下がったかの様にヒンヤリとなる。
(目くらましに目くらましで対応して来たか!)
『相手もなかなか手を打つのが早いのう。主よ、何やらきな臭い!充分に気を付けるのだ』
(分かっている!)
何時もなら抜刀した勢いで相手の懐近くまで潜り込み太刀での攻撃をする所だが、ここは一先ず警戒して、左手でミニボーガンを持ち、弾丸2発をレミオンの居た場所に打ち込んでみる。
鉄人君も大盾を構えながらの突進だ。
ガシュ!ガシュ!ゴン!
弾丸2発と鉄人君が何かぶつかった音が響く。
視界は未だに見え難い。
ん~~、どうなったんだ?
次第に土煙と水蒸気が収まり始めて来た。
視界が段々クリアになって来ると・・・
「何っ!」
『ほう!』
かつてレミオンが居た所には2mほど良く見覚えのある物体が立っていた。
鉄人君と同じ姿をしたゴーレムである。
ただし、ボディは氷で出来ているのだが。
氷のゴーレムは俺が放った弾丸2発を氷の盾で防ぎ、鉄人君の突進を右手で食い止めていた。
「氷のゴーレムか!?」
『なかなかやりおるわい!』
俺が驚いていると、氷のゴーレムの後ろから、槍の連続突き攻撃が飛んで来た。
「クっ!」
俺は軽くうめき声を上げながら、槍の連続突き攻撃を回避しながらバックステップをする。
だが、バックステップしても槍は伸びて来るかの様に俺を襲って来る。
カキン!カキン!
甲高い音が響く。
俺は思わず、右手の太刀で槍の攻撃を払いのけていた。
「油断禁物だよルーク!」
「氷のゴーレムに少し驚いただけだ!それにしてもまさか氷でゴレームとはなぁ」
「君の戦い方を参考にして貰ったのさ」
「俺の戦い方を?」
「そうさ!まず君の様に強く成りたいと思ったから、君を真似るところから始めてみたのさ」
「ハハハハハっ、俺の真似か!」
今まで、氷でゴーレムを作ったと云う話は聞いた事がない。
たぶん、このリアースでレミオンが初になるはずだ。
奴は俺以上に飛んでもない発想力の持ち主なんじゃないのか?
こりゃあ、よほど気を付けないといけないな。
氷のゴーレムを見て、観客席がザワザワし出す。
俺とレミオンが話している間に、鉄人君と氷のゴーレムが数度大盾同士でぶつかり合っていた。
すると、鉄人君が持つ大盾が一部崩れ出す。
「何っ!」
「フフフフフっ、氷は温度が低ければ低いほど固くなるって知っていたかい?」
レミオンの奴がニヤリと笑う。
ク~、ドヤ顔しやがって~。
く・悔しくなんかないもん!
だけど、氷の硬さの話は前世でそんな話を聞いた事があるなぁ。
まぁ、うる覚え程度だけどね。
確か、-70度の氷だと、鉄並に硬いんだったっけ?
もしかして、それで土で出来た大盾が氷に負けたって事なのかな。
大会のために急きょ用意した大盾はミスリル製ではなく、土で作った物だ。
大盾までミスリルにしちゃうと、その分鉄人君の身体が小さくなっちゃうからさ。
幸いなのは、鉄人君がミスリル製だと云う事がまだバレてはいない事だな。
「氷の方が固いって言うならこれでどうだ!
新しき従者よ出でよ『ゴーレム!』」
俺は土で出来た鉄人君2号を俺の目の前に新たに生成する。
「こっちは2体だ!」
レミオンもブツブツと詠唱を始める。
すると、大気の水がレミオンの前に集まり出す。
そして急激に周りの温度が下がったかと思うと氷のゴーレムが生成された。
「こちらも2体だよ!」
「何っ!」
本日、何度目の「何っ!」でしょうか?
ぬ~、レミオンの奴め。
まさか2体生成が出来るとは思いもしなかったぜ。
こうなったら3体目を出すか?
あ~、でもキドの町のギルド長に3体同時生成の事は内密にとお願いしちゃっているからなぁ。
自分でばらすのは気が引けるなぁ。
でもこのままだと何だかレミオンに負けた気がするんだよなぁ。
ん~~~。
「新しき従者よ出でよ!『ゴーレム!』」
2号君の横に3号君が生成される。
てへ!
やっちゃったよ~。
俺って負けず嫌いだからさぁ。
「何だって!?」
レミオンから驚きの声が上がる。
あぁ、これよ!これが聞きたかったのよ。
あぁん、快感!
「グハハハハハっ、本当はとっておきの隠し技だったんだけどな。
お前に何としても驚きの声を上げさせたかったのだよ」
ウソぴょ~ん!
本当は4体同時生成が最大の隠し技なのよん・・・短時間しか出来ないけどね。
「負けず嫌いめ!」
「ハハハハハっ、そう云うお前こそ」
「フフフフフっ、そうだね」
結局、 似た者同士何だなよな。
俺もレミオンもさ。
(鉄人君、2号3号の事は任せる。氷の2体を押さえてくれ)
『了解だ、主よ!』
さぁ、レミオンよ、1対1でのガチンコ勝負と行こうか!
俺はワクワク感でいっぱいであった・・・
次回『第165話:天下一精霊武術大会7 胸を張って』をお楽しみに~^^ノ