第161話:天下一精霊武術大会4 力の差
リアース歴3238年 大母神テーラ感謝祭4日目 9時。
ザーン闘技場 第2試合会場にて・・・
「試合始め!」
審判員から開始の声が上がった。
開始の声と同時に、イスカルがレイピアを構えて俺に向かって素早く突進して来た。
虚をついて来たつもりだな。
(鉄人君、壁を!)
『了解した!』
鉄人君はすぐに俺とイスカルの間に入り込み、俺の壁となる。
殺意のある奴に油断なんかしねぇってばよ。
イスカルは突進を止めて身構える。
さて、どうするかな?
(鉄人君はしばらくの間、防御に徹してくれ!イスカルの動きを把握させてくれ)
『任せておけ主よ!』
俺はまずイスカルの動きを見極める事から始める事にした。
ズラビスから前もってある程度の情報は貰っているので、その情報と実際の動きを擦り合わせるのだ。
俺はイスカルを中心に反時計回りの様に身体を右へ少しずつ動かしながら奴を観察する。
イスカルは右手でレイピアを持ち、邪魔な鉄人君を牽制しながら、何とか俺に突っかかれないか様子見の動きをする。
基本通りフェイントを交えながら刺突する繰り返す動きは、まさにフェンシングの様な動きだな。
鉄人君は俺の指示通りに自分から攻撃をする事はせず、常に俺とイスカルの壁である様に身体を動かし、相手の動きを見ながら大盾で防ぐのみに徹している。
イスカルの精霊術は確か聖のシングルだったはずだ。
聖の精霊術は殺傷するような術は一切ないので、この際、精霊術の事は無視して良いな。
見た感じ飛び道具らしき物は見受けられないし、遠距離からの攻撃はないと見て良さそうだな。
となると、気を付けるのはやはりレイピアの攻撃のみか。
嫌、そう確定するのは危険だな。
取りあえず、何か隠し技を持っているとして動こう。
俺の位置が反時計回りに180度動いた頃には、奴のレイピアの動きはほぼ見極めた。
目でシッカリと捉えられる。
俺は前世も今世も目が良い。
そのお陰で、前世で剣道をしていた時も回避・防御は得意だったんだからな。
その代わり、攻撃の方はからっきしダメだったけどさ・・・
だが、今世では師匠から教わった二天一流がある。
土の精霊術やトンカラが作ってくれたミニボーガンだってある。
攻撃する手札は一杯あるのだ。
さて、そろそろこちらから動き出すとするかな。
(鉄人君、そろそろこちらから仕掛けるぞ!)
『了解だ!』
(まず俺がピートの術で奴の足場を崩し、ミニボーガンで射かける。
その後、鉄人君は奴に体当たりをしてくれ)
『心得た!』
「大地を砂に!『ピート!』」
術の発動と共にイスカルの足場は砂と化し、奴の身体が僅かにグラつく。
俺は左手でミニボーガンを素早く構えて、石弾を2発撃ち放つ。
イスカルはなかなか良い反応を見せ、上半身をねじって1発目を交わす。
だが、連続で放たれた2発目が奴の右肩を掠める。
イスカルが僅かに苦痛の顔をするもつかの間、奴の顔は一瞬で強張る。
2mの巨体の鉄人君が突っ込んで来たのだ。
ドカっ!
『グフっ!』
イスカルは5mほどすっ飛ばされてうめき声を漏らす。
ザクとは違うのはザクとは・・・スマン!
今のは忘れてくれ。
「「「キャ~~~、イスカル様~~~」」」
外野から女性達の悲鳴が上がる。
う~、非常にやり辛ぇ~。
俺はあえて追撃はせずに様子を見る。
何か仕掛けるのではと思って少し警戒してみたのだ。
・・・・・だが、何も仕掛けてこない。
ん~~~、俺の思い凄しか。
全然、歯ごたえがないなぁ。
「2対1なんて卑怯よ~、イスカル様が可哀想よ~」
「「「そうよそうよ!」」」
うぅぅ、女性客からの非難の目が痛い。
でも、2対1が卑怯と言われてもなぁ。
フォッカーさんなら、土のゴーレムくらい大剣で難なく粉砕しちゃうぜぇ。
ゴーレムは言う程強くないんだからなぁ。
まぁ、ミスリルゴーレムになると反則級の強さになるけどさ。
そこは皆さん、鉄人君がまさかミスリルで出来ているだなんて知る由もないので、あえて言わないけどね・・・
でも、このままじゃ会場の女性を皆敵に回してしまいそうで怖いなぁ。
あっ、アイシャは何があっても俺の味方だけどね。
リンもたぶん・・・きっと・・・ん~~~、やっぱりアイツは信用できねぇ~。
(鉄人君、済まないがしばらく後ろで見学していてくれ)
『良いのか主よ?』
(良いとは言えないけど、たぶん俺一人でも問題ないだろうさ)
『確かに見た限りではそこまでの強者とも思えないのう。
だが、油断だけはせずにの。くれぐれも気を付けて下されよ』
(あぁ、それは分かっている!)
鉄人君はズシンズシンとゆっくり試合場の端まで歩いて行く。
「な・何のつもりだ?」
イスカルが俺を睨みながら聞いて来る。
「アンタじゃ全く歯ごたえがないからね。
仕方がないからハンデだと思って、俺直々に相手をしてやるよ。
それがアンタの望みだろ?」
「貴様・・・」
イスカルを更に挑発してやった。
これで奴が冷静さを欠いてくれれば戦いやすくなるんだろうけどさ。
その分、俺に対する殺意が増すだろうけど・・・
戦いは常に冷静でなければならい。
師匠からそう教わったからね。
さて、騎士道精神なんてどうでも良いけど、イスカルをぐうの音も言えないほどコテンパンにしてやろうかな。
そうしないと俺の気持ちが収まらないよ。
どうやって恥をかかせてやろうかなぁ?
俺は今、飛んでもなく悪魔の様な笑みをしているんだろうなぁ。
俺はミスリル製に鍛え直して貰った太刀を抜き、右手で構える。
左手には父の形見の脇差ではなく、トンカラに作って貰ったミニボーガンだ。
俺は左足を前に出し半身になる。
左手のミニボーガンを相手に向け構え、右手で持った太刀は身体の後ろでダラッと力を抜いて下げている。
イスカルからは太刀が見えない様に。
「さぁ、掛かって来いよ。先手を取らせてやるよ」
俺は更に挑発を続ける。
「侮辱するのもいい加減にしろ~~~!」
イスカルは早い突きを繰り返し繰り出して来る。
俺はそれを上身体は左右に下半身は前後に動かしながらヒラヒラとかわす。
本来の二刀流ならば、左手の脇差で相手の攻撃を防ぎ、攻撃は右手の太刀で行う所だ。
両手で太刀を持つ1本のスタイルなら、右足を前に出した右半身に切り替えて太刀で応戦する所。
だが、今の俺はそのどちらでもない。
これは俺が最近好んで使う新しいスタイルなのだ。
俺は自分の目の良さを活かし、身体を使ってイスカルの攻撃をかわし続ける。
もう完全に見切っちゃったからね。
左手のミニボーガンを放ちながら奴を牽制するのも忘れない。
奴はミニボーガンを警戒しており、突きの踏み込みはイマイチ甘い。
時折、ピートの術で足場崩しや、ストーンエッジの術で地面からの牽制攻撃など織り交ぜる。
太刀を持った右手は未だにダラリと下げたまま。
右手の太刀はここぞと云う時の一撃に取っておく。
「ほれ!どうしたどうした?全然当たらんなぁ。それで本気なのか?」
「煩い!今に見ておれ~」
挑発するのも忘れない。
10分ほど、イスカルの攻撃をかわし続けていると、奴が肩で息をし始めた。
そろそろ疲れて来た様だな。
一方的に攻撃をするのってとても疲れるんだよねぇ。
師匠との稽古で散々やらされましたから、その辛さは痛いほど分かるっすよ。
でもこの程度で疲れるとは、まだまだじゃのうイスカル君。
まだ止めて上げないから、もう少し頑張って続けてね。
「クソクソクソっ、何故当たらない!」
「そりゃ、下手だからじゃないの?」
「クソ~~~!」
イスカルは奮起して攻撃のスピードを一瞬だけ上げるも、疲労はピークに来ておりすぐに動きが鈍くなる。
しかも、俺からのミニボーガンやストーンエッジの攻撃で、擦り傷などにより至る所から血が滲んでいる。
まさに満身創痍の状態だ。
イスカルの哀れな姿に外野の女性観客席からは声一つ上がらなくなって来た。
代わりに男達のあざけ笑う様が見受けられる。
「イスカルさんよ、疲れでレイピアの動きが鈍っているぜ。
ヒールの術を詠唱しなよ。待っていてやるからさ!」
「クソっ、疲れし身体に癒す力を~!『ヒール!』」
イスカルは自分にヒールの術を行使し、体力を回復させる。
「さぁ、続きを始めようか?」
「こ・殺してやる!」
再び、イスカルの猛攻が始まる。
しかし、先ほどと同様に相変わらずイスカルの攻撃は当たらない。
攻撃を空振りする度にイスカルの体力は再び削られて行く。
これだけ力の違いを見せつければ充分かな?
そろそろ決着を付けようか。
そう思った時、イスカルが攻撃をしようと時に少し体勢を崩し、いつも以上に踏み込みが深くなる。
レイピアの突きは素早いものではなかったが、付きの軌道がズレたために剣先が俺の左腕を掠める。
別に油断していた訳ではないのだが、食らってしまったの仕方がない。
少し血が滲む程度などで問題は何もない。
ん!?
そう思った時、左手に若干の痺れを感じた。
イスカルが俺を見てニヤリと笑う。
そうか、剣先に毒を塗っていたのか。
騎士精神が聞いて呆れる。
イスカルはこの機を逃さぬ様に最後の力を振り絞って攻撃を加えて来た。
それでも俺は奴の攻撃をかわし続ける。
『油断するなと言ったのに!』
(スマンスマン!)
鉄人君からのお叱りを受けてしまった。
徐々にだが、毒が左手に広がりつつある。
なかなかの強烈な毒を用いた様だな。
万が一のために毒や麻痺耐性を仕込んだ結婚指輪を付けているのにイマイチ効果が薄い様だ。
大事を取って素早く処理をしておくか。
太刀を持った右手の甲の部分を左腕の傷口に当て術を詠唱する。
「毒に犯されし身体に癒しを『エスナ!』」
俺は自分で毒の治療をするエスナの術を使った。
傷口から淡い紫っぽい色の光が放たれる。
「なっ、そ・それは聖の術!」
イスカルの攻撃が止まり、大きく開いた目が驚きの衝撃さを表す。
外野からもザワザワとした声が上がる。
あれ?俺が聖の術の使える事、皆は知らないのかな?
確かベルクーリさんがスタンピードの件で報告書に書いて提出したって言っていたよな。
ルークは知らない。
国王が公に公表した内容が、実は聖の精霊術を使った事を端折っていた事を。
そのためエターナ市民以外のほとんどが、ルークは土の精霊術しか使えないと。
「さぁ、毒も治った事だし、片を付けさせて貰うか」
後は一気に片が付いた。
俺の太刀の攻撃を防ごうとしたイスカルのレイピアを太刀で弾き飛ばし、奴の喉元に太刀の先を突き付ける。
「俺は何時でもお前を殺そうとする事が出来たんだぜ!」
イスカルの心を折るために、ちょっと盛っちゃいました。
俺にはそんな腕はございましぇ~ん。
奴をヘロヘロに疲れさせたから、最後が簡単だっただけですよ~。
「ま・参った!」
イスカルはヘナヘナと力が抜けた様にその場に座り込んだ。
終わってみれば圧倒的な力の差であった。
こうして俺の1回戦は終わったのであった・・・
次回『第162話:確信』をお楽しみ~^^ノ