第154話:温かい場所
リアース歴3237年 12の月28日19時過ぎ。
首都ザーンのエターナのご老公の別宅邸にて・・・
門の前でギャーギャーと騒いでは近所迷惑になると云う事で、話を一旦切り上げてエターナ家の別宅となるご老公様のお屋敷に案内されました。
別宅と言ってもかなり大きいです。
俺達が増えても心配ないくらい広い屋敷だから一安心です。
「おぉ、やっと着いたか!なかなか来ないから心配しておったところじゃて」
好々爺のご老公様が玄関先で俺達を快く出迎えてくれた。
「ルーク、アイシャ、イナリもよく無事で!」
ご老公様の隣りにはミネバ婆ちゃんが目に涙をいっぱい貯めて立っている。
「「ミネバ婆ちゃん!」」
「キュキュキュ~!」
(ミネバ婆ちゃんだぁ~!)
俺とアイシャはミネバ婆ちゃんに駆け寄り抱きしめる。
ミネバ婆ちゃんも俺とアイシャを強く抱きしめ返して来る。
イナリはミネバ婆ちゃんに飛びつき、ミネバ婆ちゃんの頬を舐める。
「頼りを寄越さないから心配していたんじゃよ!」
「ゴメンねミネバ婆ちゃん!
俺の周りが騒がしくなっちゃったから、なかなか手紙を出せなくてさ」
「心配かけてゴメンなさいね!」
「よ~く顔を見せておくれお前達!」
「「ミネバ婆ちゃん!」」
「父様、母様、この人は父様と母様のお婆ちゃんなの?」
俺達が抱き合っているのを寂しそうに見つめるバーン。
しまった!ついこの子を放ったらかしにしてしまった。
ゴメンよバーン!
「この子はお前達の子かい?」
「養い子のバーンです!ですが、私達にとっては本当の子です」
「そうか!私はミネバじゃ。バーンよ、お前の大婆様じゃよ」
「僕の大婆様?」
「そうじゃよ、大婆様じゃ。さぁ、バーンもおいでなさい!」
ミネバ婆ちゃんが優しい声でバーンに語り掛ける。
「大婆様~!」
バーンは俺達の輪に加わり抱き着いて来る。
良かったなバーン。
お前に大婆様が出来たぞ。
これからも新しい家族や親せきのおじさんおばさん、親しい人達がドンドン増えて行くんだぞ。
お前に寂しい思いはさせないからな。
「まぁ、積もる話もあろうが、一先ず屋敷に中へ入ろうじゃないか。
夕食はまだなのであろう?」
「恥ずかしながらその通りで御座いまして!」
「お前達の分も今すぐ用意させる!さぁ、入った入った」
「「有難う御座いますご老公様!」」
「あ・有難う御座います!」
「あ・有難う・・・ごじゃいましゅ」
「ホッホッホッホ!良い子じゃ良い子じゃ」
ここは温かさで満ちているなぁ。
心が落ち着くと云うかホッとすると云うか。
これはご老公様の影響なんだろうな。
そう云う場所である様にと、きっとご老公様が頑張って来られたんじゃないかと思うんだ。
俺もそう云う場所をバーンやアイシャのお腹の子のために用意しなきゃいけないんだ。
皆が落ち着いて過ごせる笑いが絶えない温かい場所を・・・
『なぁ、主よ!感動に浸っているところを大変申し訳ないのじゃが、吾輩もお屋敷の中へ入って良いのかの?』
(勿論、外で待機!)
『ウゥゥ~、やはりか!』
(すまんな!)
『致し方ある撒いて・・・』
こうして、鉄人君を玄関の外に残し、俺達は屋敷の中へと案内されたのだった。
用意して頂いた夕食を頂きながら、師匠達が此処にいる理由や俺達の今までの旅の話をした。
俺の応援のためにわざわざ此処まで来てくれるなんて涙がでちゃいますね。
フォッカーさんも一緒に大会に出ると聞きましたが、それはサラッとスルーさせて頂きました。
「うっ!」
アイシャが急に口を押された。
「奥様、大丈夫で御座いますか?」
「だ・大丈夫よリンちゃん!」
「アイシャ、お前さんもしかして?」
ミネバ婆ちゃんがアイシャの様子で見抜く。
流石に経験者ですね。
そう、アイシャは只今つわりとの格闘中なのであります。
比較的何でも食べられるんだけど、匂いや刺激の強い物はダメなんだってさ。
たぶん、夕食に出たちょっと匂いのキツイ生野菜サラダに反応したんじゃないかと思う。
「ハイ、赤ちゃんが出来ました!」
「それは目出度いでござる!」
「へ・陛下にご報告せねば!」
「「「「陛下?」」」」
ご老公様が何やら変な事を口走ったぞ。
どうして国王に報告しないといけないんだろう?
「ビルギットよ!どうして陛下に報告をするのでござるか?」
「あ、いや、その・・・え・英雄の子だからじゃよ。
英雄の子だからこそ、まず陛下にご報告するのが当たり前ではないかと思っての・・・」
「本当にそんな理由でござるか~?何か怪しいでござるなぁ~」
「な・何を言うか!ほ・本当だとも」
「フン、まぁそう云う事にしておくでござるよ」
明らかにキョドってますよねご老公様。
怪しいのが丸分かりです。
まぁ、師匠が言う様にあまり詮索しない方が良さそうだな。
国王様絡みだなんて関わったら面倒くさそうだしさ。
「ルークよ、アイシャのお腹の中に子がおるならばしばらく旅は無理でござらぬか?」
よくお気づきになられましたね。
流石、師匠ですね。
「そうなんですよ師匠!実はその事でご老公様に相談したい事がありまして・・・」
「ワシに相談したい事?何でも言うてくれ」
「アイシャの出産、子育てもあるので、しばらく首都に身を置こうと思いまして。
それで何処か良い家はないものかと・・・」
「何じゃそんな事か!ん~・・・おっ!丁度良い所があるぞい」
「本当で御座いますか?」
「あぁ、アイシャが生まれた屋敷じゃ!」
へっ!?アイシャが生まれた屋敷だって?
「私が生まれた屋敷?」
「そうじゃよ!ここの敷地とは別に飛び地で小さな敷地が我がエターナ家にはあっての。
アイシャの母親であるセイラ殿に貸していた屋敷がそのまま手付かずで残っておるわい。
アイシャはそこで生まれて、3歳まで暮らしておったのじゃぞ」
「私が3歳まで暮らしていた屋敷・・・」
「エターナ家の敷地でアイシャの母親が住んでいた屋敷って・・・やっぱりアイシャはご老公様の隠し子とか?」
久しぶりの俺の『迷』推理が閃く!
「バカ者!それは違うと前にも言うたではないか」
「だって、どう見ても怪しいじゃないですか!」
「確かにルークの言う通りでござるな」
「「「「ウンウン!」」」」
「違う!ワシではない。本当にワシではないのだ」
周りも俺の意見に賛同の様ですよご老公様。
さぁ、吐け!
ゲロってしまうんだぁ~。
「大母神テーラに誓って言う!絶対にワシの子ではないのだ~~~~」
ご老公様の悲鳴の様な声が屋敷内に木霊する。
周りの皆はそれを見ながら大笑いする。
ここは本当に温かくて笑顔が絶えない場所だなぁ。
俺は笑いながらそんな事を思っていた・・・
次回『第155話:懐かしき人達2』をお楽しみに~^^ノ