第146話:喧嘩神輿
リアース歴3237年 9の月30日13時。
海洋都市シーラの大収穫祭会場にて・・・
「大変だぁ!担ぎ手の一人が腹を下して出られなくなった」
「「「なんだって~!」」」
「農業派の一員のくせに、こっそり隠れて漁業派の生ガキなんて食べるから罰が当たったんぜきっと!」
「「「バカな奴だぜ!」」」
いやいやいや、それは関係ないでしょう・・・たぶん。
「どうするんだ?今から誰か手配すると言っても・・・」
「そうだよなぁ~」
「誰か助っ人出来る奴知らんのかぁ?」
「今更いる訳ねぇだろ~」
俺達の目の前で、法被を着て悲観に暮れる集団が居る。
今までの話からすると、農業派の担ぎ手て一人が居なくて困ったいる状況みたいだな。
大変そうだねぇ、誰か良い人が居ると良いねぇ。
他人事だから、気楽にそんな風に思ってしまう俺である。
相談している人達の中の一人と目が合ってしまった。
あっ、ヤバイ!これはアカン事が起こるパターンや。
過去の経験上、何となく分かってしまうのだ。
「アンタ、確か歌一座の人だよな?」
「え・えぇ、そうですよ!」
そう言えば、この人何処かで見た様な顔だと思っていたけど、酒場の客の一人だったのか~。
「お願いだ!俺達を助けてくれ」
ほらね!
そう来ると思っていましたよ。
絶対こうなると思っていましたよ。
「ハァー、勘弁して下さいよ~!俺、全くの無関係者ですよ。
それに、明日からは又旅に出るんですから、今、怪我なんてしていられないんですよ」
「そこを何とか!」
「ダメです!」
「そこのお兄さんお・ね・が・い!」
胸に晒だけを撒いた綺麗なお姉さんが、両手を組んだお願いポーズで俺に迫って来る。
ごくん!俺は思いっ切り唾を飲み込む。
み・見事な乳神様をお持ちで!
愛する妻のモノと甲乙つけ難いほどの乳神様だ。
晒で持ち上げられた乳神様がより一層素晴らしく見えまする。
「喜んでお手伝いさせて頂きます!」
「あ・貴方!」
俺は片膝を付いて見事な乳神様に首を垂れる。
別にこのお姉様を好きになった訳ではないからねアイシャ。
立派な乳神様に敬意を払っただけであります。
どうせもう逃れられないんでしょ?
だったらジタバタせずに、諦めて素直にお受けしますよ。
「アイシャ、困っている人居たら助けない訳には行かないじゃないか!」
「どうせ、その大きな胸を拝みたいだけでしょ!」
「ハハハハハっ!そんな訳ないじゃないか~、嫌だな~」
「鼻の下が伸びているわよ、貴方!」
「えっ、ウソ!本当?」
「このおバカ!」
バッチーン!
俺の頬に真っ赤な紅葉が付きました。
情熱的な真っ赤な紅葉がクッキリと・・・
「大丈夫かアンタ?」
「ハイ、大丈夫です!」
「そ・そうか、よろしく頼むな!」
「ハイ・・・」
メイン通りを挟んで、豊作の使徒の神輿と大漁の使徒の神輿が対峙する。
それぞれの神輿の周りには、ばん馬戦の様な3人の担ぎ手と1人の騎手で1組となる騎馬隊が10組ずついる。
どうやら、この10組が駒として味方の神輿を護りながら相手の神輿をやっつけるらしいのだ。
こりゃあ、ある意味本当の喧嘩神輿だわな。
俺は豊作の使徒の駒の担ぎ手の一人となった。
あの見事な乳神様を持つお姉様が騎手をなさる担ぎ手の一人だ。
これはまさに光栄の極みである。
妻子の手前、新たな乳神様の手前、無様な姿を晒すわけにはいかない。
でも、怪我だけはしない様に気を付けないとな。
メイン通りの幅50m×長さ50mが喧嘩神輿の戦場になる。
両陣営の睨み合いが続き、両軍の間をヒューと空っ風が吹き抜ける。
合戦前の緊張感が街全体を包み、観客も固唾を飲んで見守っている。
「掛かれ~!」
「「「おぉ~!」」」
「こちらも行くぞ~!」
「「「おぉ~!」」」
両軍から突撃の声が上がる。
両軍が動き出すと観客の応援合戦も一斉に始まる。
「父様頑張れ~!」
「貴方しっかり~!」
「主様頑張って~!」
「キュっキュキュ~!」
(死ぬなよ~!)
バーンやアイシャ、リン、イナリの応援する声が聞こえて来る。
これは頑張らねばなるまい。
お互いの神輿を後方に残し、10組対10組の騎馬がぶつかり合う。
戦術なんてものはないらしい。
取りあえず、敵方の騎馬の騎手を振り落として相手戦力を減らして行くのだそうだ。
「奴らをぶちのめせ~!」
「負けるな~、押し返せ~!」
「どっちも頑張れ~!」
「お姉ちゃんの晒とってやれ~!乳拝ませろ~」
「「「そうだそうだ!」」」
必死に戦う者達の声と応援する者の声が混じり合い、喧嘩神輿は一気に盛り上がる。
何だか卑猥な声が混じっていた様な気もするが、そこはあえてスルーしましょうね。
最初は互角な戦いであったが、時間が経つにつれて豊作の使徒側が不利になって来た。
こちらの騎馬は3体、相手側が6体。
俺が担ぐ騎馬はこの残っている3体の内の1体である。
「ヤ・ヤバイ!奴ら私を狙って来たぞ」
騎手をする乳神持ちのお姉さんの声が震える。
皆で乳神様を狙って来る訳ですか。
乳神様を触れさせる訳にはいかねぇな。
ここは気張って・・・あぁ、こりゃアカン!ダメだ!屁の突っ張りにもならねぇ~!
相手側の騎馬6体が一気にこちらに迫って来る。
その目は揺れる乳神様しか見ていない。
護ってあげたいけど馬の俺ではどうする事も出来ないんだ。
ゴメンよ乳神様。
不甲斐ない俺でゴメンねゴメンねぇ~!
「父様が危ない!」
「ダ・ダメよバーン、危ないわ!」
俺の耳にバーンとアイシャの悲鳴の様な声が入る。
必死になって担いで走っている俺には目の前の事しか目に入らず、バーンやアイシャに何が起こっているのは全く分からない。
いったい何が起こったんだ?
そんな事を考えていると、俺の目の前に小さな何かが飛び出して来た。
バーンだ!
「父様達を虐めちゃダメ!父様は僕が護る!」
バーンが俺達を護ろうと、手を広げて相手の突進を防ごうと仁王立ちしているのだ。
「危ないわ!逃げて~」
「バーンちゃん、ダメです~!」
「「「キャーーー!」」」
観客から悲鳴の声が上がる。
バッカヤロー!間に合えってくれ~。
「出でよ壁!『ウォール!』」
バーンと俺達騎馬を囲う様に土壁が立ち上がる。
ガタン!ドシン!
「グエっ!」
「痛ぇ~!」
「何だこの壁は?」
「「「ザワザワザワザワ・・・」」」
急な出来事で周りは騒然となる。
突進をして来た騎馬は、皆土壁にぶち当たり跳ね返されてしまった。
俺はすんでの所でバーンを護ってやる事が出来た。
俺は騎手のお姉さんを降ろし、土壁を解いた。
そして・・・
「危ないじゃないか!突進に巻き込まれていたら大変な事になっていたんだぞ」
俺はバーンに一喝する。
騒然としていた周りは一斉に静かになる。
「だって・・・ヒック!だって、父様が・・・ヒック!
父様が死んじゃうと思ったんだ・・・もう父様を失いたくなかったんだもん!
ウワァーーーン!」
バーンは堰を切ったかの様に大粒の涙を流して泣き出した。
俺が死ぬと思っただって?
たかが祭りの喧嘩神輿くらいで死ぬ訳ないじゃないか。
でも、この子は本気で俺を心配してくれたんだな。
「バカだなお前は!」
俺はバーンを優しく抱きしめる。
この子は一度父様を失っている。
もしかして、又失ってしまうのではないかと思ったのかもな。
大きな声で叱ってしまったのは失敗だったかな?
ゴメンなバーン!
「貴方、バーンは無事なのよね?」
「バーンちゃんは大丈夫なんですか?」
「キュキュキュ!」
(大丈夫なのか?)
アイシャ、リン、イナリが心配して駆けて来る。
「あぁ、大丈夫だ!怪我一つしていないよ」
アイシャは俺からバーンを引っ手繰る。
「もうバカ!心配したじゃないの」
「ゴ・ゴメンなさい母様!ゴメンなさい・・・ウワァーーーン!」
アイシャはバーンをギュッと抱きしめる。
バーンも強くアイシャすがりつく。
「お願いだからもうこんな無茶な事はしないでね!
バーンに何かあったら私は・・・私は・・・」
バーンに釣られてアイシャも泣き出してしまい、その横でリンも一緒に泣き出す。
俺はバーンとアイシャが何時も以上に愛おしく思えて、バーンを抱くアイシャを包み込む様に抱きしめる。
ふっ、俺も貰い泣きしてしまいそうだぜ!
「あの~、お取込み中のところ申し訳ないんだが、喧嘩神輿を続けたいのだが・・・」
「「「「あっ!」」」」
俺達は一瞬に我に返る。
周りの人達が皆、俺達を見ている。
貰い泣きをする人や感動をしてくれている人もいるけど、何だかお呼びでない!って雰囲気がします。
ウゲ~、これはメチャメチャ恥ずかしい。
サッサと撤収しよう。
「我々は撤退しますので、どうか続けて下さい。ではこれにて!」
「あぁ、何だかかえって申し訳ないな!」
「いえいえ、どうかお気にせずに・・・」
俺達はいそいそとこの場を去ろうとする。
「素晴らしい親子愛を見せて貰ったぞ、有難う!」
「俺は感動したぜ!」
「私も感動したわよ!」
パチパチパチパチ~と拍手が鳴り出す。
えっ、凄く恥ずかしいから止めて欲しいんですけど。
お願いだから止めて~!
祭りはこの後も無事に続き、喧嘩神輿は大漁の使徒側が勝ったそうだ。
喧嘩神輿の後は何故か盆踊りとなり、一旦身を隠した俺達も街の皆と一緒になってメイン通りを踊って歩いた。
大泣きしていたバーンも今ではケロっとしてはしゃいで踊っている。
いろいろ有った大収穫祭だけど、家族の絆はより深まって最高の祭りであったと言えるであろう。
この後、本人たちの知らぬ所で密かにある噂が広まって行く事となる。
名も知らぬ親子が、大収穫祭の喧嘩神輿で素晴らしい親子愛を披露する一幕があったと。
恥ずかしい黒歴史が又1ページ加わったルークであった・・・
次回『第147話:懐妊』をお楽しみに~^^ノ
5章も後2話です^^