第143話:天賦の才
リアース歴3237年 9の月14日。
海洋都市シーラまで数日の距離の街道沿いにて・・・
「キャハハハ!捕まえちゃうぞ~イナリ~」
「キュキュキュ~!」
(そう簡単に捕まって堪るか~!)
「ほれほれほれ~!」
「キュキュ~!」
(キャ~、助けて~!)
「バーン、あまり遠くに行かないでね!もうすぐお昼ご飯よ~」
「は~い、母様~!」
子供の笑顔、笑い声は安らぎを感じさせてくれます。
旅の最中に辛い事があっても、バーンの笑顔を見たり笑い声を聞いたりするだけで癒されるのだから、とても不思議です。
馬型鉄人君に揺られながらオカニカを吹いた時も、バーンを交えて歌うととても楽しいんだ。
バーンは音程を外す事が多いんだけど、それが返って可愛らしく見える。
アイシャもリンもそれを微笑みながら一緒に歌う。
何だか家族の一体感みたいなものを感じて心地良いのだ。
今ではバーンを迎え入れた事を本当に良かったと思っています。
「捕まえた~!今度はイナリが僕を追いかける番だぞ~」
「キュ~!」
(悔しい~!)
「キャハハハ!」
そう言えば、ここ数日で気付いた事がある。
最初、一方的にイナリに振り回されていたバーンが、今では余裕でイナリに着いて行っているのだ。
逆にイナリが振り回されている事もしばしば見受けられるくらいだ。
俺はバーンの機敏な動きを感心しながら見つめていた。
『主よ!主も坊の動きに気が付いた様だな!』
「あぁ、数日前からね」
『坊は確か3歳であったな?』
「あぁ、そう聞いている」
『3歳であの動き・・・末恐ろしいのう』
「やはり、お前もそう思うかい?
俺は獣人の事はあまり詳しくないんだけど、それでもあの動きは普通とは思えないんだけど?」
『勿論じゃ、幾ら虎の獣人の子だとしても、あの動きは見事だわい。
今では、ちっこい方が完全に翻弄されておるからのう』
「確かにそうだね・・・」
最近の鉄人君は、俺の相談役として助けてくれている。
鉄人君の核となっている魔石の中に竜としての残像の記憶があるので、長く生きた竜としての知識を活かして、俺にいろいろと助言をしてくれるのだ。
鉄人君はグレードアップして本当に有難い存在となったよなぁ。
口うるさいのが玉に傷だけどさ。
「鉄人君はバーンをどう見る?」
『俊敏さ、力強い動き、全身がまるでバネで出来ている様じゃわい。
それに加えて洞察力もありそうだし、先の先を読む力もありそうじゃ。
気配察知がどれ位なのかまだ分からんが、まぁ、それはこれからオイオイ分かるじゃろ。
主は、坊に刀術を教えるのであろ?確か二天一流とか言ったかの?」
「あぁ、その通りだよ。二天一流を教えてやるつもりさ!」
『吾輩の見るところでは、坊には天賦の才があると思うぞい!』
「天賦の才か・・・これからどう鍛えて行くかが問題だな。
あまり幼い時から鍛錬を始めさせるのはちょっと心配なんだよ。
早いうちから筋肉を付けさせると骨の伸びに影響があると聞くしな」
『確かに主の言う通りであるな。
まぁ、今は遊びの延長で自然と脚力や瞬発力、体力が着く様に仕向けておけば良いと思うぞい。
ちっこいのと追いかけっこをさせておけば良かろう』
「そうだな!確か俺が刀術を習い始めたのは5歳からだったか。
それまでは、ひたすらイナリと追いかけっこをしていたっけ」
『ほほう、主もそうであったか。だったら主と同じ様に育てるのが良かろうて。
後は、木の棒でも持たせて主とチャンバラの真似事でもして遊んでやったらどうじゃ?
奥方やリン殿、吾輩も加わって複数相手で遊ぶのも良いかものう。
気配察知や戦う時の身の動かし方を自然と覚えるかもしれないしのう』
「あくまでも遊びの延長としてか?」
『その通りじゃ!今は無理させずに楽しみながら遊びとして学ばせるのじゃ。
その方が、親子、家族としての絆も深まるかもしれないぞ?』
「そうかもしれないな!有難うな鉄人君。相談に乗ってくれて助かるわ」
『なんのこれくらい!お安い御用じゃて』
ルークと鉄人君の相談する傍らで、笑顔で走り回るバーン。
彼はいずれ『英雄に育てられた英雄』『リの国の守護神』として、この世界に名を轟かせる存在となる。
現時点では、養い親のルーク、本人のバーンですらそれを知る由もない。
本当に頼もしい父子である・・・
「貴方~、バーン、イナリちゃん~、お昼ご飯の準備が出来たわよ~!」
「出来ましたよ~!」
昼飯の準備をしていたアイシャとリンからお呼びの声がかかる。
「ハーイ!」
「キュキュ~」
(わ~い、ご飯だぁ~!)
バーンとイナリが追いかけっこを止めて、アイシャの下へ走って行く。
「タ~ッチ!」
「キャっ!何をするのですかバーンちゃん」
バーンがリンの胸を触る。
ぬっ!何て羨ましい事を。
「ウ~ン、母様のおっぱいより小さい!」
「な・な・なんですかそれは!私の胸はまだ発展途上中なんです!」
「発展途上ってな~に?」
「これから大きくなって・・・ゴニョゴニョ!」
「リン姉ちゃん、何言っているか分かんないよ~」
心配するなリンよ、お前の胸は少しずつだがちゃんと育っているぞ。
人間メジャーの俺には言うだから間違いないさ。
今度はアイシャに急接近するバーン。
ハっ、お前もしや!
「母様のおっぱいにタ~ッチ!」
「キャっ!」
「ん~、やっぱり母様のおっぱいは大きい。フッカフカだ!」
そりゃ、アイシャの乳神様が大きくてフッカフカなのは決まっておるではないか息子よ・・・って何を感心しているのだ俺は。
「バーンよ、母様のおっぱいは父様のものだ。
赤ちゃんを卒業したお前がもう勝手に触って良い訳ではないのだ!」
「違うもん!母様のおっぱいは僕のものだい」
「違う、俺のものだ!」
「違う、僕のものだ!」
「ぬぬぬぬっ!お前に母様のおっぱいの偉大さが分かってたまるか。
母様のおっぱいは、おっぱいを愛する者の至宝中の至宝、乳神様なんだ!」
「乳神様?」
「そうだ!乳・・・」
ゴツン!ゴツン!
俺とバーンの頭のてっぺんにアイシャの怒りの鉄拳が落ちる
「「イタタタタタタタっ!」」
「父子して何をバカな事話しているの!」
「「ヒーーー!ゴメンなさい!」」
「主様とバーンちゃんがソックリ親子に見えますわ・・・」
『まさしくソックリだの・・・』
「キュキュ!」
(確かに!)
何だよ皆して~。
そんな事言われても嬉しくないやい。
「ハァー!どうしてこうなっちゃのかしら?バーンの育て方を間違えたかしら?」
育て方って、まだ1カ月も経っていないじゃんアイシャ。
「ここまで似るとは、ある意味怖いですね奥様!」
「そうよねぇ~、母親として自信を無くすわ!」
ルークに似ておっぱい星人と化したバーン。
彼はいずれ『乳神様を愛するエロ英雄』『リの国のエロ神』としても、この世界に名を轟かせる存在となる。
現時点では、養い親のルーク、本人のバーンですらそれを知る由もない。
本当に恥さらしな父子である・・・
次回『第144話:海洋都市シーラにて』をお楽しみに~^^ノ