第142話:親子
リアース歴3237年 8の月28日。
海洋都市シーラとキドの町を繋ぐ街道沿いにて・・・
「バーン、危ないから遠くに行かないでね!」
「ハーイ、母様~!あっ、待てイナリ~」
「キュキュキュ~!」
(追いかけて来るなぁ~!)
『坊は元気じゃのう~』
「そうだな!」
「そうですね!」
バーンとイナリの追いかけっこを見て、皆がほっこりとした表情になる。
子供が笑いながら遊ぶ姿は良いもんだな。
俺達は今、薬草摘みの真っ最中である。
街道沿いを進んでいると、イナリが薬草の群生地を発見したからだ。
俺とアイシャ、リンで薬草摘みをして鉄人君が見張りをしている。
バーンはイナリと追いかけっこの最中です。
バーンの笑い声を聞いていると養い親として、ちょっとホッとします。
1週間くらい前まではかなりヘビーな日々が続いたから特にそう思うんだろうな。
キドの町を離れて2週間、初日は戸惑いを見せていたバーンであったが、今ではスッカリ俺達の中に溶け込んでいる。
だけど、ここまで来るのにいろいろと大変でした。
バーンと行動を共にする様になってしばらくすると、バーンは『赤ちゃん返り』をしたのだ。
これはアイシャから聞いた話なのだが、養い子となった子は環境の変化からか養い親の愛情を確認するために『試し行動』と云う行動を取るものらしいのだ。
自分が必要とされている事、愛されている事を確認するために。
バーンは今まで母親を知らずに育って来た。
そのバーンに母親が急に出来たのだ。
試し行動が始まったのは当然と言えば当然である。
バーンはアイシャにひたすら甘えた。
アイシャは前世でこう云ったドラマを見た事があったそうで、その対処法を知っていた。
(アイシャ、君は本当に凄ぇよ!)
バーンは、赤ちゃんとなってアイシャの胸を欲しがった。
母乳が出る訳ではないが、オッパイを欲しがったのである。
アイシャは何の抵抗もなく、バーンの口に乳首を含ませる・・・
「主様・・・目から赤い涙が流れていますよ」
「く・悔し~~~!俺だけのオッパイが・・・」
「貴方、お願いだからここは黙って見て上げて!
この子が私達の本当の子になるにはとても大事な事なのよ」
「うぅ~、分かっているよ~・・・」
『南無!』
「うるさいぞ鉄人君!」
「南無!」
「リンも真似するな!」
「キュ!」
(南無!)
「イナリ、お前まで・・・」
俺は赤い涙が流れるのを堪えました。
ただひたすらに・・・
アイシャはバーンに母親としての愛情を惜しみなく捧げた。
アイシャの献身的なお陰も会って、バーンは数日で元に戻った。
元気いっぱいの悪戯っ子になったのである。
それからのアイシャは、バーンを甘やかせつつも、悪い事はダメ!いけない事はしちゃダメ!と叱る事もきちんと行い、怒らすと怖い母親のイメージをしっかりと植え付ける事に成功したのだ。。
バーンが母親の言う事を聞く良い子になると、アイシャは世間の子供が普通に受ける常識などの教育を始めた。
リーンの常識教育も含めて・・・
「ハウゥ~、な・何故私までなのですか奥様?」
「リンちゃんは人族の知識に皆無でしょ。バーンと一緒にちゃんと覚えなさい!」
「そ・そんなぁ~!」
「ほら、文句言わないで!お姉ちゃんとして良いところを見せて上げなさい」
「ハ・ハイです・・・」
教育ママの誕生である!
世にも恐ろしい教育ママが誕生した瞬間であった。
「南無!」
「ぬ・主様、何を?」
「先日の恨み、南無返しじゃ!」
「何て心の狭い主様・・・」
フン、何とでも言え!
やられたら、やり返すのが俺の流儀なのだ。
『南無!』
「鉄人殿まで!」
「キュ!」
(南無!)
「嫌~~~~~、イナリ殿も止めて~!それをされると無性に腹が立ちます~。
お願いだから止めて下さい~~~」
ウケケケケ!
どうだ、思い知ったか。
主をからかう様な事をした当然の報いなのだ。
「リンちゃん、バカやってないでちゃんと勉強しなさい!」
「ハウゥ~、奥様が夜叉に見えます~!」
バ・バカ!
『夜叉』はアイシャに対して禁句用語だ。
「り~ん~ちゃ~ん~~~!」
キャーーー!久しぶりに夜叉様のご降臨なのだ~。
アイシャの周りから黒いオーラが立ち上がっているよ~。
こ・怖いよ~!
「ヒーーー!奥様お許しを~」
「ウェ~ン!母様が鬼になっちゃったよ~、怖いよ父様~」
「大丈夫だバーン!父様がいるから心配ないぞ」・・・たぶん。
「あら、バーンを泣かせてしまったわ。ゴメンねバーン!ほら、怖くないでしょ?」
「う・うん・・・」
アイシャ、無理に作り笑顔をしても怒りのオーラで威圧感が半端ないですよ。
バーンの頬が若干引きつっているではないか。
でも、バーンが泣き始めた事でアイシャが少しでも戻るきっかけとなった。
ナ・ナイスだバーンよ!
これからアイシャが夜叉になったらバーンに沈めて貰うとしよう。
う~ん、何て良い子なんだお前は。
お前は俺の自慢の養い子となるであろう。
こう云ったやり取りを数日の間交えながら、俺達は海洋都市シーラに向かって進んでいた。
バーンよ、俺とアイシャは君を息子として愛そう!
リンやイナリ、鉄人君も君を家族として愛してくれるはずだ。
俺達は、これからも何だかんだしながら少しずつ親子なって行くのだ。
本当の親子にね。
次回『第143話:天賦の才』をお楽しみに~^^ノ