第141話:獣人の子バーン
リアース歴3237年 8の月14日8時。
キドの町の冒険者ギルド前にて・・・
「ギルド長、皆さん、お世話に成りました!」
「「お世話に成りました!」」
「キュキュキュ~!」
(お世話に成りました~!)
「何をおっしゃいますか。お世話に成ったのはこちらの方ですぞ鉄壁殿!
聖女様やリン殿にも何から何まで手伝って貰って本当に有難う御座いました。
キド男爵に成り代わりましてお礼を申し上げます!」
「「「鉄壁殿お元気で~!」」」
「「「聖女様~、リンちゃ~ん!」」」
「美味い麺食わせてやるからまた来いよ~!」
「「「そうだそうだ!待ってるぜぇ~!」」」
キドの町を出発する前に冒険者ギルド長に挨拶に来た俺達。
ちょこっと挨拶して出発するつもりであったが、他の冒険者や町の人達に捕まってしまい、今や冒険者ギルドの前は人だかりと成っていた。
俺達のために集まってくれたなんて本当に嬉しいなぁ。
「鉄壁殿、これは麺作りの職人達からのお土産です。どうか受け取って下さい!」
「え、嬉しいなぁ!何だろう?」
俺はギルド長から小包を受け取る。
結構ずっしりとした重みが。
「乾麺らしいですぞ!長持ちしますから、旅のお供には打って付けです」
「そりゃ有難い!良かったなアイシャ、リン」
「助かりますわ。献立が増えて道中の楽しみが増えましたわ!」
「有難う御座います。道中も麺が食べられる・・・ジュルリ!」
「そんなに喜んで頂けると嬉しい限りだ!又、是非この町にお越し下さい。
この町の復興した姿を是非見て頂きたいですな」
「そうですね!何時か又、街の復興を見に来たいです」
「その時は、住人皆でお持て成しを差せて頂きますぞ~」
「それは楽しみだ!」
「本当に楽しみだわ!」
「本当に楽しみです・・・ジュルリ!」
微力だけど、町の復興に力を貸した俺達。
短い期間だったけど、町の皆と一緒に復興の手伝いを出来た事は非常に良い経験だった。
何時になるか分からないけど、又この町に来よう。
完全に復活した町を見るために・・・
いよいよ出発しようかと思ったその時に、俺の目の前に一人の子供が進み出て来た。
頭に獣耳が生えた子供・・・あの獣人の子バーンだ!
「シスターから聞いた・・・お兄ちゃん、英雄なんだったね!」
「あぁ、そうだよ!自分ではそんなつもりはないんだけど、皆はそう言ってくれる」
「お兄ちゃん、この町から出て行っちゃうの?」
「そうだよ!お兄ちゃん達はこの世界を見て回っているんだよ。
だから、そろそろ次の町へ行くんだ」
「世界を見て回る・・・」
「君も大きく成って魔物を倒せるくらいに強く成ったら、俺の様に世界を見て回ってみると良い。
世界は広い!小さな事にクヨクヨしているのが馬鹿らしく思えて来るぞ」
俺はバーンの頭を撫でてあげる。
気持ち良いのか、頭の上の耳がピクピクと動く。
すると、バーンは頭を撫でる俺の手を両手で掴んだ。
「ぼ・僕は・・・お兄ちゃんに着いて行きたい!
お兄ちゃんの様に、英雄と言われるお兄ちゃんの様に僕も強く成りたいんだ。
僕を弟子にしてくれよ、お願いだ!」
「で・弟子にだって!」
「お願いだよ、お兄ちゃん!」
バーンは必死に俺にしがみ付いて来た。
彼の気持ちはたぶん本物だろう。
その目を見れば分かる。
「ダメだ!」
「ど・どうして?僕を連れて行ってくれよ」
「旅は危険な事だらけだ!小さな君を連れて行ける訳ないじゃないか」
「で・でも・・・」
「貴方、少しはこの子の言い分も聞いて上げたら?」
「そうですよ主様!」
「ダメだ!こればかりはダメだ」
アイシャとリンは、町にいる間に孤児園にも顔を出していた。
この子に情が移っているのかもしれないな。
「だけど、リンちゃんの時は・・・」
「この子とリンとは全く別だよ!
リンは成人前だったけど、すでに一人で戦える力を持っていた。
だから連れて行く事にしたんだ。あの森に一人に置いて行く訳にも行かなかったしね。
だけど、この子は違う!一人で身を護る事が出来ないじゃないか。
何かあったら誰かがこの子を護って上げないといけない。それはとても危険なんだ。
それに、この子には帰れる所があるじゃないか。
孤児園は貧乏かもしれない・・・だけど大切な仲間がいる。
こんな嬉しい事はないじゃないか!
今は友達を作ったり勉強したり、いろいろな事を学ばなきゃいけない。
ワザワザ俺達の後を着いて来る必要なんかないんだよ。
そんな事はアイシャが1番分かる事じゃないか」
「そ・そうだけど!」
「さぁ、皆いくよ!ギルド長お世話に成りました」
「あ・あぁ、気を付けてな!」
「この子を頼みます!」
「分かった!」
「あっ、待ってよ!僕を連れて行ってよ」
俺はバーンをギルド長に預け、アイシャとリンの手を引っ張り馬型鉄人君に乗る。
『本当に良いのか主よ?』
「構わん、出してくれ!」
『御意!』
鉄人君はゆっくりと走り出す。
俺は後ろを振り向かず前だけを見る。
これで良いんだ!
「放せ!」
「しまった!」
「ま・待ってよ~!僕も連れて行って~!」
後ろからギルド長とバーンのやり取りが聞こえた。
バーンはギルド長から抜け出して、俺達を追いかけて来たみたいだな。
「貴方、あの子が・・・」
「ダメだ!無視するんだ!」
「だけど主様!」
「ダメだったらダメだ!」
「貴方・・・」
「主様・・・」
俺はチラリとだけ後ろを見る。
必死になって後を追いかけて来るバーン。
ダメだ!早く諦めて帰ってくれ。
「「あっ!」」
「痛っ!」
アイシャとリンから同時に声が上がる。
バーンが転んだのだ。
「バカ野郎が!」
俺は馬型鉄人君から飛び降りる。
着地と同時バーンに駆け寄る。
「大丈夫か!怪我はないか?何処が痛いんだ?」
「お・お兄ちゃん!」
バーンは大きな目を開けて俺を見る。
「ど・何処が痛いんだ?」
「お膝・・・」
「擦りむいただけだな。よし、今ヒールの術を掛けてやる。
傷つけられし膝に癒す力を~!『ヒール!』」
俺はバーンの右膝に手を当ててヒールの術で癒してやる。
「温かいや・・・」
「大したことが無くて良かった!」
「ゴメンなさい・・・」
「別に良いさ・・・」
「何が『ダメなものはダメだ!』よ。この子が転んだ瞬間に飛び降りちゃってさ。
結局、この子に1番甘いのは貴方なんだからさ」
「ですね奥様!」
気が付くとアイシャとリンがニヤニヤして俺に文句を言って来る。
だって仕方がないじゃないか!
この子はあまりにも俺と境遇が似ているんだもん・・・
「私には分かっていたわ!貴方がこの子の事を私達以上に心配していた事をね」
「それはどう云う事ですか奥様?」
「ルークと私が孤児園育ちだった事は知っているわよね?」
「ハイ奥様!」
「ルークは、私以上に孤児園の仲間意識が強いのよ。
私の孤児園は裕福だったけど、ルークの所は本当に貧しかったらしいの。
ルークは仲間のために小さい時から狩りをして食材を調達してお金を得てと、人一倍頑張って来たの。
冒険者見習いの少ない報酬で、小さな子に人形や遊ぶ物を買っていたと聞いたわ。
この人は、自分を慕ってくれる人を大切にする人なの。
優しくて頑張り屋で、人一倍寂しがり屋なのよ・・・昔からね」
「そうなんですか・・・流石、奥様!主様の事は何でも分かっていらっしゃるのですね」
「分かり過ぎちゃって困っちゃうくらいだわ!」
「う・うるさいなぁ!」
「まぁ、照れちゃって!で、どうするの?その子、連れて行くの?」
「どうするんですか主様?」
「ハァー、分かったよ!連れて行けば良いんだろ?」
「流石、貴方!」
「カッコいいです主様!」
「本当に!僕着いて行って良いの?」
「仕方がないじゃないか、着いて来ちゃったんだし」
「わ~い、有難う!」
バーンは両手を上げて大喜びをする。
無邪気に喜ぶバーンを見て、俺はある決意をする。
「ふぅ~、これから俺はお前の師匠であり、新しいお父さんだ!」
「えっ、新しい父様?」
「そうだ!父様だ。お前はまだ幼過ぎる。幼子には親の愛情が必要だ・・・」
「と云う事は、私はお母さんになるのかしらね?」
「母様?」
「そうだな!アイシャは母様だな」
「僕に母様が出来るの?・・・」
バーンの両目から涙が零れ落ちる。
アイシャは俺からバーンを奪い、バーンを抱きしめる。
「そうよ!これから私がバーンの母様よ」
「ウェーーーン、母様~、母様~!」
バーンはアイシャの胸に顔埋め泣き出す。
一瞬、殴ってやろうかと思ったが、ここは堪えた。
養父になるのなら、これくらいは我慢せねば。
「と云う事は、も・もしかして私は叔母さんになるのですかね?
い・嫌ぁ~~~、この若さで叔母さんと呼ばれるなんて~!」
「そこは別にお姉ちゃんでも良いんじゃないか?」
「へっ、お姉ちゃん?」
「そう、お姉ちゃん」
「・・・あぁ、『リンお姉ちゃん!』何て良い響きなのかしら!」
は・始まった!
妄想モードに突入しちゃったよ。
もう、リンは放って置くことにしよう。
「キュキュキュ?」
(じゃあ、僕は~?)
『じゃあ僕はと言っているぞ主よ』
リンに代わって通訳有難うよ、鉄人君。
「イナリは・・・ペットじゃね?」
「キュキュキュ~!」
(何でじゃ~!)
急に怒り出すイナリ。
だって、それしかポジションないじゃないかよ。
俺達がギャーギャー騒いでいる間、バーンはアイシャの胸で泣いていた。
親子の美しい光景なんだけど・・・それ以上、アイシャの胸に顔を埋めるのは禁止な。
その乳神様は俺のもんだからな!
こうして、旅を一緒にする仲間が又増えました・・・
次回『第142話:親子』をお楽しみに~^^ノ