第140話:吾輩はミスリルゴーレムである
リアース歴3237年 8の月13日。
キドの町中にて・・・
あれから6日が経った。
俺達はあれからキドの町の復興の手伝いをして来た。
俺の土の精霊術が、瓦礫となった建物の撤去や新たに立て直す土台の設置、もしくは更地にするための整地などにとても役立つからだ。
アイシャとリンとイナリは避難場所の炊き出しや町の掃除などに忙しそうだった。
でも、この6日間でようやく復興の目途が立った。
もう、俺達が居なくても大丈夫であろう。
俺達は明日の朝、次の目的地である海洋都市シーラに向かって旅立つつもりだ。
旅立つ準備をするために買い出しをしているとある事を思い出した。
あの竜の魔石の事だ!
復興の手伝いに追われて、竜の最後の願いをうっかりと・・・綺麗サッパリ・・・これでもか~と云うくらい完全に忘れていた。
スマンな竜よ!
これから急いで約束を果たすので、お願いだから祟らないでね。
俺達は買い出しの途中だったけど、祟られるのが怖いので、急ぎ適当な空き地を探した。
運良くすぐに空き地が見つかり、そこで買い物荷物係として連れ歩いていたミスリル製の鉄人君を一度ミスリル鉱石の塊に戻す。
鉄人君に使っていたゴブリンの小さな魔石を回収し、新たにかなりデカイ竜の魔石を右手に持つ。
俺は右手に持った竜の魔石をミスリル鉱石の塊の上に載せて詠唱する。
「新しき従者よ出でよ!『ゴーレム!』」
俺の魔力に反応した竜の魔石は赤く光り、ミスリル鉱石の塊の中に沈んで行く。
そして、ムクムクムクと形が出来て行き、何時もの様な鉄人君の姿が出来上がる。
ん~、見た目は何も変わらないなぁ。
竜の奴、『吾輩の魔石を使えば、ミスリルゴーレムは更に強くなる』なんて言っていたけど、本当かいな?
パワーでも上がったんかなぁ?
ん~、サッパリ分からん。
「貴方・・・全然変わってないわよね?」
「そだね・・・」
「主様、鉄人君はお強く成られたのでしょうか?」
「分からん・・・」
「キュキュキュ!」
(あの竜、ウソついたんじゃないの?)
「イナリ殿が、ウソをつかれたのではないのかと言っております」
『ウソなどついておらんわい!』
「なっ!」
「キャっ!」
「えっ!」
「キュ?」
(なんだ?)
俺、アイシャ、リン、イナリが頭に響く謎の声にそれぞれ反応を示す。
それにしても、「キャっ!」だなんてアイシャ可愛い~。
最近は特に鬼嫁感が定着して来ていたから何だか萌えっす。
ペロペロしちゃいたいっす!
『随分と時間が掛かったのではないのか人族の英雄よ!』
「お・お前、あの時の竜か?」
『そうとも言えるかもしれんな!』
何が『そうとも言えるかもしれんな!』だよ、偉そうに。
「お前、死んで冥府で悔い改めるんじゃなかったのか?」
『吾輩の魂自体はすでに冥府へと旅立って行ったよ。そこで悔い改めておるじゃろ。
今、お前達に語り掛けている吾輩は魔石の中の残像と言っても良い。
竜の時の心とは別物の存在じゃよ。
吾輩はもう竜ではない!吾輩はミスリルゴーレムである』
「ハァー、モノは言いようだな!」
『分かってくれたか?』
「呆れているんだよ!」
『フハハハハ!まぁ、良いではないか。あまり深く考えると禿げるぞい』
「うっせぇよ!」
今一瞬だけズラビスの顔が浮かんだ。
カツラを被っていないズラビスの顔だ。
うわぁ~、あぁは成り(たくないな・・・
ゴメンよズラビス!
「で、お前はどれだけ強くなったんだ?パワーとか上がったりしたのか?」
『魔石が変わっただけで力が上がって堪るか。今まで通りじゃよ!』
「では、竜の時の様に炎を吐いたり飛んだりとか?」
『出来る訳なかろう!』
「精霊術を使える様になったり・・・」
『論外じゃな!』
「ちょっと待て~!何処が『更なる力!』だ。全然強くなっていないじゃないか」
『何も見た目のパワーや精霊術だけが力ではなかろう』
「じゃあ、何の力が上がったんだよ!ガルルルル~」
『そうじゃのう~、まずは吾輩が完全に自立可能になった事かの!』
「・・・なめとんのかテメェ!魔石を繰り出してやる~」
『お・落ち着け主よ!主は随分短期じゃのう』
「うるさいわい!」
『やれやれ、困った主じゃのう。よ~く考えてみろ主よ。
お主の命令は絶対であるが、吾輩は自分で考えて動ける存在となったのじゃぞ。
もし主の身や仲間の身が危険になった場合、命令を待たずに勝手に護ってやれるのだ。
気配察知は出来ぬが、代わりに魔力察知の能力は竜の能力をそのまま受け継いでおるから、ボディガードとしては打って付けじゃぞい?』
「貴方、これは凄く助かるのではなくて?」
「た・確かに!」
『お主と吾輩は一応魔力で繋がってはおるが、吾輩の魔核は魔力が豊富にあるので、お主の魔力をほとんど必要とせずに動き回れる。お主の魔力はほとんど減らないのであるから楽なもんじゃろ?』
「魔力が減らないだって!それは素晴らしい。鉄人君1体丸儲けみたいなもんじゃないか」
『丸儲けって、確かにその通りであるがもう少し何か良い言い方をせい。
それと兄弟を生成した場合だが、最初にちょっとだけ指示をくれれば、後は吾輩が兄弟達の意思を統一してまとめて操ってやる事が出来るぞ。
主の負担が減り良い事尽くめではないか』
「そ・それは本当なのか?」
『あぁ、主にウソなど絶対につかんぞ』
「確かに戦闘はかなり楽になって良いかもなぁ・・・」
『であろう!それに吾輩の目の届く範囲であれば、こうやって皆とテレパシーで会話が出来る。
吾輩を通せば、敵を前にしても敵に悟られぬ事なく、味方同士で意思の疎通が出来るのだから、これほど便利な事もなかろうて』
「それは確かに便利だな!」
『見た目のパワーや精霊術だけが力でないと分かって貰えたかの?』
「その通りだな!疑って済まなかった」
『分かってくれればそれで良いのだよ。これからよろしく頼むぞ主よ』
「あぁ、よろしく頼む!」
ニュー鉄人君は随分と逞しくなったなぁ。
まさか意思疎通が出来る様になるとは思わなかったよ。
『皆の衆もこれから頼む!確か其方が主の番であったな?』
「そ・そうよ!妻のアイシャです、よろしくね」
『よろしく頼む!これからは奥方様と呼ばせて貰おう』
「奥方様・・・まぁ、何て言い響き!」
お~い、アイシャ~、帰って来~い。
『そして、奥方様の隣りの黒いのが従者であったかの?』
「く・黒いの!そ・そうです、従者のリンです」
『同じ従者としてよろしく頼む!リン殿と呼ばせて貰おう』
「こ・こちらこそよろしく頼みます!」
ニュー鉄人君の勢いに完全にビビっちゃっているねリン。
ビビっているのが丸わかりだよ。
君の方が一応先輩なのだからしっかりせい。
『そして、そのちっこいのが聖獣だったな?』
「キュキュキュ!」
(ちっこい言うな!)
『まぁ、そう怒るな!これからよろしく頼むぞちっこいの』
「キュっキュキュキュキュ!」
(僕の名はイナリだ!イナリ様と呼べ)
『あ~、別にちっこいので良かろう!ワハハハハ!』
「キュキュキュ~!」
(なんでだぁ~!)
プププププ!ちっこいのだってさ。
あのイナリが良い様にあしらわれてやんの。
それにしても、ニュー鉄人君がただの口うるさい爺の感じがするのは俺だけであろうか?
頼もしいんだけど、何だか変なのが仲間に加わっちゃったなぁ・・・
次回『第141話:獣人の子バーン』をお楽しみに~^^ノ