第139話:笑い
リアース歴3237年 8の月7日19時前。
俺は獣人の子バーンが泣き止むまでしばらく抱きしめ続けていた。
抱きしめている間にアイシャとリンが、治療手当の手伝いから戻って来て、俺と同じ様にバーンの事を代わる代わる抱きしめる。
アイシャやリンの胸に顔を埋めるバーンを見て殴ってやろうかと思ったが、ここは我慢をした。
こんな小さな子に嫉妬してと仕方がないと心に言い聞かせる俺。
「鉄壁殿、竜の魔石が取れたぞ。どうぞお収め下さい!」
キドの町の冒険者ギルド長が俺に竜の魔石を届けに来てくれた。
「後、ご希望でした竜の肉も5kgほど一緒にお持ち致しました」
「重ね重ね有難う御座います!」
「竜の肉!確か竜のお肉は絶品中の絶品と聞きました・・・ジュルリ!」
リン、毎度の事ながら本当にお前は・・・
「な~に、これぐらいお安い御用です。しかし、本当にこれだけでよろしいのですか?
竜は鉄壁殿がほぼ一人で倒してしまったと言って良い。
この竜の素材は全て貴方の物です」
「俺の分はこれだけで十分ですよ!後はこの町の復興に為に使って下さい」
「貴方♡」
「主様がカッコ良く見える!私の目は変になってしまったのでしょうか?」
アイシャの俺を見る目は♡型となり、好感度をグ~ンと上げる。
リンへの好感度も上がった様だが、目をゴシゴシと擦るリン。
君さぁ、この前から言おうと思っていたんだけど、俺に対してあんまりじゃないか?
一応、君の薬学の師匠であり、主であるはずなんだけどねぇ?
「そうだ!申し訳ないんですけど2つだけお願いしても良いですかね?」
「何なりと言って下さい鉄壁殿」
「1つ目は竜と対峙した時に使ったゴーレムの同時3体生成の事なんですけど、何とか秘密にして頂けませんかねぇ」
「あんな凄い事を秘密にするので御座いますか?自慢になりますのに?」
「同時3体生成は私にとって最大の隠し技なんです。他国に知られたくないのですよ。
特にナの国には!」
「なるほど、分かりました!
鉄壁殿の隠し技であるならば、確かに世間に知らせる訳には行きませんね。
この件は今後漏らさぬ様に、この町の冒険者や住人に至るまで固く禁じさせます。
どうかご安心下さい」
「申し訳御座いません!」
「いやいや、町を救って頂いた方の頼みです。これくらいは当然ですよ」
「有難う御座います!そして、図々しくて申し訳ないですが後1つ」
「ハイハイ、ご遠慮なさらず何でも言って下さい」
「ではお言葉に甘えて!
実は、俺達はこの町が食の町、麺の町と聞いてやって来たんですよ。
この町自慢の麺を食べさせて貰えないでしょうかねぇ?」
「ハハハハっ、そんな事お安い御用ですよ!」
「出来れば、この子も一緒に。
嫌、他に竜によって家族を失った人や一緒に戦ってくれた冒険者の人達にも良いですかね?」
「勿論で御座いますよ!
あっ、どうせなら被災した者全て、嫌、町中の皆をここに呼んで炊き出しをして振舞いましょう。
竜の肉は精も付くと言いますし、町の皆に元気なって貰う為に竜の肉も振る舞いましょう。
ウン、それが良いそれが良い!」
「あぁ、それは良いですね!俺も大賛成です」
「そうね、とても素晴らしい考えだわ!」
「ハイ、とても良い考えだと思います!」
竜が暴れて死んだ場所は中央広場の一角であり、その場所に町の皆が集まって来た。
料理人達が屋台を使って、町の皆に町の自慢の麺料理であるラーメンもどきを振舞う。
麺料理の正体がラーメンもどきと知って驚く俺とアイシャ。
豚骨スープ風のたれにうどんの様な太目の麵。
そこへ厚く切った竜の肉が、まるでチャーシューかの様に載せられる。
その上には更に赤いプリップリのエビの様な食材やもやしにわかめなども載せられている。
ウッホー!これはもうラーメンのワンダーランドや~。
リンだけでなく、皆が夢中になって食べる。
皆が熱いラーメンもどきをフーフーしながら美味しそうに食べている。
家を失った者、家族を失った者もいるだろう。
辛い気持ち、悲しい気持ちの人達が一時だけでも良いから、この一杯のラメーンもどきで笑顔に成ってくれればそれだけで良い。
「お代わりはまだ沢山あるぞ~!ドンドン食べてくれ~」
「「「「やった~!」」」」
「「「「おぉ~!」」」」
子供達から喜びの声、町の皆からは歓声が上がる。
「私もお代わりお願いします。大盛りで!」
「キュキュキュ!」
(僕も大盛りで~!)
「イナリ殿も大盛りでと言っています!」
リンとイナリが丼を持って屋台へ走って行った。
「姉ちゃん、その細い身体でよく食えるなぁ?そのちっこいのも!」
「美味しい物は別腹なんです!」
「なんじゃそりゃ?」
「「「ワハハハハ!」」」
「キュキュキュ!」
(ちっこい言うな~!)
「こっちのちっこいのは何か文句いってやがるぜ!」
「「「ワハハハハ!」」」
リン達と屋台の料理人の会話で周りから笑い声が広がる。
グッジョブだリン、イナリ!
町の皆をドンドン笑顔にしてやってくれ。
空はスッカリ暗くなり、集まった屋台の提灯の明かりが周辺を照らす。
その風景は、昔何処かで愛子と見た事がある神社のお祭りの様な風景に似ている。
アイシャは俺にピッタリと密着して来て、俺の左肩に頭を乗せる。
「何だか神社のお祭りみたいじゃない?」
「俺も今そう思っていたところだよ」
「考える事は一緒ね!」
「そうだね!」
俺とアイシャは久しぶりに甘い雰囲気に成る。
夫婦だけの時間って最近なかなか取れなかったからなぁ。
今はこの時間を大事にしたいな。
俺とアイシャは何時までもこの風景を眺めているのであった・・・
次回『第140話:吾輩はミスリルゴーレムである』をお楽しみに~^^ノ