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リアース戦記 ~鉄壁のルーク~  作者: ナナすけ
歌一座放浪記の章
142/187

第138話:強く(挿絵アリ)

 リアース歴3237年 8の月7日18時前。


 俺の目の前には、全身から血を流して力尽きた竜が地面に横たわっている。

 3体の鉄人君は、一応用心のために竜の周りで待機させてある。

 フゥ~、疲れたぜよ。

 俺の身体は全身擦り傷だらけで、魔力はカッスカス状態である。

 俺は竜の頭に歩いて行く。

 最後に止めとして首を刎ねるためだ。

 俺が近付いた所で、急に竜の頭が持ち上がり、俺目がけて炎を吐き出そうとした。

 イナリはそれを狐火で相殺する。


 やっぱりな!

 攻撃して来るんじゃないかと俺もイナリも思っていたよ。

 二度と同じ轍は踏まねぇよ。

 それで前に苦い思いをしているからな。

 ケビンよ!お前は最後まで絶対油断するなと云う事を身をもって俺に教えてくれたからな。

 その教訓をしっかりと守っているぜ。

 俺は持ち上げられた竜の頭の下に身体を滑り込ませ、太刀を右から左へ横一閃に振り抜く。

 俺は竜の首を刎ねたのだ。


「これで本当に終わったな!」

「キュキュ!」

(そうだね!)


 イナリが俺の左肩に飛び乗って来て、俺の頬を舐める。

 俺はイナリの頭を右手で撫でてやる。


「お疲れ相棒!」

「キュキュ!」

(お前もな!)

『見事であった人族の英雄よ!』

「オイオイ、まだ喋れるのかよ」

『最後の吾輩の足掻きじゃよ!』

「最後の足掻きねぇ」

『済まぬが、最後に吾輩の願いを聞いてくれぬか?』

「最後に願いだって?何を自分勝手な!」

『まぁ、そう言わんでくれ!お主にとっても良い事なんじゃから』

「俺にとっても良い事?」

『あぁ、そうだ!吾輩の心臓の魔石をお主のミスリルゴーレムの魔核とせい。

 そうすれば、お主のミスリルゴーレムは更に強くなる。

 吾輩はあの無敵のボディを持つミスリルゴーレムの糧となりたいのだ。頼む!」


 ミスリル鉄人君の糧になりたいか・・・

 なるほどね。

 その気持ち何となくだが分からないでもないな。

 そこまで言われたら仕方がないか。


「分かったよ!その願い聞き届けてやるよ」

『有難う、人族の英雄よ!これで心置きなく冥府へと飛び立てる』

「悔い改めて、お前のせいで命を失った者へ詫びるんだな!」

『そうしよう、さらばじゃ人族の英雄よ!』

「さらばだ、偉大な竜族の戦士よ!」


 こうして、竜との戦いはやっと幕を下ろしたであった。



 竜を退治したと聞いて、逃げ出した街の住人達が戻り始めた。

 怪我をした者はアイシャが中心となって教会の人達と手当をしている。

 俺はその場に居た冒険者達と共に竜の素材の解体を始めていた。


「この野郎!よくも父様トトサマを・・・」


 一人の少年が竜の頭をポカスカと殴っていた。


「オイ、あの子は?」


 俺は近くに居た冒険者の男に尋ねてみた。


「あの子はこの町の外れに住んでいる獣人の子だよ。

 あの子の父親は冒険者で、鉄壁殿が助けに来る前に俺達と一緒に竜と戦っていたんだよ。

 だけど、この竜に食われちまってな・・・」

「そ・そうか・・・」


 この子はまだ3歳くらいであろうか?

 耳の形からして、猫か何かの獣人の子だな。

 可哀想に・・・

 俺がもう少し早く駆けつけていれば・・・嫌、こう云う考えをしちゃダメだ。

『お前何様だ!』と思うし、死んで行った人達に失礼だもんな。


「そこのお兄ちゃんが父様の仇を討ってくれたのか?」


 俺がそんな事を考えていると、獣人の子は俺の方に向いて口を開いた。


「あぁ、そうだよ!だけど、俺一人で竜を倒したんじゃないよ。

 君のお父さんや他の冒険者さん達が頑張って戦ってくれたから倒せたんだ。

 俺は最後に止めを刺しただけさ。だから、この竜は皆で倒したんだ。

 君のお父さんも一緒にね!」

「父様も一緒に・・・」


「バーン!バーン!あっ、こんな所にいたのね。皆さんの邪魔をしてはダメよ」

「シスター、ゴメンなさい!」


 この子の事をバーンと呼ぶシスターの恰好をした恰幅の良い熟年のおばさんが現れた。

 たぶん、この町の教会関係者だな。


「さぁ、教会へ帰りましょう!」


 教会か・・・ん!と云う事は、この子にはもう身寄りがいないのか?


「あの、シスター。少しお聞きしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」

「ハ・ハイ、どうぞ何なりと!」

「この子の父親は竜との戦いで命を落としたとお聞きしましたが、母親は?」


 シスターは首を横に振る。

 そうか、やはり居ないのか・・・


「この子の母親は、この子を産んですぐに亡くなったとこの子の父親から聞きました」

「そうですか・・・」


 産んですぐにか・・・俺と同じか。


「それからはず~っと父親と2人暮らしです。

 父親が冒険者でしたので、長期の依頼の時とかは私達の教会で預かる事もしばしば御座いました」

「そんなところまで俺に似ているとはな・・・」

「えっ、似ている?」

「えぇ、実は私も生まれてすぐに母親が亡くなりました。

 その後は冒険者の父親と2人暮らしでした。

 この子と同じで、よく村の教会に預けられたんですよ俺も。

 そして父親を戦争で亡くして戦争孤児と成りました。 

 ね、よく似ているでしょ?」

「本当に似ていますね・・・」

「お兄ちゃんも僕と同じなのか?」

「そうだよ!君の名前はバーンだったね?」

「ウン!」

「バーン、君は大人になったらお父さんと同じ様に冒険者に成りたいかい?」

「ウン、僕も父様の様な冒険者に成りたい!」

「そうか!俺も君と同じで父さんの様な冒険者に成りなくて冒険者になったんだよ」

「僕も絶対に冒険者になる!」

「だったら、メソメソしていたらダメだぞ!」

「分かった!」

「男の子はどんなに苦しくても辛くても目標のために歯を食いしばって生きて行くんだ。

 君は決して一人でない!

 君のお父さんは居なくなってしまったけど、常に君の事を空から見続けている。

 お母さんと一緒にね。

 それにシスターや孤児園の仲間のいるんだ。

 だから君は一人ぽっちじゃないんだよ」


 俺はバーンの傍に近寄り、彼を正面から抱きしめて上げる。


「俺も君が立派な冒険者に成れるように祈っている。

 だから力強く生きて行くんだ、いいね!」

「わ・分かったよお兄ちゃん・・・ウ・ウェェェ~~~~!」


 バーンは俺にしがみ付き大泣きする。

 今だけは思いっ切り泣いて良いぞ。

 だけど、明日から強く生きてくれ。

 俺はバーンが泣き止むまでず~っと抱きしめていた・・・


挿絵(By みてみん)

次回『第139話:笑い』をお楽しみに~^^ノ

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