第137話:吾輩は聖獣である
リアース歴3237年 8の月7日17時過ぎ。
2体の鉄人君が竜を左右から抑え込み、奴の腕の翼を封じる。
竜は暴れて鉄人君達を振り解こうとするもガッチリと固められて離せない。
イナリはチョロチョロと動き回って、竜をかく乱しながら狐火を奴の顔目がけて放つ。
竜も負けじと口から炎を放つが、お互いの炎で相殺される。
俺はと云うと、竜の尻尾の攻撃をかわしながら、トンカラが作ってくれたミニボウガンで中距離から攻撃に強いられている。
奴の懐に入り込めないんだよ。
お互いに会心の一撃など無く、こんな小競り合いの状況が十数分ほど続いていた。
『ちっこいのもなかなかやるではないか!』
「キュキュキュ!」
(ちっこい言うな!)
「ちっこい言うなと!」
『吾輩は褒めているのだぞ!ちっこい身体で俺をこうしてかく乱しているののだからな』
「キュっキュキュキュキュ!キュキュキュキュキュ!」
(だからちっこい言うな!たかがトカゲの少しデカイ魔物の分際で!)
「だからちっこい言うな!トカゲを少し大きくした魔物の分際でと」
『ワ~ッハッハッハ、言うでないか!トカゲのデカイ魔物か、確かにその通りじゃの』
「キュキュキュキュ、キュっキュキュ~」
(偉そうに!こっちはこれでも聖獣なんだ。魔物風情がデカい口を叩くな!)
「偉そうに!こっちはこれでも聖獣だ。魔物風情がデカい口を言うなと!」
リン、イナリが何か言う度に通訳ご苦労さんです。
君のお陰で非常に助かっているんだけど、戦いに緊張感が湧きません。
どうにかなりませんかねぇ?
『お前が聖獣だと?そんなちっこい身体でか?』
「キュキュキュ、キュっキュキュ~!」
(だから何度もちっこい言うな。吾輩はこれでも聖獣である!)
「何度もちっこい言うな。吾輩は聖獣であると!・・・主様、通訳要ります?」
「いらん!少し黙っていてくれると助かる」
「そうします・・・」
済まないなリン。
これで戦いに集中出来そうだよ。
「オイ、あのちっこいの聖獣なんだってよ!」
「本当か~?」
「でも、鉄壁のルークと一緒に戦って来たんだろ?だったらやっぱり聖獣じゃないのか?」
「確かにな!」
「凄ぇ~、聖獣か~!ちっこいけどな!」
「「「確かにちっこいな!」」」
「キュキュキュキュ~!」
(お前達、ちっこいちっこい煩いぞ!)
「うへ!聖獣がこっち見て何か文句言っている!」
「お前達がちっこいちっこい言うからだ!少し黙ってろよ」
「「「ス・スマン!」」」
ダ・ダメだ!
外野もピーチクパーチクと煩ぇ。
だから緊張感が出ねぇんだってばよ。
お願いだから戦いに集中させてくれよ。
「イナリ、外野を気にするな!戦いに集中するぞ」
「キュ!」
(分かった!)
竜の奴まだまだ元気だなぁ。
それにしても、効果が出て来るの遅くね?
もしかして、全く効かないとか?
それだとヤバいなぁ。
この十数分が全く無駄になっちゃうなぁ。
俺はこの十数分ある仕込みをしていた。
俺の得意な作戦のあれだ。
そう、麻痺薬を使った作戦だ!
俺はミニボウガンの弾に麻痺薬を含ませたミスリル特性弾を使用していた。
竜の頭、両腕、両足、身体の中心部分、尻尾とあらゆる部分に特殊弾を撃ち込んで来た。
麻痺薬を竜にぶち込んで麻痺をさせてしまおうと思っていたのだ。
卑怯と言われてもへっちゃらだい。
騎士道精神!それって美味しいの?
何を言われようと生き残らなきゃ意味がないんだ。
生き残る確率が上がるなら卑怯と言われようがなんだってやるさ。
アイシャを置いて先に死ぬ訳には行かないからね。
それにしても効果が全然現れない。
竜には麻痺薬は効かないのであろうか?
『ん!何だ?身体が変だ・・・何だか所々痺れる感覚はするぞ。英雄よ、お前何をした?』
キタキタキタキター!
ついにこの時が来たぜ。
しかし、麻痺性の強い弾をあれだけ撃ち込んだのに、所々痺れる程度だけとは、やはり竜は少なからず麻痺耐性がある様だな。
もう、効かないかと諦め掛けていたよ。
さぁ、待ちに待ったチャンスがやっと来たんだ。
俺は腰の袋に入っていたマジックポーションを取り出し、一気飲みをする。
よし、魔力回復!
一気に片を付けてやる。
「新しき従者よ出でよ!『ゴーレム!』」
ここで最高の隠しワザ、ゴレーム3体目生成を行う。
ゴーレム同時3体は正直言ってまだキツイ。
1時間もすれば魔力がスッカラカンになるであろう。
しかし、ここが決め時なのだ。
相手はあの竜なのだから、俺の持つ全ての力を出し切らないと勝てない。
出し惜しみなんかしている場合じゃないのだ。
「鉄人君3号は1号と交代して竜の抑え込みを。2号はそのまま抑え込みを続けろ。
1号(ミスリル製)は、竜の正面からガチンコ対決だ。
思いっ切りパンチを食らわせて、ボッコボコにしてやれ。
イナリは、今まで通り奴の顔に狐火を続けてくれ!」
「キュ!」
(了解!)
俺の指示通りに1~3号、イナリが動く。
抑え込み役を解かれた1号は、竜の真正面に立って鉄人パンチで、嫌、ミスリルパンチで奴をタコ殴り始めた。
竜の奴がまだ隠し玉を持っている恐れがあるが、ここは攻め一択だ。
よし、俺も動くぞ!
竜の意識が1号とイナリに向いている間に俺は奴に詰め寄る。
竜まで5mほど詰め寄った所で、奴の尻尾が俺目がけて飛んで来る。
「出でよ壁!『ウォール!』」
ウォールの術を俺の足元に掛ける。
土壁は俺の足元から急に立ち上がり、俺の身体をロケットの発射の様にポーンと上空に飛ばせ、地上から6mほど飛び上がった。
竜の尻尾は発射台となった土壁にぶち当たり、俺は奴の尻尾攻撃を無事にかわす。
俺の飛び上がりは尻尾攻撃をかわすためでもあったけど、実はそれが本当の狙いではない。
俺が飛び上がったのは、竜の頭より高いこの位置である技を出すためだったんだ。
もし、ここで竜の口から炎が飛び出して来たとしても、イナリが必ず狐火で相殺してくれる。
絶対に!
戦闘におけるイナリへの信頼は絶大だ。
アイシャには申し訳ないが、この件だけはアイシャでも太刀打ち出来ない。
これからも変わる事はなく、イナリへの信頼が1番なのだ。
なんたって、この12年間ズ~っと一緒に戦って来たのだから・・・
案の定、竜の奴が口から炎を吐いて来た。
イナリはそれに合わせて狐火を放ち、炎を相殺させる。
俺とイナリはお互いに目を合わして笑う。
さぁ、イナリがせっかく梅雨払いをしてくれたんだ。
ここはデカイのを一発決めるか!
「飛燕!」
渾身の力を込めて太刀を抜刀する俺。
抜刀した剣の先からは、風の燕が元気よく飛び出して行く。
飛燕は見開いた竜の右目に突き刺さる。
「ガオォォォーーーー!」
竜が悲鳴を上げる。
飛燕は、たぶん脳まで達しているはずだ。
奴はそう長くはないだろうさ。
飛燕を撃ち終わった俺は地面に落下する。
そこへ再度、竜の尻尾の攻撃が飛んで来た。
「ちっ、まだ余裕あんのかよ!出でよ壁!『ウォール!』」
何処かで油断があったのかな?
飛燕を撃ち終え、決着はほぼ着いたと勝手に思い込んでしまったようだ。
土壁が辛うじて間に合ったが、竜の尻尾の威力凄まじく、土壁を粉砕してしまう。
俺は咄嗟に右腕でガードをしたが、粉砕された硬い土の塊が俺の右腕と脇腹に当たり、俺を吹っ飛ばす。
「ク~、右腕と肋骨が持って行かれた(折られた)~!」
「キュキュキュ!」
(油断するなバカたれ!)
「貴方!」
「主様!」
イナリには叱られ、アイシャとリンからは悲鳴の様な声が上がる。
心配かけて済まねぇ。
でも大丈夫だってばよ。
「傷つけられし身体に癒す力を~!『ヒール!』」
俺はすぐにヒールの術を掛けて自分の身体を元に戻す。
骨折程度ならすぐ治るぜ!
『ぐぬぬぬぬ!お主は聖の術まで使えるのか?』
「そうだよ!これで分かったろ。お前が幾ら攻撃をして来ようとこっちはすぐに回復出来るんだ。もう、諦めてくたばるんだな!」
『黙れ!』
竜は3度めの尻尾攻撃をして来た。
「1号頼む!」
俺の掛け声と共に鉄人君1号が素早く俺の防御へと回る。
飛んで来た尻尾を両手でガッチリと掴んだ。
『何故吹き飛ばん!何だこのゴーレムは?』
「フハハハハ!俺の自慢のゴーレムはミスリル製だ。お前如きの尻尾じゃビクともせん」
『ミ・ミスリル製だと!』
「そうだ!お前より硬いミスリル鉱石で出来たボディさ」
『次から次へと予期せぬ事を仕出かしよって~』
「煩ぇ、そんなの知るかよ!いい加減くたばれ~」
俺は太刀を振り上げて右上から左下に思いっ切り袈裟切りをし、返す刃で逆に左下から右上へ切り上げた。
ブツリ!
竜の尻尾は根元から切れ落ちた。
『グワ~、よくも吾輩の尻尾を~!』
尻尾を離した1号は竜の背後に周り、奴の翼を片方ずつ引き千切る。
俺は無防備となった竜の下腹部を刺しては斬ってを繰り返す。
竜は悲鳴を上げ、目から尻尾、身体全体から大量の緑色の血を流す。
そして、とうとう力尽きてグッタリとしてしまった。
気が付けば30分ほどの時間が経っていた・・・
次回『第138話:強く』をお楽しみに~^^ノ