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リアース戦記 ~鉄壁のルーク~  作者: ナナすけ
歌一座放浪記の章
136/187

第132話:ズラビスからの手紙

 リアース歴3237年 7の月13日。

 海洋都市エドナのとある酒場にて・・・


「何だよ、人いっぱいで入れねぇじゃねぇかよ!」

「せっかく来たのによ~」

「少し黙れって!歌が聞こえなぇよ」


 俺達は今宵も酒場で歌を披露している。

 5日前にエドナに着いて、その晩からすぐ歌一座を行って来ているが、日増しに観客が増えており、今晩は店に客が入り切れないほどの超満員となってしまった。


「アイシャ色っぽいっすよ~!リンちゃんも惚れ惚れするほど綺麗っす~!」


 アイシャとリンが歌う1番手前で一際大きな歓声を上げる男がいる。

 その男はベレットである。

 ベレットはこの5日間、アイシャ達の歌を聞きに通って来てくれている。

 観客がここまで増えたのは、たぶんベレットが噂を広めてくれたのではないかと俺は思っている。


「アイシャ~、胸揉ませて~!」

「ベレットてめぇ、何を言ってやがる!」

「ケチくさいっすルーク!」

「うるせぇ、あれは俺だけのもんだ!」

「「「「ギャハハハハ!」」」」

「「「「そうだそうだ!ケチくさいぞ~」」」」


 酒場全体に笑いの渦が起こる。

 毎晩これだよ!

 ベレットのお陰でチップが増えるのは嬉しいが、毎晩このバカ騒ぎだ。

 流石に疲れるぜ。


「歌い疲れたので、一休憩させて下さいねぇ!」


 アイシャが観客に向けて休憩宣言をする。

 アイシャとリンは観客に手を振りながら俺の席にやって来る。


「ふぅ~疲れた!冷たいエールを飲みたいわ」

「そうですね奥様!」

「アイシャ、リンちゃんお疲れ~!」


 ベレットがキンキンに冷えたエールを両手に持って俺達の所に来た。


「ベレットさん気が利くわね!」

「だろ~!だから、ちょいと胸を・・・」

「グエっ!」


 ベレットの腹にアイシャの右肘が食い込む。

 見事なエルボーだよアイシャ!

 やはり君は弓からモンクにジョブチェンジすべきだ。

 心底そう思うよ。


「オイタは許しませんよ!」

「ご・ゴメンなさい・・・」


 アイシャのエルボーで崩れ落ちるベレット。

 ベレットが両手に持っていたエールは、リンが素早く回収する。

 哀れベレットは撃沈したのであった。


 俺達が休憩に入った事により、周りの客も飲食モードへと移行する。

 店のあちこちで注文の声が上がり、皆が思い思いに酒や会話を楽しむ。

 どの街でもそうだが、初日に歌を披露した後は必ずと言って良いほどアイシャとリンに手を出そうする観客が居た。

 そして返り討ちに会うのである。

 ベレットの様に一撃で・・・

 この光景を見てしまうと、次の日からは誰もアイシャとリンに手を出す者は居なくなる。


『瞬殺の歌姫!』


 この噂は、本人達の知らない所で密かに広まって行くのであった・・・



「なぁ、アンタ!鉄壁のルークだよな?」


 飲食を楽しんでいる俺達に一人の冒険者風の男が小声で俺に聞いて来た。


「何者だ!」


 俺は太刀の柄に手を掛け、相手の男を睨む。

 話しかけて来た男は身動きが出来ずに固まる。

 リンが、いつの間にか男の背後に回り込み、周りから見えない様に背中に短剣の先を突き付けていたからである。

 流石リンだ!

 見事に素早い動きだよ。


「ま・待ってくれ!俺はアンタ達の敵じゃねぇ。ズラビスの旦那から手紙を頼まれたんだ」

「ズラビスからの手紙?」

「こ・これがそうだ!」

「リン、離してやれ!」

「分かりました!」


 男は懐から出した手紙を俺に差し出す。

 俺はその手紙の中を読もうとする。


「ルークはズラビスと知り合いだったっすか?」


 おっ、ようやく復活したなベレットよ。


「ベレットはズラビスの事を知っているのか?」

「別に知り合いではないっすよ。

 ズラビスの名は情報を生業としている者なら誰でも知っている名だよ」

「へぇ~、アイツやっぱり凄いんだな」

「そう云うルークはズラビスと何時知り合ったんだい?」

「旅の途中さ!一緒に乗り合い馬車の護衛をしたのが縁さ」

「なるほど!」


 泣く子も笑うお笑い盗賊団で、イナリを狙って追いかけられていた事は黙っておく。

 要らぬ事言って、商売の邪魔をしちゃ悪いもんねぇ。

 俺はズラビスからの手紙を読み始める。


「な・なんだってぇ~!あのクソ爺め~」


 俺は思わず大きな声を上げてしまった。

 酒場の視線を独り占めしちゃったよ。


「貴方、どうかしたの?」

「この手紙、実はエターナのご老公様からだった」

「ご老公様から!」

「そうだ。ご老公様がズラビス経由で俺に知らせて来たんだ」

「いったい何を知らせて来たの?」

「俺に貴族に成れってさ!」

「「「えぇ~!」」」


 俺はご老公様が書いて寄越した手紙の内容を一部始終アイシャとリン、ベレットに教えた。

『貴族たる義務、公務などは国王からある程度免除で良いお許しを頂いた。

 どうしてもの時は全てワシが代わりに受け持つ。

 お主は今まで通りで構わんから、爵位を受けろ!

 来年の3238年、大母神テーラ感謝祭の間に行われる4年に一度の天下一精霊武術大会の表彰式と共に爵位の叙勲式を行うので必ず出席する事。

 ちなみに天下一精霊武術大会には、ルークはすでに参加が決定しているので逃げる事は許されない!英雄が逃げたと後ろ指を刺されたくなければ必ず参加する事。以上!』


「あの狸爺め~、俺が貴族に成るの嫌がっているって知っているはずなのに~。

 俺の性格も考えた上で退路を塞いで来やがった!」

「そうみたいね!こうなったらお受けするしかないんじゃない?」

「ぐぬぬぬぬ!」

「主様が貴族に成られるのですか~、私は貴族様の従者に成るのですね。

 ムフフフフっ、貴族様の豪華な料理を食べられる機会がありそうですね」


 リンの奴は相変わらず、食い気先行で考えやがって~。


「貴方!」


 アイシャは黙ったまま俺の顔をジッと見つめて来る。

 ハァー、分かったよアイシャ。

 お世話になったご老公様の顔を立ててやれって言いたいんだろ。


「受けるよ!受ければ良いんだろ」

「流石、貴方!」


 こうして俺は貴族に成る決意をしたのであった・・・


次回『第133話:一時の別れ』をお楽しみに~^^ノ

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