第130話:歌一座
新章スタートで~す^^
リアース歴3237年 6の月9日。
ウドの町のとある酒場にて・・・
パチパチパチパチ~!と酒場に割れんばかりの拍手喝采が沸き起こる。
酒場の居る皆が、この世界では珍しい黒髪をした絶世の美女と、その美女とは対照的に白に近い銀髪をしたこれまた美女の2人に拍手を送る。
2人の美女は布地の薄い身体にピッタリと密着する様な淡い赤色の艶やかなドレスを着ており、誰もが見惚れしそうな姿をしている。
「聞いた事もない素晴らしい歌ばかりだった!」
「「「そうだそうだ!」」」
「何か感動しちまったぜ!」
「もう1曲頼むよ!」
「そうだ!もう1曲頼む!」
何も入っていないエール用のコップに銅貨や大銅貨のお金が次々と入れられる。
これは彼女達が歌った報酬のチップである。
美女の2人はチップを頂いた観客に笑顔で頭を下げる。
「では、最後に後1曲だけ披露いたしましょう!」
酒場の端に座っていた黒髪の青年が、2人の美女に代わって皆に返答をする。
「そう来なくっちゃ!」
「「「やったぜ~!」」」
観客から歓声の声が上がる。
黒髪の青年はオカニカと云われる楽器をを口に当て、ゆったりとしたメロディーを奏で始めた。
メロデイーが鳴り始めた途端に酒場は一瞬に静かになる。
そのメロディーに合わせて黒髪の美女が歌い出す。
ソプラノで良い声だ。
その歌声に合わせる様に褐色の肌で銀髪の美女も歌い出す。
2人の声は綺麗にハモリ出す。
観客の誰もが彼女達の歌声に魅了されている。
2人が歌う歌は、この世界では聞いた事もない言語の歌が多く、メロディーも今まで聞いた事がないメロディーだ。
高音低音でハモったりする歌なんて、初めて聞いた者は驚くばかりである。
観客は聞きなれない言語の意味などは分かってはいない。
だが、どこか心打たれるものがあるのであろう。
聞きながら泣きだす者もいるのだ。
この酒場に最近やって来たちょっと変わった歌一座。
彼らはこの町であっという間に有名になってしまっていた・・・
「ハァー、喉が渇いた!流石に疲れたわ」
「そうですね奥様!」
2人の歌い手はキンキンに冷えたエールを一気に飲み干して行く。
見事な飲みっぷりである。
「「プハー!生き返る~」」
お・親父くさい・・・
これでは美女が台無しだよ。
「お疲れ様、アイシャ、リン!」
「貴方こそ、オカニカを吹き過ぎて疲れたんじゃない?」
「まぁね!」
俺達は今、表向きは歌一座と云う事で旅をしている。
ルザクを出た俺達は、北東にあるロナンの町を経由して、バニング領内に入った。
バニング領内には入ったが、城塞都市バニングへは向かわず、都市スレスレで向きを北に変え、外海に出てからは外海沿いを北西に向かって進んでいる。
俺とアイシャは銀髪を黒髪に染め、ルークやアイシャと分からない様に念入りに旅を続けている。
勿論、身を隠すためである。
俺達がルザクを出て、2週間ほどで第6次ルザク戦役の報が国王の耳に入ったと聞いた。
そして、その後すぐに国王から俺の貴族への受勲が決まったのだ。
エルリック様の予想通りとなった訳である。
俺の名は再び世界へと広がって行き、アイシャの名も又広がってしまった。
俺達を探している者もいるらしいし、エルリック様の助言を聞いて、早々と身を隠して正解だったわ~。
このウドの町には5日前に着いた。
この町には大きな漁港があり、漁業が盛んな町である。
冒険者の数より漁師の数の方が多く、今まで見て来た町とは少し違います。
漁師特有の豪快さと云うか、町全体が何にでも大雑把な感じで、これぞ漁師の町~って感じがします。
「あぁ、幸せ~!」
「キュキュキュ~!」
(本当に幸せ~!)
リンとイナリが魚介類をふんだんに使った海鮮シチューを頬張って夢中で食べている。
本当に幸せそうな蕩ける様な顔をしているね君達。
俺とアイシャは刺身をつまみにエールを飲む。
新鮮な刺身なんて、転生してからこの町に来るまで口にした事なかったから、とても嬉しいや。
懐かしさもあって、とても美味しいです。
本当に幸せな一時だわ。
「あっ、居た居た!アイツらが最近やって来た歌一座なんだぜ」
「へぇ~、綺麗な子達だなぁ」
「聞いた事もない言葉で歌うから珍しいって評判なんだ」
「そんなに有名人なんだ~、俺も聞いてみてぇ」
「ただし、女達には絶対触れるなよ。あの男のものだからな」
「ちっ、独り占めかよ!」
「得に黒い髪の女の方は絶対触れるなよ!夜叉が降臨するからよ」
「わ・分かった!」
「なぁ、アンタ達。お願いだから何か歌ってくれよ。チップ弾むからさ!」
「誰が夜叉ですって?」
「「ヒィー、許してくれ!」」
うわっ、又だよ!
先ほどから似たような感じで、もう2時間ほどこんな調子なんだよ。
鉄壁や聖女の名を隠す事に成功した俺達。
だが、違う意味ですっかり有名になりつつあるのであった・・・
活動報告の欄に今後の予定を書かせて頂きました。
次回『第131話:再会』をお楽しみに~^^ノ