第128話:秘密
まさかの真実が発覚!?
リアース歴3237年 3の月17日8時。
リの国王ヘルベート・リ・ザーンにより、第6次戦役の報とその終結の報が国民に向けて発せられた。
国王から知らせられる内容に、国民は歓喜し、首都ザーンはお祭り騒ぎとなる。
誰もがルークを称え、ルークの人気はうなぎ上りとなって行く。
ルークと共に戦場を駆け回った元エターナの聖女である妻アイシャも又称えられ、夫婦して有名になって行くのであった。
国民への告知を終わった国王ヘルバートは王の間へ戻り、バート宰相と紅茶を飲みながら一息付いていた。
「国王様、お疲れに成られましたか?」
「流石にの!私ももう歳だ、そろそろエリオットに国王の座を譲る時かもな」
「お戯れを!国王様はまだまだ元気では御座いませぬか」
「そうか?ワ~ッハッハッハッハ!」
豪快に笑う国王。
この豪快さが、国民に親しまれているのだ。
「バート宰相よ、済まぬがエターナのご老公ビルギットを呼んでくれぬか!」
「仰せのままに!」
バートはソファから立ち上がり、頭を下げて王の間から出て行く。
バートが王の間から出て行き国王が一人になると、国王は縦横10cmサイズの小さな絵を懐から取り出し、その絵をジッと眺める。
「お前は、さぞかし母親に似て綺麗になったのであろうなぁ・・・会いたいのう!」
絵を見ながら独り言を言う国王。
絵に描かれている小さな女の子に優しそうな目で語り掛け、絵の顔を何度も何度も撫でるのであった・・・
同日15時。
「国王陛下、お呼びとお聞きビルギット参上致しました」
「堅苦しい挨拶は止めろといつも言っておろうが!
それにしてもビルギットよ、急に呼んで悪かったな!」
「相変わらずですな、ヘルバート様は!それで御用とお聞きましたが何か?」
「まぁ、待て!まずは茶でも飲んからじゃ」
国王の合図とともに侍女が国王とビルギットに紅茶を淹れる。
温かい香りが二人の間に漂い、何処かホッとする様な寛いだ空間になる。
国王が唯一心を許せる真の友ビルギット。
二人は学生の頃に戻った様な気分になっているのであろう。
「私が呼ぶまで誰も部屋に近づけさせるなとドアの前の衛兵に伝えてくれ!」
「畏まりました国王陛下!」
紅茶を淹れ終わった侍女が頭を下げて王の間から出て行く。
「ビルギットよ、今朝、私が国民に発した話は聞いておるか?」
「ルザクの件だったらお聞きしましたよ!それが何か御座いましたか?」
「惚けんでも良いビルギットよ!若き英雄ルークの事も勿論知っておるじゃろ?」
「えぇ、確かに知っております・・・」
「あの子もルークと共に戦場を駆け回ったらしいの?」
「ハっ、その様で!」
「ハァー!ルークの活躍を聞いた時は喜んじゃが、その後にあの子も一緒だったと聞いて胆が冷えたわい。心臓が止まるかと思ったぞ」
「た・確かに・・・あの跳ねっ返り娘はいったい誰に似たので御座いますかのう?」
「私と言いたいのかビルギットよ?」
「セーラ様はとてもお淑やかな方で御座いましたからなぁ。
後はヘルバート様しか居らぬのでは御座いませんか?」
「フンっ!」
国王があの子と言っていたのはアイシャ。
実はアイシャは国王ヘルバートの隠し子だったのである。
この秘密を知る者は国王とビルギットしかいない。
国王は側室を持たず、正妻である王妃一筋だと国民の皆に知られている。
国王と正妃の仲は良く、長男エリオット、次男ディザートにも恵まれ、理想の国王一家として国民から慕われているが、実は正妃はとても嫉妬深い性格なのである。
国王ならば、大事のために子を多く持たねばならぬところであるが、正妃が他の女を一切許さず、手を出す事が出来なかったのだ。
そんな中でも、国王が唯一手を出した女性がいた。
それがアイシャの母であるセーラと言う名の女性である。
セーラは教会から派遣された城のお抱え治癒師であり、卓越した美貌にお淑やかな性格から、城に勤めていた男性の憧れの的であった。
幾人もの男性から求婚をされるも、教会に一生身を捧げるつもりでいたセーラは、男に一切目もくれず全部断って来た。
その彼女が国王の目に留まった。
国王はセーラの美貌に一目惚れをしてしまったのだ。
一国の王に求められれば、流石に袖にする事は出来ない。
セーラは国王を受け入れ、人知れず肌を重ねる様になる。
そうして出来たのがアイシャである。
聖の術で妊娠をしない様にも出来た訳だが、国王はセーラとの子を望んだ。
だが、いざ子が出来たとなると、ハイそうですかと簡単に産ませる訳にも行かなかった。
正妃の目があるからである。
セーラは仕事を辞め、教会を辞めて、ひっそりと産む決意をする。
それを手助けしたのが、国王に頼まれたビルギットであった。
セーラはビルギットが用意した場所で密かにアイシャを産んだ。
首都でしばらくの間隠れ住み、国王は忍んで会いに行っていたが、アイシャが3歳になった頃に正妃の耳にある噂が入る。
「国王が忍んで誰かに会いに行っているらしい」と。
国王は慌ててセーラとアイシャを首都から逃がす事にした。
行き先は、真の友ビルギットが治めるエターナの町である。
セーラとアイシャは乗り合い馬車に紛れ、エターナに向かう。
そこで悲劇が起こった!
乗り合い馬車は何者かに襲われ、アイシャ以外は皆帰らぬ人となる。
アイシャはその時のショックでそれ以前の記憶を失ってしまう・・・代わりに前世の記憶を呼び戻す訳だが。
馬車を襲ったのが未だに何者か分かっていないが、魔物であろうと現場を見た者が言っている。
魔物の様な爪痕が残っていたからである。
場所を襲ったのは本当に魔物だったのであろうか?
魔物に見せかけた盗賊、もしくは誰かに頼まれた者の仕業である可能性も・・・
「ビルギットよ、あの子は幸せそうであったか?」
「そりゃあもう!冒険者仲間や街中の皆にも祝福されて、身体全体から幸せ感を漂わせておったわい」
「そうか・・・英雄の下に嫁いで幸せか」
「父親としては複雑かの?」
「そうだな!大事な愛娘だからな・・・
ビルギットよ、ルークを貴族の列に加えようと思うが、お主どう思う?」
「あ奴の嫌そうな顔が目に浮かぶな!」
「出世を喜ばないとは変わった奴じゃなぁ」
「クロードの様に自由に旅をしたいと言う奴じゃからのう」
「縛られる事を嫌うのか?」
「ハッキリとは分からんが、たぶんそんな事であると思うがの」
「準男爵であれば、領地なしの貴族だし、一代限りであるから大した縛り事もないし良いと思うのだが?」
「貴族そのももの堅苦しさを嫌がっている様だからのう・・・」
「何とも面倒臭い男だのう!」
「そう言わんでやってくれ!それでも国の英雄じゃよ」
「そうであったな!・・・あの子に会いたいのう」
「それが本心か?」
「悪いか?」
「フゥ~、仕方がないのう。何か手を考えてみるかのう~」
ビルギットは大きなため息をつく。
国王に頼まれては断れる訳がないではないかと心で愚痴りながら・・・
次回『第129話:呼び出し』をお楽しみに~^^ノ