第12話:父の優しさ
親子の愛。
それは無償なもの。
親は子のためなら自分を犠牲にしても構わない。
子は親の豊かな愛情の中で育ち、真実の愛を学び、また次へ伝える。
親子の愛。
それは地球でもリアースでも同じである。
親子の愛とは普遍である・・・
リアース歴3230年 8の月15日。
ルークは意識を失って丸一日が経っている。
助けて!
白い霧の中で誰かがそう言った。
助けて!
ここは何処だ?
俺は白い霧の中を彷徨っている。
誰?
返事は帰ってこない。
キャー!
今度は悲鳴が聞こえた。
アン姉さん?それともジーク?
俺はその声を探す。
京ちゃん、助けて!
あ・愛子なのか?
助けて京佑!
何処だ!何処にいるんだ愛子!
鼻に何かが触れた・・・
「いってぇ~~!」
鼻にイナリが噛みついていた。
手で払おうとするとイナリは素早く後退した。
「何しやがる!馬鹿狐!」
「キュキュ!」
イナリが文句を言っている。
「お!やっと起きたかルーク。イナリご苦労さん」
父の差し金か。
あぁ~鼻が痛い。
ボヤッキーみたいな鼻になったらどうしてくれる。
(ドロンジョ様~!)
「もう夕方だぞ!丸一日寝ているから心配したぞ」
父は安心した様な顔で言った。
手には温かいミルクの入ったカップを持っていた。
「ほら、温かいうちに飲め!」
父がカップを差し出す
「あ・有難う!」
ベッドで寝ていた俺は上半身を起こしカップを受け取った。
父はベッドの横に腰かけ用の木で出来た小さな椅子を置いて、その上に座った。
「何所か痛い所はあるか?」
「別にないよ。鼻が痛いだけ」
俺はカップに口を付けた。
「熱っ!」
「ハッハッハ!ゆっくり飲みなさい。火傷するぞ」
てめぇ~が温かいうちに飲めって言ったんじゃないか。
うぅ~、熱い!
「俺が狩りから帰って来て、お前達がゴブリンに襲われたと聞いた時は心臓が止まるかと思ったぞ。
お前まで先に逝ってしまったらと・・・でも、無事で安心した」
「心配かけてゴメン!」
「無事だったんだからいいさ!でも村の皆には謝っておけよ。特に自警団の人達にはな」
父はそう言って、俺が意識を失った後の経緯を順に話してくれた。
俺が意識を失って倒れてすぐに自警団の人達は駆けつけてくれたらしい。
アン姉さんの悲鳴が水辺の近くで働いていた酪農の人の耳に届いたらしく、すぐに自警団の人達に知らせたらしい。
そして、慌てて駆けつけてくれたそうだ。
村は大騒動だったらしい。
自警団の人達はあれからずっと周りを警戒しているそうだ。
今のところ他のゴブリンらしき魔物が見つかった情報はないらしい。
俺が倒した2体のゴブリンの死体は、魔石だけを抜き取って地に埋めたってさ。
意識がない俺と腰が抜けたアン姉さんとジークは、自警団の人達が背負ってくれて村まで運んでくれたらしい。
俺は父が狩りから帰って迎えに来るまで教会で寝かされていたようだ。
と云うのが今回の事件の顛末である。
「ルーク!俺より先に死んではいかんぞ。親より先に逝くのは親不孝なんだからな・・・」
「うん、分かった・・・」
その後、少し沈黙が続いた。
「今回、お前がゴブリンを撃退した事は本当に凄いと思う。
だがな、お前はまだ9歳の子供だ。
勇気と無謀を履き替えたら駄目だぞ!
ゴブリンに立ち向かった勇気は本当に凄いよ。
皆を守ろうとした事も偉いよ。
でもね、あの場にお前より年上の人は居ただろ。
決して一人ではなかっただろ?一人で突っ込むのは無謀だよ。
それはいけない・・・
もし、お前に何かがあったら母さんに申し訳ない!
お前が居なくなったら、父さんはもう生きて行けない・・・
お願いだから約束してくれ!無謀な事はもうしないと!」
父は涙を流していた。
俺もいつの間にか涙が流れていた。
「と・父さんゴメンね!
二人は抱き合って盛大に泣いた。
後で冷静になってみれば、スゲ~恥ずかしくなった。
黒歴史が1ページ加わった俺であった・・・