第124話:盾の継承
リアース歴3237年 3の月1日18時過ぎ。
ルザク城入口前の正門広場にて・・・
「市民の皆!心配をさせてしまったが、何とかナの軍を退かす事に成功した」
「「「「おぉ!」」」」
「「「「伯爵様万歳!」」」」
伯爵の言葉に市民が喜びの声を上げる。
「無事に退かす事は出来たが、今回も少なからず犠牲者を出してしまたった事に遺族の方々には深くお詫びをする。大変済まなかった!」
伯爵は皆に向かって深々と頭を下げる。
アンタ凄ぇよ!
貴族なんて皆、平民に威張り散らすばかりだと思っていたからな。
そんな平民に素直に頭を下がられる伯爵は本当に凄いと思う。
「遺族の方々には、これから私が責任を持って其方達の面倒を見させて頂くのでどうか安心をして欲しい」
「「「「伯爵様・・・」」」」
伯爵の配慮の言葉に誰もが感動をする。
伯爵は確か戦に関しての能力には乏しいかもしれない。
だけど、この人はそれを補う政治的能力、民を大事に思う心、民心の心を掴む魅力と、領主としては無くてはならない能力を持っている。
戦なんてノリンン団長や弟のデュックさんにでも任せておけば良いんだ。
この人は素晴らしい領主だ。
俺はそう思う!
「今回の戦を短期に終結する事が出来たのは、あのエターナの英雄殿のお陰だ!」
え!そこで俺の名を出すの?
や・止めて~!
「エターナの英雄ってあのスタンピードを止めた英雄だよな?」
「英雄殿がこの町にいるの?」
「流石、英雄様だぜ!」
市民はザワザワとし出す。
あちこちから俺の名が聞こえて来る。
うぅぅ、恥ずかしいから止めて~!
「さぁ、英雄殿!皆に一声かけて上げて下さい」
「え・えぇ~~~!」
勘弁してよ~!
皆の前で話すスキル何て俺持ってないよ~。
「「「「英雄様万歳~!」」」」
「「「「英雄様~!」」」」
「さぁ、英雄殿!」
俺は渋々舞台に上がる。
俺が伯爵の横に立つと市民の声が収まり、シーンとなる。
トホホ!俺の声を待っているのね。
うぅぅ、どうしよう?何を話したら良いんだよ~。
「若き英雄殿に酷な事をさせるでないわい!」
その時、城の正門の方から車椅子の様な物に乗った老人が現れた。
皆の視線がそっちに集中する。
「父上!」
「ご老公様!」
「「「「オイ、ご老公様だ!」」」」
「「「「ご老公様~!」」」」
あ・あれが名将エルリック様!
レントラさんが言っていた俺とアイシャと同じく前世の記憶を持つ人・・・
車椅子を押されてエルリック様はゆっくりと俺の方に向かってやって来る。
市民は歓喜の声を上げて向かい入れる。
凄い人気だな。
耳が痛いぜ!
エルリック様が舞台に上がると又もやシーンと静かになる。
「父上、大丈夫なのですか?」
「あぁ、大丈夫だ!今日はとても気分が良いのだ」
「エ・エルリック様、お初にお目に掛かります!」
俺は左膝を地面に着け、右手を心臓の辺りに左手を背中に回して頭を下げる。
お偉いさんに頭を下げるのってこんなんで良いんだっけか?
咄嗟にやったんだけど間違っているかな?
誰か助けて~!
「そう、固くならんでよい若き英雄殿よ!」
「ハ・ハイ!」
「ルッツよ、若き英雄殿はこう云う場には馴れておらんのだ。
民衆に挨拶させるなど酷な事をさせてはイカンぞ」
「ハっ、これは気付きませんでした!英雄殿、配慮が足らず申し訳御座いません」
「き・気になさらないで下さい伯爵様!」
エルリック様優しい~!
ウェーン、嬉しいよ~。
「若き英雄殿よ!この度の働き、皆に代わって礼を言わせて貰う。有難う!」
「エルリック様・・・」
「私の身体が不甲斐ないばかりに、若き英雄殿や息子達、民衆にまで迷惑をかけて本当に済まなかった。
だが、私が居なくてももう安心じゃ。
私が居なくても其方達が居ればルザクは安泰じゃよ。
私は安心して安らかに逝く事が出来る」
「「父上!」」
「エルリック様!」
「「「「ご老公様!」」」」
エルリック様はゆっくりと立ち上がり、俺の手をギュっと握る。
「若き英雄殿よ、其方にリの国の未来を託す!
どうか、この国を、この国の民を守ってくれ!」
「ハ・ハイ!微力ながら私に出来る事限り!」
あっ、言っちゃった!
エルリック様の勢いについ言わされちゃったぞ。
やっべぇ~ぞ~。
「「「「ウワァーーー!」」」」
「「「「ご老公様万歳!」」」」
「「「「英雄殿万歳!」」」」
市民から爆発的な歓声が上がる。
こ・これはもうアカン!
逃げられん。
俺は自分の不幸を呪うのであった・・・
名将エルリック。
彼はリの国民から『祖国の盾』の二つ名で指示されて来た英雄である。
今回のエルリックとルークのやり取りは、目の当たりにした市民達によって、全世界に拡散されて行く事となる。
後に『盾の継承』と言われる様になるのだ。
ルークに新たな二つ名が加わった・・・
次回『第125話:密談』をお楽しみに~^^ノ