第123話:第6次ルザク戦役3
リアース歴3237年 3の月1日2時過ぎ。
「何!それは誠か?」
「そんな大それた事がよく出来たもんじゃ!」
「これが英雄と言われる人の力なのですね!」
ルザク伯爵、ノリン騎士団長、英雄の卵デュック、三者三様から驚きの声が上がる。
俺達は今、ルザク城内の防衛作戦室にいる。
城塞都市ルザクに帰還してすぐに、アインさんにこちらまで連れて来て貰ったのだ。
「こちらが、その王位継承権を持つマンセル・ナ・ハンブル殿下で御座います!」
マンセルは俺をキッと睨む。
言葉ではマンセルを敬う様の敬語を使っていても、身体をロープにグルグル巻きにし、口には猿ぐつわまで噛まされた当人である俺が、マンセルを敬う気持ちなんてこれっぽっちもない事は、マンセルにはバレバレである。
「よくやってくれた英雄殿よ!皆に変わってお礼を言わせて頂きます。
誠に有難う御座います!」
ルザク伯爵が俺に頭を下げて来る。
「あ・頭を上げて下さい伯爵様!」
貴族様に頭を下げられるなんて、こそばゆくて変な感じだよ。
「伯爵様、奴らの物資も燃やしてくれたと言いますし、ここは一気に・・・」
「ダメだ、爺!これで停戦協定を進めるんだ」
「伯爵様何を仰せで?ここで奴らを一気に叩き伏せるチャンスなのですぞ!」
「それは分かっている!しかし、それを行えば少なからずも犠牲者は出る。
私はもう多くの者に血を流させたくはないのだ・・・もうこれ以上」
伯爵様の言う通り!
犠牲者を出してはいけないんだ。
俺はそのために危険だと分かっていても拉致作戦をしたのだから。
「まだ前回の事を引きずっていらっしゃるのですか伯爵様?」
前回の事?
まさか伯爵様は、父さんが参加していた戦の事を言っているのでは?
「そうだ!私の決断一つで又多くの者を死なせてしまうのが怖いのだ。
前回の作戦で私は大きなミスを犯してしまった。
それによって5000もの多くの兵を死なせてしまった・・・」
「伯爵様・・・」
やはり、そうであったか。
伯爵様は今でもあの事を悔いているんだな。
俺は父さんの事で伯爵様の事を快く思っていなかったけど、伯爵様の気持ちを知ってしまうと伯爵様を恨む気持ちが少し和らいだ気がする。
この人もきっと戦争の犠牲者の一人なんだと思ってしまったんだ。
「兄上、それを言っても詮無き事!ここは前回の汚名挽回を・・・」
「デュック、戦の怖さを知らぬヒヨッコが大きな口を叩くな!」
「伯爵様!」
「兄上!」
伯爵はデュックさんの奮起させようとする言葉に一喝する。
「デュックよ、人の命に係わる事を『詮無き事』で片づけてはいけない。
ましてやお前はこれから英雄になろうと云う者だ。
人を引っ張って行く者が人の命を軽々しく考えるな!」
「申し訳ありません兄上!」
「分かれば宜しい!」
うん、俺はこの人の事が気に入った。
人の命を大切に思う事が出来るこの人は信じるに足る人だよ。
「英雄殿、お見苦しいところをお見せしてしまって大変申し訳ない!」
「いいえ、私は伯爵様のお言葉に感銘を受けました!
私も伯爵様と同様に何よりも人の命が大事だと思います。
そのために、これ以上犠牲者を出さないために、私達は無茶をしてまでマンセル殿下を攫って来たのですから」
「英雄殿・・・」
「伯爵様、どうか早く戦争を止めて下さい!これ以上、人の血を流させないために」
「分かった!私に任せて頂きたい。英雄殿の期待に応えられる様に努力致しましょう」
伯爵と俺は涙を流しながら両手を握り合う。
俺達の熱い思いは一緒の様だ。
ただ、周りが若干引き気味だったのがどうにも解せぬ・・・
それからの伯爵様の動きは電光石火の如く速かった。
すぐにナの軍に停戦協定の使者を送ったのだ。
使者はナの軍の使者を連れて戻って来た。
マンセル・ナ・ハンブル殿下を確認するためである。
使者と対面したマンセル殿下はバツの悪そうな顔をしていた。
マンセルの確認が終えると、ナの使者と伯爵との間で停戦の話し合いが始まった。
俺達はこの話し合いには参加しなかったが、後から聞いた話だけど、ナの使者は伯爵様に良い様にやり込められたらしい。
物資は焼かれて戦線維持は出来ないだろうし、人質まで取られてしまっているんだから仕方がないよね。
その使者がちょっと気の毒でならないな。
日が暮れる前には停戦協定が定まり、ルザク伯爵により協定の内容が表明された。
・ナの軍は即刻リの領内から撤退。
・3年による不可侵条約。
・リの国への多額な賠償金。
・マンセル殿下の3年の留学。
と云うこちらが圧倒的に有利な内容であった。
これにより、リアース歴3237年3の月1日朝9時に開戦した第6次ルザク戦役は、僅か半日で終わりを告げたのである。
この戦争はルークの活躍によって類を見ないほど短時間で終結した。
前回の第5次ルザク戦役が1週間で終結した時も世間では大きな驚きであったが、更にそれの上を行く短時間終結には皆が度肝を抜かれた。
それだけインパクトな出来事だったのである。
この戦争を短時間で終わらせたルークの名は、本人の意思とは逆により一層有名になって行くのである・・・
次回『第124話:盾の継承』をお楽しみに~^^ノ
4章も後数話で終わりです^^