第122話:第6次ルザク戦役2
リアース歴3237年 3の月1日1時。
「奴らを絶対に捕まえろ~!」
「マンセル様を取り戻せ~!」
「クソっ!こっちは土壁で前を遮られた!」
「俺達に任せろ~!」
「逃がすな~!」
2頭のゴーレム馬をナの軍が追いかけている。
俺達はナの兵士から必死で逃げている最中なのだ。
逃走を開始してすでに2時間近くが経過している。
後方部隊の追撃を一度は振り切った俺達であったが、別の部隊(左翼部隊)に見つかり、予想していた逃走ルートよりも遥かに大回りに迂回して逃走していた。
ルザクまでは目と鼻の距離なのだが近くてとても遠い。
度重なる術の行使に魔力がすり減り、マジックポーションを使って魔力を補いつつも、流石に限界が見えて来た。
俺もアイシャもすでにヘトヘトの状態である。
「鉄壁殿、正面からも新手が来たぞ。ど・どうするんだ?」
前から新手でだって?
これ以上はこっちの身が持たないよ。
クソ~、これまでか!
俺の見立ては甘かったか。
アイシャ、イナリ、リン、フィンさん達ゴメンよ。
俺は先頭を走っているフィンさん達の方に振り返る。
確かに前方から騎馬兵がやって来ている。
統率の取れた見事な騎馬隊だな。
あれ?あっ、あれは!
真っ赤な鎧で統一された集団。
朱雀騎士団!
朱雀騎士団騎馬隊が助けに来たのだ。
その雄姿は、前世で見た時代劇の赤備えの武田騎馬隊みたいでカッコいいや。
「貴方、あれは!」
「あぁ、その通りだよアイシャ!」
「フィンさん、あれは味方です!」
「味方?」
「そうです!ルザクの朱雀騎士団の騎馬隊です。
俺達を助けに来てくれたんですよ」
「俺達を助けに・・・」
赤を基調とした朱雀騎士団は炎の加護持ちが多い。
攻撃力で言えば、玄武・聖龍・朱雀・氷虎4騎士団の中では最強であると言われており、彼等から繰り出される炎の術はナの軍では恐れられているのだ。
「朱雀騎士団が出て来たぞ!」
「炎の術に注意するんだぁ!」
「水の加護持ちは前へ出ろ~!」
「た・盾を構えろ~!」
俺達を追って来るナの兵士達の勢いが僅かに弱まる。
さては朱雀騎士団を恐れているな。
もう少しの辛抱だ!
もう少し辛抱すれば逃げ切れる。
「英雄殿をお助けしろ~!」
「「「「おぉ!」」」」
前方から来る朱雀騎馬隊から威勢のいい声が上がる。
本当に俺達を助けに来てくれたんだな。
有難や有難や!
「英雄殿~!」
ん?聞き覚えのある声だぞ。
あっ、あれはアインさんだ。
アインさんまで助けに来てくれたんだ。
ウゥゥ、涙が出そうだよ!
間もなくして朱雀騎士団との合流がなった。
俺達と合流をした朱雀騎馬隊は踵を返し、俺達と共にルザクに向かう。
ナの兵士達はもう追っては来ていない。
俺達が乗る馬型鉄人君1号にアインさんの乗る馬が並走して来た。
「英雄殿、ご無事で何よりです!」
「アインさん、助けに来てくれて有難う!」
「な~に、当たり前の事をしただけですよ!
我々は彼方に多大なる借りがあるのですから」
「多大なる借りって・・・」
「それにしても、どうしてこんな無茶をしたんですか?
望遠鏡とやらで彼方達を見た時は心臓が縮む思いでしたよ」
すでに望遠鏡が配備されていたのかぁ。
こりゃあ、ズラビスとトンカラに助けられたな。
今度、一杯おごって上げなくちゃな。
「あぁ、そりゃあ大変申し訳ない事をしました。
実はちょっとしたお土産を取りに行っていまして・・・」
「お土産?」
「えぇ、戦争が止められるかもしれない飛んでもないお土産です!」
「戦争を止められるお土産?」
俺はニヤニヤしながら、前を走る2号の腰の上の荷物を見る。
それはロープでグルグル巻きにされた哀れな姿をした人物。
マンセル・ナ・ハンブルその人である。
俺の視線を追う様にアインさんがマンセルを見る。
「英雄殿、いったいあれは何方なのですか?」
「マンセル・ナ・ハンブル!ナの国のハンブル大公のご子息だよ」
「な・なんですって?」
アインさんが大きな声を上げて驚く。
まぁ、驚くのも無理はないか。
ナの国の王位継承権を持つ人物だからな。
「その様な御仁をいったいどうやって?」
「見つけたのは偶然さ。拉致をした方法は・・・まぁ、企業秘密と云う事で!」
「そ・そんな~!」
「ハハハハハっ!それよりもルザクへ到着次第、伯爵に合わせて頂けますか?」
「勿論です!お任せください」
一時はどうなるかと思ったが、俺達は何とか無事にルザクまで辿り着くことが出来た。
この拉致作戦の成功により、戦は一気に動こうとする・・・
次回『第123話:第6次ルザク戦役3』をお楽しみに~^^ノ