第121話:第6次ルザク戦役1
4章もいよいよ終盤に入って来ましたよ~^^
リアース歴3237年 2の月30日8時過ぎ。
ルーク達が拉致作戦を決行する前日に話は少し遡る。
朱雀騎士団と思われる赤い鎧を着た男と年老いて見えるドワーフの2人組が慌ただしく城塞都市ルザクに辿り着いた。
「私の名はアイン!朱雀騎士団第3中隊に所属する者だ。
大至急、伯爵様にお知らせしなければならない事がある。
時間がないんだ!至急、伯爵様に合わせて頂きたい」
朝早くに着いた彼は、夜通し馬車を走らせて来たのであろう。
目には隈が出来ており、疲れ具合も相当であると一目で分かる。
門番達は、これはかなりの事なのであろうと判断し、急ぎルザク伯爵の所まで使者を走らせる。
伯爵の所へ使者を走らせて30分後。
「何!それは本当か?」
城塞都市ルザクの執務室で大きな声を上げた人物は現ルザク伯爵。
藍髪に青目でそれなりに整った美形であり、歳は30代前半。
武人にはあまり見えず、どちらかと言えば、文官と云うイメージの方がしっくり来る。
「本当で御座います伯爵様!
偵察隊の可能性もありますが、ナの兵士はすでに我が領内まで侵入しております。
私はあのエターナの英雄の助けもあり、今こうやって何とか帰還する事が出来ました」
「あのエターナの奇跡の英雄殿に?」
「そうで御座います伯爵様!」
「アインよ、お前は確か父上の命令でマナの洞窟に行っていたはずだな?」
マナの洞窟の話を振って来たのは英雄の卵デュック・ルザク。
伯爵と同じで藍髪の青目であり、エルフの血が混じっているために超美形。
伯爵の腹違いの弟だけあってそれとなく兄に似ている。
「そうで御座いますデュック様!私の小隊はご老公様の命でレントラ様と共にミスリル鉱石発掘のためにマナの洞窟に行っておりました。
しかし、洞窟でゴーレムに襲われ私以外の隊員は全員やられました。
私も重傷をおったのですが、そこに英雄殿が現れゴーレムを倒し、私とレントラ様を助けて下さいました。
その後、無事にミスリルの発掘を終え、英雄殿と共にこちらに向かっていたのですが、途中にナの兵士を発見し、私達に先に行けと言って英雄殿はその場に残られたのです」
「それが事実ならば、我々は英雄殿に大きな借りを作ってしまった様だな」
「その通りですね兄上!」
「爺よ、直ちに朱雀騎士団全員を招集し、戦の準備を急がせろ。
近隣の貴族達にも連絡を送り、至急援軍を頼むのだ!」
「直ちに!」
爺と呼ばれた男は朱雀騎士団団長ノリン・ターラム子爵である。
彼は古くから名将エルリックの片腕としてルザクを支えて来た人物だ。
真っ赤に燃える髪に茶目で、顔に幾つもの傷を持ち凄みがある。
齢60を越えるも現ルザク伯爵を補佐すべく老体に鞭を打って仕えているのだ。
「アインよ、大儀であった!お前は少し休むと良い」
「有難う御座います伯爵様!」
アインの必死な強行軍のより、ルザクはナの国から強襲される事態だけは何とか免れた。
伯爵はナの国が侵攻して来る事は、いろいろな情報筋からある程度予想はしており、それなりに準備は進めていたが、ここまで早いとは思っていなかった。
アインの功績はかなり大きなものとなったのである。
ナの国の侵攻を知ったルザクは早急に表門・裏門を封鎖した。
敵の間者の侵入を防ぐためである。
現在戦える兵の数は、朱雀騎士団と南部方面守備隊、傭兵を合わせて7000程度。
首都ザーンや近隣の兵1万が駆けつけて来るまではかなり時間が掛かるので、当面はこの7000で戦わなければならない。
城壁の上に弓兵を多数配備し、歩兵は城外に隠れる。
騎馬隊は何時でも出られるように正門の裏で待機した。
これらの事を1日で準備し終えたノインの腕は流石と言えよう。
そうして、翌日の朝になってようやくナの国の兵士達の姿が現れた。
兵の数は1万5000。
前回の第5次ルザク戦役と同等の数である。
地球では『攻者3倍の原則』と云うのがある。
城を攻める場合には、敵の3倍の兵力が必要であり、逆に敵の3分の1の兵力で守りを固めれば、攻める敵と五分五分の戦いが出来ると云う意味だ。
今回の戦は守るルザクの兵は7000、攻めるナの兵は1万5000。
攻者3倍の原則に当てはめるならば、守るルザクの方が有利と言えよう。
リアース歴3237年 3の月1日朝10時。
空はどよんとした雲に覆われ、今にも雨が降って来そうな感じである。
ナの軍はルザクの正門から500mの所に布陣し、そこから宣戦布告をする。
第6時ルザク戦役の開戦である。
宣戦布告をして30分後、ナの軍はルザク正門の200mまで詰め寄る。
戦闘の火蓋は、ルザク城壁から放たれた1本の矢であった。
傭兵として参加していた者が、功を焦って放ってしまったのだ。
これによってナの軍から矢の一斉反撃が始まった。
「バカめ、功を焦り追って!」
ノリンは苦虫を噛む。
本来であればもう少し引き寄せてから一斉攻撃する予定であったのだ。
「爺、どうする?」
ノリンの横で不安そうにしている伯爵。
「こうなっては仕方がありませんな。こちらも一斉攻撃で応戦します。矢を放て~!」
両軍、しばらくは弓での応酬となった。
しかし、200mも離れた位置からでは中々当たるはずもなく、両軍共に怪我人は極僅かであった。
数十分撃ち合った後、ナの軍は一度1kmほど引いた。
そこからしばらく長い睨み合いが続く。
業を煮やしたナの軍は、城壁用の登り梯子を用意し、突撃の準備を備えた。
そして、突撃を開始しようとしたその時にとある事態が起こる。
左翼の後方で待機していたマンセル・ナ・ハンブルが何者かに拉致されたと云う情報と物資が燃やされたと云う報告が入ったのだ。
12時過ぎ。
「何か変だ!敵軍が何だか浮足立って見える。
ん!後方で煙が上がっているではないか。至急、閣下に報告を!」
ルザク内の監視塔で物見をしていた一兵士がある異変に気付く。
兵士はその事を上司に告げ、伯爵に変わって防衛指揮を務める朱雀騎士団団長のノリンが急ぎ物見塔までやって来た。
「何が起こっているのだ?」
「ハッキリと分かりません!後方で煙が見え、敵軍の左翼が何やら乱れが生じている様です」
「煙と乱れだと?」
「閣下、これで直にご覧下さい!」
兵士はノリンに望遠鏡を渡す。
ノリンは望遠鏡を覗き戦場を見渡す。
先日、何者かによって新たに開発されたと云う望遠鏡。
試作品として配備されたばかりであった。
何を隠そう、実はルークがトンカラに話して作らせた物であった。
これをズラビスが朱雀騎士団に上手く売り込んだのである。
後方で確かに何かが燃えている煙が見える。
そして敵の左翼が慌ただしく動いているのが目に入る。
「あれは物資か何かが燃えているのではないか?
ん~、左翼での兵の動きが確かに妙だな。何かを追いかけている様な・・・ん!あれは?」
「閣下どうなされたのですか?」
「まさか・・・嫌・・・大至急、第3中隊のアインをここに呼んでくれ」
「ハ・ハイ!」
正門で騎馬隊として待機していたアインはすぐにやって来る。
「閣下、何用で御座いますか?」
「アインよ、済まないがこの望遠鏡とやらで敵軍の左翼を見てくれ」
「ハ・ハイ!」
アインは訳が分からぬまま言われた通りに望遠鏡を覗き込む。
「何者かを追っている様に見えないか?」
「何者かをですか?え~と、少しお待ちください!」
アインは望遠鏡を覗きながら、敵軍の左翼が居る戦場一体をくまなく見る。
そこで何やら2頭の馬が駆けているのが目に映る。
「馬?嫌、ゴーレム馬か?・・・ゴーレム馬!まさか?」
そこには必死で逃げるルーク達の姿が映っていたのであった・・・
次回『第122話:第6次ルザク戦役2をお楽しみに~^^ノ