第119話:戦争孤児
リアース歴3237年 3の月1日10時過ぎ。
フィンさん達と合流してから5日が経った。
湿地帯を抜けて草原地帯に入り、城塞都市ルザクまではもうすぐの距離までやって来ている。
先に行ったアインさん達はもう着いているであろうか?
ナの国の兵士がうろついている事を無事に伝えて欲しい。
そんな事を考えているとイナリの鼻や耳が動き出す。
「イナリどうした」」
「キュキュキュ!」
(この先に大勢の人が居る!)
「この先に大勢の人が居るとおっしゃっています」
「分かった!フィンさん止まるよ~」
俺は後ろを振り向き、馬型鉄人君2号に乗って後を着いて来ているフィンさん達に声を掛ける。
「鉄壁殿、どうなされた?」
1号の横に2号を止め、フィンさんが俺に聞いて来る。
この5日間でフィンさん達3人は俺を鉄壁殿と呼ぶ様になった。
リンが俺の事をいろいろと話したからだ。
「どうやら、この先に大勢の人が居る様なんだ。
味方だったら良いんだけど、ナの国の兵士だったら不味いからね」
「確かに!」
「主様、私とイナリ殿で偵察に行って参ります」
「済まないリン!」
「鉄壁殿、私達も行って来て構わんか?」
「えっ、別に構いませんけど」
「有難う!ノイン、ノエル、私達も偵察に出るぞ」
「「ハイ、フィン様!」」
ダークエルフ4人とイナリは鉄人君から降りて、道の脇の草原に身を隠して進んで行った。
その場にポツンと残された俺とアイシャと1号2号。
久しぶりの2人切りだし、皆が戻るまで少しいちゃつく・・・訳には行きませんよね。
俺は地図を広げて現在の位置を確認する。
早ければ今日中にルザクに着くまでの所には来ている様だ。
イナリが言っていた大勢が味方であれば問題ないけど、もし敵か何かだったとしたら・・・
もしかして、もう戦争が始まってしまっているのであろうか?
俺の頭の中に不安がよぎる。
危険な様であれば北へ迂回して進んだ方が良さそうだな。
この辺は草原地帯だから、道を外れたとしても差ほど問題はないであろう。
20分ほどするとリン達が戻って来た。
「只今戻りました!」
「お疲れ!してどうだった?」
「ナの兵士で間違いなさそうですね。近くに居た数はザっと見て100人くらいです。
ただし、先行している部隊も居る様で、その数までは把握出来ませんでした」
「そっか!ナの兵士だったか。もしかして戦争が始まっている雰囲気だった?」
「ハッキリとは分かりませんがその可能性は高いと思われます。
何やら沢山の荷物を守っている様でしたので」
「ん~嫌な事ばかり的中するな~。」
俺は地図ともう1回睨めっこをする。
「どうやら偉い人が居る様だったぞ?」
地図を見ている俺にフィンさんが話し掛けて来る。
「偉い人?」
「あぁ、『大公の後を継ぐ私がどうしてこんな所に~』なんて言っていたからな」
「大公の跡継ぎか・・・」
「ちなみに大公とはどれほど偉いのだ?人族の地位の事はさっぱり分からんのでなぁ」
「たぶん、王族の血筋に当たる者かと思います」
「王族だと?」
「えぇ、大公とは王位を継げなかった者の中の家長を示す意味だったはずです。
その方は王族の血を引いていますので、一応、王位継承権もあると思いますよ」
「そこまで偉い者だったのか・・・」
「数は100人程度なんですよね?」
「あぁ、そうだ!そうなると、あれは偉い人の護衛か何かなのだろうな」
「100か・・・先行している部隊との距離はどれ位か分かりますかね?」
「300m程度と云ったところかな」
「300か、以外と離れているな・・・」
俺はしばし考え込む。
「リンはフィンさん達を連れて、北へ迂回しながらルザクに行ってくれ」
「え!主様と奥様はどうなさなるのですか?」
「俺はそのお偉いさんとやらを拉致しに行く。
本当は一人で行きたいところだけど、アイシャがそれを許さないだろうし2人で行くさ。
あっ、相棒のイナリも一緒にね!」
「キュ!」
(勿論!)
「だったら私もお供いたします!」
「危険だよ!」
「危険なら尚更です!私は主様と奥様の仲間じゃないですか」
「気持ちは嬉しいけど、せっかくお兄さん達に会えたんだからさ」
「いえ、絶対に着いて行きます!」
「そうか分かった!だったらフィンさん達だけでも・・・」
「俺達も一緒に行ってやる!」
俺が言い終える前にフィンさんが口を挟む。
「え?」
「俺達は鉄壁殿に助けられた身だ。その恩返しと思ってくれれば良い」
「でも・・・」
「それに妹を放っておいて逃げる訳にもいかないだろ?」
「確かにそうですね!有難う御座います」
「ただ、どうしてそこまでの危険を冒してまで行くのかだけは教えて貰って良いか?」
「あっ、ハイ!そのお偉いさんを拉致してルザクまで連れ帰れば、もしかしたら戦争を止められるもしれないと思ったんですよ」
「戦争を止めるだって?」
「ハイ!王位継承権を持つ者が人質だったら、それが出来る可能性があるからです。
戦争を止める絶好のチャンスが今目の前にあるんですよ」
「なるほど!だけど、どうしてそこまで?」
「俺は戦争孤児なんですよ!」
「え!戦争孤児?」
「そうです!俺の父は第5時ルザク戦役に参加して亡くなりました。
身内が亡くなるほど辛いものはありませんよ・・・
俺の知り合いのお婆さんも戦争で大切な一人息子を亡くして辛いと言っていましたよ。
戦争が続けば多くの人が死んで行きます。
そうなれば俺の様に悲しむ者が増えるんです。
偽善だとは分かっているんです!
だけど俺は・・・それを止めたい!」
「貴方・・・」
「妻を危険な目に合わせてしまうかもしれないのは分かってはいるんです。
俺は妻が一番大事だ。妻さえ居てくれたら本当は他人なんかどうでも良い。
だけど・・・頭では分かっているんだけど・・・」
「分かった!もうそれ以上は言わなくて良い。
鉄壁殿の気持ちは十分に分かった」
「何だか取り乱してしまってスイマセン!」
「謝る事はないさ!鉄壁殿、絶対に成功させよう。悲しむ者をこれ以上増やさないために」
「有難う!」
こうして俺達は戦争を止めるために危険な拉致作戦を行う事になったのであった・・・
次回『第120話:拉致』をお楽しみに~^^ノ