第11話:初戦闘
このリアースには沢山の種類の魔物がいる。
地球の物語にも出て来るゴブリンやオークも実在している。
ゴブリンとは、身体が緑色で邪悪な小人と云われている。
魔物ランクは低いが、知能は割と高く、非力で集団で行動することが多い。
人間の女性を攫っては犯して繁殖する。
人間にとっては、天敵とも言える魔物である・・・
「ギギギギギ!」
「ギギギ!」
「いや~!離して!」
「アン姉さん怖いよ~!」
俺の視界に入って来たのは、俺と同じ背丈130cmくらいの2体のゴブリンが、アン姉さんを両脇から抱えて連れて行こうとしていた。
俺から見て、左側に錆びた鉄の様な剣を持ったゴブリン。
真ん中にアン姉さん。
右側にこん棒を持ったゴブリン。
ゴブリン達は俺を見つけると、俺を睨み剣やこん棒を突き出して威嚇して来た。
「グルルル!」「ギギギ!」
殺意だ!
あれは殺意の目だ!
俺は急に怖くて足が竦んでしまった。
(こ・怖ぇ~!)
俺って情けねぇ。
その時、イナリが左のゴブリンの死角となる位置からゴブリンの左耳に噛みついた。
草原に隠れて大きく迂回していた様だ。
「ギギっ!?」
慌てたゴブリンは剣でイナリを追い払おうとする。
イナリは素早く離れて、顔目がけて狐火を繰り出した。
「グアアー!」
狐火を食らったゴブリンが剣を放り出し、悲鳴を上げて転げ回った。
右側に居たゴブリンが慌てて加勢しようとする。
イナリはチョロチョロと逃げ回る。
ハっ!
俺は何で見ている!
何で動かない!
アン姉さんが危ない!
イナリがピンチだ!
ジークが震えている!
俺はこんな時のためにいろいろ鍛錬して来たのではないのか?
「クッソー!土なる力を我に与え給え!新しき従者!出でよ!『ゴーーレム!』」
身長160cmくらいのゴーレムが大地から沸き上がった。
今は魔石がない。
長い時間の制御は出来ない。
短期勝負だ。
「鉄人君はこん棒を持ったゴブリンを抑えよ!
イナリはこん棒を持ったゴブリンにもう一度狐火を!
アン姉さんは離れて!」
「キュ!」
イナリが返事をした。
鉄人君はすでに行動に移って動き出している。
アン姉さんは黙って頷いていた。
俺は駆け出した。
落ちている錆びた鉄の剣を拾うために。
腰が抜けたアン姉さんは地を這う様にして距離を取る。
最初に狐火を食らったゴブリンは、顔を抑えまだ転げ回っている。
火傷で痛いのだろう。
鉄人君がこん棒を持ったゴブリンに背後から近寄る。
イナリを相手にしていたゴブリンは、鉄人君の気配を感じて振り返る。
そこで鉄人君は大きく右手を振り上げ拳を突き出す。
ゴブリンは右に避けようとする。
拳がゴブリンの左肩をかすめた。
ゴブリンがよろけた。
そこでイナリが大きく飛び跳ねて、ゴブリンに狐火を繰り出した。
「グアアー!」
狐火が直撃した。
ゴブリンが顔を抑えてあたふたしている。
(よし!いいぞ)
俺はその隙に落ちた錆びた鉄の剣を拾った。
最初に狐火を食らって転げまわっているゴブリンに走って近づく。
大丈夫だ!俺が近づいている事に気づいていない。
心臓がバフバフしている。
口から飛び出しそうだぜ。
「コ・コノヤロー!」
剣を逆さにして両手でしっかりと持ち、大きく振り上げた。
手がガタガタ震えているのが自分でもわかる。
剣先をゴブリンの身体の中心に振り下ろす。
これなら手が震えていても外す事はないだろ。
ズブっ!
手に嫌な感覚が伝わった。
ゴブリンが暴れた。
俺は慌てて何度も何度も突き刺した。
「グアアアアアー!」
ゴブリンから大量の青い血が流れ出した。
急にゴブリンの動きが止まる。
コイツはこれで良い!
俺はもう1体のゴブリンへ振り返った。
顔を抑えてあたふたしていたゴブリンは、鉄人君に背後から押さえつけられていた。
イナリは少し離れた所で様子を見ている。
「次はテメェだー!」
俺は剣を普通に持ち直し、両手で剣を相手に突き出しながら走り出した。
鉄人君がしっかりとゴブリンを抑えている。
今回も身体の中心目がけて剣を突き出す。
全体重をかけて体当たりする様に。
ズブっ!
剣が深く突き刺さった。
ゴブリンの身体を通り抜けて鉄人君に若干剣先が当たっている。
「グアアアアー!」
青い血が噴き出す。
血が俺の身体にも掛かる
ガクっとゴブリンの力が抜ける。
目の焦点が合っていない様だ。
(もうすぐこいつは死ぬ!)
俺はそう感じた
俺は剣を握ったまま、最初に剣を刺したゴブリンに振り向いた。
(こいつはもう死んでいるな!)
今度は俺の力が抜けた。
剣から手を放し、その場に座り込んでしまった。
まだ手が震えている。
息が荒い。
疲れた・・・
俺が座り込むと鉄人君が砂の様なサラサラと崩れ出し、砂の山になった。
抑えられていたゴブリンはドサっと静かに倒れた。
もう息はしていないようである。
「フーっ!」
俺は大きなため息をついた。
イナリが俺の左肩に駆けあがって来て、俺の頬を舐めてくれた。
「お前もお疲れ様!」
「キュ!」
イナリはそう返事をした。
イナリのモフモフが土や血で汚れている。
「綺麗な毛並みが台無しだな。帰ったら洗ってブラッシングしてやるからな」
「キュ~!」
イナリは鳴いて、また頬を舐め始めた。
「ル・ルーク!大丈夫なの?」
「ルーク兄ちゃん!ルーク兄ちゃん!」
アン姉さんとジークが泣きながら声を掛けてくれた。
2人ともまだ腰が抜けている様だ。
俺もそうか・・・
2人が無事だと分かった。
俺の意識は急速に薄れて行くのであった。
これが、俺の初戦闘であった・・・
戦闘シーンって難しい・・・