第115話:衝撃の一言
リアース歴3237年 2の月19日16時。
ミスリルゴーレムとの死闘に勝ち、マナの洞窟の最下層で一息を入れている俺達であった。
「良くぞ、あのゴーレムを倒してくれた!感謝するぞ若いの」
ドワーフのおっさんが騎士の肩を抱きながら俺達に近寄って来る。
「おっさんもアドバイス有難う!あのお陰で何とか倒せたよ」
「そう言って貰えると嬉しいが、お主凄いのう!」
「そりゃあ、私の旦那様はあのエターナの小さな英雄ですからね!」
「「え!」」
ドワーフのおっさんと騎士が驚いて目がまん丸になっちゃった。
アイシャの衝撃の一言で、そりゃ驚くわな。
「もう、アイシャは余計な事言わないの!」
「別に良いじゃない!こっちは巻き込まれた上に危うく死にかけたんだからさ。
お礼の金一封があっても良いくらいよ!」
「いやいやいや、それこそ言わなくても・・・」
俺とアイシャのやり取りを見ていたドワーフのおっさと騎士は更に目を丸くする。
金一封の要求だなんて、アイシャががめつい主婦に見えるわ~。
「まさか英雄殿だったとはのう!これは又驚きじゃわい」
「もう、止めて下さい!そう言われるのは恥ずかしんですよ」
「ガハハハハ!まぁ良いじゃねぇか。なぁ、奥さん」
「そうね!いい加減慣れて貰わないとね!」」
「もう、アイシャは~!」
「英雄殿!助けて頂き誠に有難う御座いました」
話すタイミングを伺っていた騎士がようやく会話に参加して来た。
ドワーフのおっさんやアイシャに気後れしていたもんねぇ。
「あぁ、気にしないで下さい!」
「いえ、そう云う訳にも行きません!
彼方のお陰で私は命を救われ、任務も果たすことが出来たんですから」
「任務?そう言えば、朱雀騎士団の人がワザワザこんな洞窟までどうしてやって来たんですか?」
「英雄殿よ、それはこちらのセリフじゃのう!お前さん達こそどうしてこの洞窟に来たんじゃ?」
俺と騎士の話にドワーフのおっさんが入り込む。
「レントラ様、英雄殿に失礼ですよ!」
「まぁ、良いではないかアインよ!」
ドワーフのおっさんの名がレントラさんで、騎士の名がアインさんか。
ワザワザ紹介して頂いて有難ね。
「いいえ、行けません!質問に質問で返すのはダメですよ。
それにこちらは助けて頂いた側です。
まず、きちんとこちら側から説明するのが筋ってもんでしょう」
「お前は相変わらず堅物じゃのう!」
「褒め言葉として取らせて頂きます!」
「勝手にせい!」
「スイマセン英雄殿!」
「いえ、全然!」
見ていて結構楽しかったよ。
「私達はルザクのご老公の依頼でこの洞窟に来たんですよ」
「ルザクのご老公って、名将エルリック様?」
「その通りです!
ご老公の次男のデュック様が今年から我が朱雀騎士団に入られた事はご存じで御座いますか?」
「あぁ、知っている!英雄の卵デュック様の事ですよね?」
「その通りです!
実は、ご老公様がデュック様に入隊のプレゼントとして新しい剣を差し上げると言い出しましてね。
我々はその剣の素材となる極上のミスリル鉱石を取りにこの洞窟に来たんですよ」
「なるほどね!新しい剣か・・・ハっ、そうだ俺の太刀!」
俺はここで重要な事を思い出す。
俺の太刀は折れたんだったー!
「安心せい英雄殿!ワシがミスリル鉱でその太刀を鍛え直してやる」
「え!レントラさんが?」
「あぁ、ワシはこれでもご老公の昔馴染みのお抱え鍛冶屋だ。
今回もデュック様の剣をワシがこしらえると云う事で同行しておったんじゃよ。
腕には自信があるから安心しろ!」
「助かるよレントラさん!」
「任せておけって!」
ふぅ~良かった!
それにしても、これって棚から牡丹餅だよね?
師匠から頂いた大事な太刀がミスリル鉱でパワーアップする事になるとは、逆に言えば折れてラッキーだったと・・・
「我々が来た理由は以上で御座います!」
「分かりました!次は俺の番ですね」
「申し訳ありませんが・・・」
「あぁ、俺は別に構いませんけどね。俺達は遺跡を調べに来たんですよ」
「遺跡じゃと?」
レントラさんの顔が曇る。
あっ!この人何か知っている。
顔にそう書いてあるわ。
「えぇ、その通りです!」
「何で又遺跡を?」
「ん~、それは言えませんねぇ。
レントラさんは遺跡の事を何か知っている様ですけど、教えてくれたら話しても良いですよ」
「ちっ!俺の顔を読んだか。食えねぇ奴じゃのう・・・まぁ、良いか」
「エへへへへ!」
「この洞窟は昔ドワーフの隠れ里じゃったんだよ!」
「「ドワーフの隠れ里?」」
俺とアイシャは同時に声を上げる。
「そうじゃ!ワシの先祖達はここでミスリル鉱石を発掘して武具をこしらえていたそうじゃ・・・」
「レントラさんはその子孫だと?」
「そうじゃ!何代も前の話だが、ナの国の奴らが奴隷狩りにこのマナの洞窟にやって来たらしくて、それで一族は離散したらしいとか聞いている」
「ドワーフもナの国に狙われていたんですね・・・」
今まで黙っていたリンが口を挟む。
そう言えば、リンの一族もナの国に追われて逃げ続けていたんだっけ。
「ダークエルフの嬢ちゃんか。ナの国は昔からやりたい放題だ。
お互いに被害を被ったの・・・」
「ですね・・・」
ここはドワーフの隠れ里だったのか。
クソ、当てが外れてか!
地球との何かの手掛かりになるかと思っていたのに。
「貴方・・・」
アイシャは、悔しさで手を目一杯握っている俺の手を両手で優しく包み込む。
分かっているさ!
まだこれからだって言いたいんだよね。
慰めてくれて有難う。
「ワシが話せるのはここまでじゃ。ほれ、そちらさんの遺跡を調べる理由とやらを話せ」
ちっ!そうだった。
レントラさんが話してくれたらこっちも話すっていったんだっけ。
「大した理由じゃないですけど、この世界の成り立ちと云うか理と云うか、ん~説明するのが難しいなぁ。兎に角、このリアース世界の事についていろいろと調べたいんですよ」
「お前もか・・・」
ボソッと聞こえない様に言ったレントラさんの言葉を俺は聞き逃さなかった。
「今、お前もかって言いましたよねレントラさん!それはどういう意味です?」
しまったと云う顔をするレントラさん。
彼方、本当に顔に出ますね。
言葉にしなくて分かるので助かります。
レントラさんはしばらく悩んだ末、口を開く。
「地球!」
「「え!」」
地球と云う言葉に俺とアイシャは反応する。
「英雄殿だけでなく、奥さんまで反応しよったか」
レントラさんは俺達夫婦の顔をマジマジと見つめる。
「お前さん達は前世の記憶があるのか?」
衝撃の一言がレントラさんの口から飛び出した。
「「前世の記憶?」」
俺達夫婦以外のリンとアインさんが疑問の声を上げる。
ここはリンとアインさんを無視して話を進めた方が良さそうだな。
「レントラさん、彼方もまさか?」
「嫌、残念ながら俺は違うよ!」
「だったらどうして地球や前世の記憶と云う言葉を?」
「ある御仁が言っていたからさ!」
「ある御仁?」
「あぁ、ルザクのご老公様さ!」
「「え!」」
名将エルリックが前世の記憶を持っている言っているのか?
予想もしていなかった衝撃な一言で俺は軽いパニックに陥っていた・・・
次回『第116話:金の亡者』をお楽しみに~^^ノ