第111話:英雄の卵
リアース歴3237年 1の月12日22時過ぎ。
旅の途中で寄ったオドの村。
俺とズラビスとトンカラはボウガンの試し撃ちをした後、たわい無い話をしていた。
「お金の内緒事を話したついでに本当の事をもう一つ言わせて頂くと、私とトンカラはもう随分前から聖獣殿を狙う気は全くないんですよ」
「え!」
「鉄壁殿のお力をまざまざと見せつけられましたからねぇ。
これ以上鉄壁殿に向かって行って、本当に怒らせたら自殺行為ですし」
「でげすな!」
「だったらどうしてここまで追い掛けて来たんだ?」
「実は、ラドの町辺りから目的が城塞都市ルザクに行く事に変わったんですよ。
この事は、お嬢は知りませんけどね」
「ルザクに?」
「えぇ、私が仕入れた情報によると、どうやらナの国が又きな臭くなって来ましてねぇ。
近々、ルザクに攻め込んで来るのではないかと踏んでいるんですよ」
「又、戦争になるのか?」
「私はそう思っています!ですからルザクで一商売しようとトンカラと話し合ったんですよ」
「戦争で一商売って・・・まさか!」
「あっ!火事場泥棒とかじゃないですからね。
トンカラの武具修理や私の情報で商売出来ないかと思いましてね」
「あぁ、なるほどね!ビックリした」
「アハハハハ!これは驚かせて申し訳ない。
でも、お嬢にこの事を話せばそう言うかもしれませんねぇ?」
「でげすな!」
「オイオイ、止めてくれよ~!」
「分かっていますよ!」
「でも、お前達はどうしてそこまであのダリアに尽くすんだい?」
「惚れた弱みと言いますか・・・まぁ、先代にはお世話になりましたからねぇ。
御恩も返さなければ行けませんし・・・」
「そうでげすな・・・」
ありゃ、この話題を振ったのは失敗だったかな?
ズラビスとトンカラの顔が急に作り笑いっぽいのに変わってしまった。
「そ・そっか~!まぁ、人にはそれぞれ事情があるよな。
余計な事を聞いてしまってスマンな」
「いいえ、気にしないで下さい!」
「そ・そう言えばさぁ、ルザクの町で商売って言っていたけど危なくないのか?
ほら、先代の名将エルリック・ルザク伯爵が歳で引退しただろ。
今のルザク伯爵は、前回の第5次ルザク戦役ではパッとしなかった様だし、ルザクが落ちる様な事も考えられないか?」
父さんが命を落とした第5次ルザク戦役。
先代のルザク伯爵が病で倒れ、長男が後を引き継いで戦争をした訳だが、表向きは引き分けとなっているが、戦術面では負けと言っていい内容だった。
父さんを死なせた戦いで指揮を執っていた現ルザク伯爵。
俺が伯爵を信じられないのも無理がない。
「まぁ、英雄の卵もいるから心配ないと思いますよ!」
「英雄の卵?」
なんだそりゃ?
それって美味しい?
「英雄の卵とは、先代のルザク伯爵の次男デュック殿の事で御座います。
英雄殿は知りませんか?」
「あぁ、済まないが全く・・・」
「ダメですよ!こう云う情報をしっかりと掴んでおかないと」
「ス・スイマセン・・・」
うぅ、無知でゴメンなさい。
「デュック・ルザク殿は現ルザク伯爵とは年の離れた腹違いの弟でして、ハーフエルフだそうです!」
「ハーフエルフか!」
「そうです!名将の血とエルフ特有の良い所を全て受け継いだ人物であるらしく、去年、騎士学校を首席で卒業し、戦術面や剣の腕は特に秀でていると事です。
精霊術は、魔力が豊富で聖・風・火の何とトリプル!」
「え!トリプルかよ」
「そうです!しかもエルフの血のお陰で神秘的な美貌もお持ちとかで女性にモテモテだそうです。
ん~、悔しい!羨ましい!」
「うげ~、マジかよ!」
「マジです!だからこそ英雄の卵と言われているのです。
今年からルザク騎士団副団長として就任したそうなので、後は実戦で力を示していけば近いうちに英雄と呼ばれる様になるでしょうな。
将来は鉄壁殿と共にリの国を背負って立つ期待の英雄の卵なのですよ」
「お・俺はそんな器じゃねぇよ!」
「いいえ、貴方は稀代の英雄と言われる人物となるでしょう・・・私はそう思います」
「いやいやいや、勘弁してくれよ!」
「まぁ、話は少しそれましたが、英雄の卵もいらっしゃるので、戦争が起きても今のところ心配する要素はあまりないのですよ」
「なるほどねぇ~!」
英雄の卵か~、食べ物じゃなかったのね・・・
それにしても、戦争が近いかもしれないと聞いて焦ったけど、ズラビスが言う通り心配は無さそうだな。
まぁ、それでもあまり長居はしないですぐにマナの洞窟に向かうとしよう。
巻き込まれるのは勘弁だからな。
ズラビズとトンカラと話す夜が更けて行く。
彼らとこうやって話す機会もルザクに着くまでであろう。
せっかく親しくなったが別れはすぐやって来る。
城塞都市ルザクまでもう少し・・・
次回『第112話:城塞都市ルザク』をお楽しみに~^^ノ